眼のつけどころ

市場脱皮期の富裕層開拓マーケティング
―価格差別化戦略

2021.06.08 代表取締役社長 松田久一

本コンテンツは、2021年2月に公開した「市場『アップダウン』期のマーケティング戦略―コロナ後、消費の反発力はどこへ向かう?」に加筆・修正を加えたものです。
顧客のセグメントについてより具体的に解説しているので、既に読まれた方もぜひ再読ください。

01

「上へ参ります、下へ参ります。閉まるドアにお気をつけ下さい。」

 「次は地獄に止まります」("Elevator Girl", BABYMETALより)。不謹慎ながらコロナ禍の消費市場対応の実感だ。対応を誤ればリストラの「地獄」行きだ。

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 立地のいい都心高級マンション、高級鮨屋、高級焼き肉屋、「星」のある高級レストラン、高級白物家電は「玉不足」、高級輸入車などが伸びている。ノートパソコンの売上の勢いは衰えない。高級エステ、会員制ジムなどの「密な」対人サービスも十分なコロナ対策が浸透し予約待ちの状況だ。ワンランクアップの「高級」が付くものが売れている。30年ぶりの株高も加わり、「バブル」消費の再来を思い起こさせる。これらのワンランクアップの市場は「上へ」と昇っていく。

 他方で、都内ホテルはインバウンド客を失い、稼働率は30%以下とも言われ危機的状況にある。単身者向けのワンルームマンションは売れない。外食レストランや大手のトレーニングジムはおよそ40%の減益。スーツやワイシャツを着る機会が激減し、クリーニング店は苦境に喘ぐ。これらの市場は「下へ」と降りていく。

 個々の市場の変化は、「コロナ禍とポストコロナ」の「転換期」に生まれ、個別市場は、めまぐるしく「アップダウン」し、トレンドが読めない「エレベーター」のような市場だ。

 転換期におかれている2021年の市場を、昇降する「エレベーター」のような「市場衰退期」の「脱皮期」(後述)と予測する。見えてきた下期のアフターコロナに向けて、品質差別化のマーケティングを提案したい。

02

拡大する収入資産格差と階層社会

 なぜ市場はアップダウンするのか。それは個別市場が基盤とする顧客が違い、その顧客の収入資産格差が拡大し、予算制約が変わったからだ。収入資産が増えた層は、より多くの数量や品質の高いものを購入しようとする。しかし、収入資産が減少した層は、より少なくより低価格のものを購入しようとする。つまり、市場を構成する層と購買力の変化によって、アップダウンが生まれている。特に、資産格差よりも、家計費に直結する収入格差に着目すべきだ。

 個々の市場の急激なアップダウンの差は、コロナ禍で進んだ階層格差の拡大スピードの加速化の結果だ。富裕層が増え、中流層が減少し、下流層が増え、「ダイヤモンド社会」となっている(図表1)。

図表1.中流社会からダイヤモンド社会へ
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 コロナ禍は、この10年の「アベノミクス」下で生じた階層格差をさらに拡大させた。この動きがグローバル経済の動きであり、ここで少し整理してみる。

 失われた30年の経済問題とされるデフレを回避する日本銀行の異次元金融緩和で、実需拡大による適切なインフレには向かわず、余剰資本は、株と土地に流入し、株高と地価の上昇を招き、資産格差が拡大した。コロナで経営実績は減収減益でも、株価は上昇する。この意味で株価の上昇は実体性を欠く、バブルだが、世界的に余ったマネーの受け皿は株や債権などのリスク資産しかない。コロナで需要減少した石油などの商品には向かわない。

 日本の地価は、テレワークの増加などでビジネス物件への需要が減少し、下がると思われたが実際は下がらない。出社率が10%といわれる都心の昼間人口は極端に減少した。従って、ビルのビジネス向け賃貸は低下傾向にある。しかし、大きく下がらないのは、東京の地価を、2桁成長する金融資産1億円以上の富裕人口が支えているからだ。

 この層の東京への流入と需要が強いので土地の利回りは、ニューヨークやシンガポールを上回り、東京が世界でもっとも高い。都心の15億円物件が即決される理由だ。これを支えているのが、異次元金融緩和と円安という国際協調の経済環境だ。

 アベノミクス下での大手企業の最適戦略は、国内市場を「キャッシュ・カウ(現金牛)」[1]に見立て、円安を利用した輸出市場の拡大と、低金利を生かした海外企業のM&Aによる海外市場シフトだ。

 長引く経済低迷を下支えする金融緩和と、円安が是認されるグローバルな経済環境が、階層分解を進めた。もはや適切なインフレとは無関係に金融緩和はやめられない。この条件は、基軸通貨国であるポストトランプ=バイデン政権下でも継続されている。

