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公開日:2022年06月07日

値上げの現場
花王―戦略的値上げで収益性向上なるか
シニアエキスパート 舩木龍三


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 花王が主力商品の値上げを発表した。原材料の高騰を吸収するためである。

 同社の2021年度の決算は増収減益となった。営業利益は1,435億円で、前期比321億円の減益。このうち原油やパルプ、パーム油などの原材料価格の高騰が160億円を占めた。

 2022年度も原材料価格高騰の影響は110億円を見込み、約80億円を値上げで吸収する予定であったが、その後、原材料価格の高騰からくる影響を300~400億円に見直した。

 トイレタリー業界で値上げをすることは珍しい。現在のところ、P&Gユニ・チャームライオンは追随しておらず、値上げの計画は公表されていない。

 スーパーマーケットのオーケーは1月末、花王の一部製品145品目を販売中止した(顧客の要望があれば再取扱い予定)。

 このような中で花王は、どのような値上げ戦略を考えているのか。


戦略的値上げ 四つの施策

 花王は今回の値上げを「戦略的値上げ」とし、四つの施策を打ち出した。

  1. 単純値上げ(出荷価格値上げ)
    ベビー用紙おむつの「メリーズ」がこれにあたり、約10%の値上げである。定番価格が現在の1,280円から1,380円となる。花王では、仮に5~10%売上が下がっても、その分を中国で補おうという決断だ。ただし、販促価格については検討中である。
  2. ダウンサイジング(リニューアルをともなう)
    衣料用洗剤「アタックZERO(ゼロ)」である。価格水準を維持すると同時に内容量を5%削減した。漂白剤や天日干しでは除去が難しい臭いの原因菌に対応するなど、機能を強化した付加価値製品である。
  3. 販促費の効率化
    利益率の高い付加価値商品の販促強化策である。
    例えば、住居用洗剤「バスマジックリン エアジェット」。こすらずに風呂掃除ができるという商品で、通常商品の「バスマジックリン」より利益率が高い。こうした付加価値商品の構成比を高めていく。
  4. 販促のデジタル化
    店頭のPOPなどをデジタル化していく。
    ヘアカラーの「リーゼ」では、色見本として毛束サンプルを設置していたが、これを廃止し、スマホアプリで髪の色をみられるようにした。デジタル化でコスト削減を図っていく。

図表

 花王の営業は、担当バイヤーに対してではなく、商品部長に提案をしているようである。花王の考えを商品部長に理解してもらってから商談をしている。チャネル別売上構成比の高いドラッグストアチェーンでは、どこも花王がトップシェアである。これまでも年間計画を社長や商品部長に説明する機会を設けてきた。花王の強みとしては、小売企業ごとに商品構成の提案ができる直販体制である。

 ドラッグストアとの話はまとまりやすいとしている(販社社長)。


競合他社のスタンス

ユニ・チャーム

 「商品ミックスの改善と、売上の増加によって吸収する計画にしている。ユニ・チャームの特徴は新製品や、リニューアル品のタイミングで価値とともに価格を上げ、流通にとっても、もちろん消費者にとっても満足度が上がるように取り組んでいる。例えば食品業界のような単純値上げは、今のところ予算には入れていない」(2021年度決算説明会Q&A:2021年度は増収増益)

 2022年度も増収増益を見込んでいる。原材料費の高騰は174億円、物流費高止まりなどによるコストアップを新価値提案により市場牽引、収益拡大をする目論見である。

 高原社長は日用品や食品の値上げに動く他社とは一線を画す考えである。「短期的に目先の利益が取れたとしても、ブランド価値を毀損し、ボディーブローのように消費者が逃げていく(時事ドットコム 2022年3月22日付)」という。

ライオン

 掬川社長は「この数年、特売で粗利を減らしてもメリットがないという認識が広がった(日本経済新聞 2022年3月4日付)」という。競合から棚を奪うことは考えず、付加価値の高い商品の販売に注力する。

 「毎日使う生活必需品の単価が、原材料価格のアップダウンに応じて目まぐるしく上昇したり下降したりするのは好ましくはない(時事ドットコム 2022年3月14日付)」。原油など原材料の高騰で、今期の利益は60億円程度減少予想だが、「現時点では出荷価格などの具体的な値上げの計画は持っていない」という(3月時点)。

 海外では値上げを実施している。

P&G

 国内では値上げの動きがない。

 しかし、北米やアジアでは値上げに踏み切った。コスト高を吸収するため、2021年9月におむつや生理用品、12月には家庭用液体洗剤を、22年4月には主力分野のパーソナルケア用品も値上げした。2021年10~12月期決算は、純利益が前年同期比10%増の42億2,300万ドル(約4,800億円)だった。幅広い商品で値上げし、素材価格や輸送費の上昇による影響を吸収した。


 以上のように、競合他社は少なくとも国内では、値上げをしない模様である。あくまでコストダウンと付加価値商品による高額品へのシフトをすすめる方針だ。


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特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


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