 収入資産格差の背景となっている異次元金融緩和と円安は、ほとんど変わらない。従って、土地と株への資本流入による資産増加は、さらなる格差拡大をもたらすことは言うまでもない。

03

収入資産で変わる生活行動の差が急激なアップダウンを生む

 

 コロナ禍による収入減少層は、生活に必要なコストを収入と帳尻が合うように削減しようとする。他方で、収入や資産が増加した層は生活コストを機会費用[2]として捉え、寧ろ、機会利益を拡大しようとする。

 機会費用とは、何らかの損失や利得を得られると予想できる時間給(収入)に換算して算出する金額である。1,000万円と300万円の年収で機会費用を比較する。年間労働時間を約2,000時間とすると、1時間の機会費用はそれぞれ5,000円と1,500円になる。宅内の掃除をする場合、外部で1時間2,000円の家事代行サービスをお願いすると、1,000万円の収入層は3,000円(=5,000円-2,000円)の機会利益が得られる。一方、300万円層は500円(=1,500円-2,000円)の機会損失になる。この場合は、自分で掃除をした方が経済合理的だ。

 様々な個別市場で激しい市場興亡が生まれている。

 コロナで収入が減少し、都心賃貸を維持できなくなった層が近隣県へと転出していく。他方で、株高などで見込み収入が増加した層、昇進や昇格で収入が上昇した層は、テレワークのためにもうひと部屋を確保できる便利な都心立地のマンションへと転居する。

 料飲店も自粛不況のなかで興亡が激しくなっている。

 内食が増え、家事負担が大きくなるのでデリバリー利用が増える。そのデリバリーも参入が相次ぎ、競争が激化している。他方で、コロナ対応がしっかりした、「ミシュラン」などの「星」を持つレストランは予約で満杯だ。外出機会が減って、化粧機会も減るが、化粧代が減少した分、インポートブランドの高級化粧品やマスクが売れている。外出着が減ってルームウエアやカジュアル着の購入機会が増え、コロナ対策のしっかりしたインポートブランドの招待催事が賑わっている。大きくなった家事負担を軽減する白物家電が人気となり、家事時間を減らす家事代行、特に、コロナ防疫対策をする家事サービスも増えている。共働きを前提とする香港やシンガポールなどの防疫対策をとったメイドサービスも関心が高い。

 すべての個別市場で、1世帯当たり平均30万円をめぐる競争の興亡は激しさを増している。何かが減れば何かが増える、という構図だ。商品と商品の補完関係、依存関係や代替関係は、より複雑化している。

 個別市場の基礎にある生活行動の動きを、見定めることが大切だ。テレワークで都心の間取りの多いマンションへの特需が生まれ、衣類のクリーニングサービスが激減し、ホテルがサービスアパートメント化するなどは、生活のミクロな行動を見ない限り想定できない。

04

市場「脱皮期」の市場の選択と提供価値の再定義

 収入の格差が拡大し、生活行動が変わり、製品サービスに対するニーズが変化する。この変化により、企業の製品サービスの買い手とそのニーズと機能が変わる。それは自社の提供する価値の定義が変わるということだ。

 急激な市場のアップダウンは、提供価値が変わる市場の衰退期の現象だ。マーケティングの本質は、顧客に何を提供するか(What)を定義することである(眼のつけどころ「時代を貫くプロ・マーケティング」参照)。

 製品には、生物と同じように、ライフサイクル(寿命)があるという捉え方がある。T.レヴィットが、マーケティングとして1965年に提唱した概念である。「大成功した製品の歴史を時系列に追っていくと、いずれも共通の段階を経ていることに気づく」。それは、導入期、成長期、成熟期、そして衰退期という4段階があり、この段階ごとに、収益の鍵が異なるので、製品やブランドマネジャーは、マーケティング戦略を変えるべきだ、というものである。

 レヴィットは、すべての製品やブランドが、運命のようにS字カーブ=ロジスティック曲線[3]に従うとは言っていない。製品やブランドマネジャーは、戦略転換を、市場導入からの「製品ライフサイクル」のように時間軸で考えるべきだと言っている。つまり、自社の製品やブランドが、次にどんな市場段階を迎えるかを予測することが大事だ。

 市場が個々のセグメントでアップダウンする中では、どのような市場段階かを予測することで次の戦略が見えてくる。

 市場が長期間成長せず、市場の寡占化が進み、シェアが安定している。これは明らかに「市場の衰退期」である。しかし、それに加えて、市場を構成する個々のセグメントの成長がアップダウンするというのは、市場が根本的に変化し、市場を構成する顧客セグメントとニーズが変わる「市場脱皮期」(戦後の代表的財界人である永野重雄の言)=「脱成熟期」(J.アバナシー)であることを示すものである。

 これを供給サイドから見れば、他社に先がけ、自社の提供する価値を再定義する必要がある。誰のどんなニーズ(機能)を提供するのかを見直し、新しい顧客セグメントと機能を深掘りする段階だ。この論文では、企業が提供する価値、品質、価格を言い換えているがこれは視座は異なるが同義とする。

 先に引用したBABYMETALを例にとれば、2020年は「10 BABYMETAL YEARS」になる。誕生からおよそ10年である。この間のコンセプトは「Metal Resistance」であり、「第1章」から「第10章」までのライブパフォーマンスを展開している。2021年は、「Metal Resistance」の最終章であり、厳重なコロナ対策のもとで武道館での10回のライブ「10 BABYMETAL BUDOKAN」が無事開催された(筆者はすべての10ライブに「参戦」。近々、「『世界制覇』を実現するBABYMETALのビジネス戦略 - Queen of Metal-PopのMSP」で詳述予定)。

 何を言いたいのか。Metalという明らかに衰退する世界市場でBABYMETALは果敢な脱皮戦略をとってきた。しかも、各章ごとにリニューアルを展開し、パフォーマンス(品質)を上げて、市場を拡大してきた。次の段階は「Living Legend」が表明されている。

 日本の多くの消費財メーカーは、ほとんどが衰退市場で30年以上の長寿ブランドを持っている。

 衰退市場とは、売上成長率が人口成長率程度にしかならない市場のことだ。現在の国内ならマイナス成長。これらの成熟の次にくる衰退市場の戦略は、脱皮戦略である。顧客とニーズという市場を見直し、提供価値を変えることだ。この衰退期の市場の脱皮段階では、もはや、「家電は家電ではない」、「車は車ではない」、「シャンプーはシャンプーではない」、「加工食品は加工食品ではない」、「新聞は新聞ではない」、「GMSはGMSではない」。つまり、脱皮段階の製品市場は、顧客とニーズが変わるので、新しく定義し直す必要がある。

 市場衰退下の脱皮期は、事業の再定義と市場の選択をする必要がある。「エレベーター」市場は、そのことを教えてくれている。

05

「コロナバブルを潰す」Netflixの値上げ戦略に学ぶ

 コロナで成長した動画配信サービスも、もはや市場成長期ではない、市場脱皮期に入っている。それを如実に物語っているのは、Netflixの値上げ戦略だ。

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 コロナ禍での成功神話をつくった企業のひとつがNetflixだ。国内の有料会員数は500万人超となった(報道)。U-NEXTやHuluの倍である。恐らく、国内動画配信サービス市場の会員数の約30%近いシェアを持っているのではないかと推察できる。大ヒットした「鬼滅の刃」も同社の配信の影響が大きい。世界での年間会員数の増加は3,400万人である。

 同社は日本での動画配信サービスのスタンダードプランを月額1,320円から1,490円に約13%値上げした(2021年2月)。この狙いは何か。

 報道発表されている内容では、国内制作に力を入れるためとされている。しかし、需要の価格弾力性は高いとみることができるので、会員数は13%以上減るのではないかと予想される。従って、収益は改善されずに制作予算が増えるとは思えない。

 少々、分析してみると同社は敢えてコロナバブルで膨らんだ会員を絞り込もうとしているのではないか、と思える。利用率や視聴率の低い会員は、サービス満足度が低くなる。

 従って、コロナバブルが終焉すれば、会員離れが生じ、良質なコンテンツが制作投入できなくなって、マイナスのスパイラルに陥る危険性がある。それよりも、コンテンツに満足し、継続利用をしてくれる層を拡大した方が長期収益につながると判断したようだ。

 Netflixのコンテンツは圧倒的に海外制作が多い。動画は字幕が付くと需要が減り、満足度も低くなる。しかし、日本産コンテンツも、「今際の国のアリス」(山﨑賢人・土屋太鳳W主演)のように、同社ヒットコンテンツのベスト10に食い込むものが出てきている。全世界で1,800万世帯に視聴された。潤沢な資金とハリウッド手法を持ち込めば、アニメなどを基軸に高品質なコンテンツが制作できるとみているようだ。

 コロナバブルで膨張した会員を値上げで絞り込み、その層=セグメントを基軸に、自社制作の良質なコンテンツ体験で差別化し、市場の寡占化を進めていく狙いだ。これは、配信中心のU-NEXTや国内市場向けコンテンツに制限されるHuluでは追撃できない。

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市場脱皮期の成功の鍵は顧客セグメントの再設定

 Netflixの事例を取り上げたのは、アップダウン市場への対応を学ぶためである。Netflixの値上げは、顧客を区分することになる。対価に見合うコンテンツサービスがあると知覚する顧客は継続する。他方で、見合わないとみなす顧客は解約する。

 つまり、値上げによって、顧客はセグメント(区分)される。

 このセグメントによって、自社のコンテンツの品質に対価を支払う「コア顧客」を識別できる。そして、このコア顧客に対して、より喜んでいただけるコンテンツを投入し、満足度、継続利用や自社への好意を高めることができる。

 また、解約した会員の分析を通じて、顧客を拡大するための不満、継続加入条件を発見することができる。これも自社のコンテンツサービスの改善に繋げることができる。

 Netflixは、値上げによって、顧客を価格でセグメントし、それぞれのセグメントに最適化し、まずはコア顧客の継続利用を確立し、次の顧客層の拡大への課題を掴むことができる。

 Netflixの戦略は、値上げによって顧客層を絞り込み、他社中心から自社中心のコンテンツに変えて動画配信することだ。これは、市場衰退期を見据えた事業の再定義と市場の選択だ。

 よくある「中価格ブランドの崩壊」のメーカー事例を考えてみる。

 需要がシュリンクする市場衰退期に、ライバルメーカーによって、品質の違う低価格品が投入される。低価格品が導入されると、大手小売業だけでなく、シェアを拡大しつつあるネット流通も、新たな機会と脅威とみて、低価格競争に走りやすい。対面販売ではなく、販売サービスに差がないので、ブランドと低価格でしか競争できないからだ。価格で購入する層は顧客の30%だ。この動きに引きずられて、在庫リスクを持つ小売流通段階で、需要の中心である中価格帯市場の値引き競争が始まる。中価格帯の値崩れは、残りの70%の消費者の価格と品質への信頼感を失わせ、長期的には需要が減少する。こうして長年築きあげた中価格帯のブランドが崩壊する。

07

顧客セグメントによる価格(品質)差別化戦略

 アップダウンする市場脱皮期で打つべき戦略は、市場を再定義することから始まる。市場の再定義は、実務的には、顧客層とニーズ(機能)の2次元の空間で市場を捉えることだ。それには、顧客層(セグメント)とニーズ(機能)の軸を決めることだ。

 通常は、業界の常識に従う。ビール市場ならば、顧客層は飲用量などの飲用頻度を利用し、ニーズは、ビールや新ジャンルなどの製品タイプ、味の好み、などを用いて市場を定義する。この際、価格帯を用いるのもひとつの手だ。欧米のホテル市場は、セレブなどの利用クラスとラグジュアリーなどのホテルタイプで捉えられている。

 顧客層については、顧客の人口統計的属性、価値観や意識などの心理特性、そして、当該市場の利用状況などを駆使して、市場を、社会的な客観基準によって理解し、自社に有利な区分基準を見つけることだ。世代やライフステージは、この条件を多分に備えている。

 ネット購入でのアクセスログのような分析では不十分だ。データサイエンスで活用する「アップリフト分析」などは、短期的なネットパフォーマンスの改善には向いているが、オペレーションレベルの対応しかできない。

 顧客のセグメントには、社会集団を基礎にした基準をもとに、十分な時間とコストを投入すべきだ。安易なセグメントなら、しない方がいい。

 ここでは、収入に基づく富裕層の成長が注目できるので、単純化し、高収入層と中収入層の二層にする。

 ニーズについては、支払い価格、つまり、品質への対価で顧客をセグメントする。商品の価格が変動し、売上やシェアに変化が生じるのは、市場が割れる「筋」(区分基準)が現れたということだ。市場を価格で割ること(区分すること)ができるのかは、「希望支払価格(Willingness To Pay =WTP)」[4]をベースに、需要曲線を描くことによって識別できる。これまでの一本の需要曲線で描かれた線が、価格弾力性の異なる線に分割できれば、価格による市場のセグメントが可能になる(図表2)。

図表2.セグメントによる価格差別化
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 その上で、それぞれのセグメントはどんなWTPを持っているかを明らかにする。

 WTPが高いということは、収入などの経済条件に加え、製品サービスに期待する機能、ベネフィット、価値が大きいということだ。上記のケースでは、同一製品のアイスでも、高価格受容セグメントは196円、低価格受容セグメントでは152円である。差は44円もある。この支払い価格の差が、品質、価値の差になる。

 この差を生んでいる製品サービスの機能、ベネフィット、価値を解明すれば、衰退市場の脱皮期の提供価値をどう再定義すればいいかが解明できる。これには、消費者の質的調査などを活用し、「価値マップ」手法などで理解する。これで、顧客層×WTPの市場の背後にある価値を理解し、市場を再理解、再定義することができる。

 明らかに市場はWTPでふたつの価格(価値)セグメントに分かれる。「ハイエンド」と「ローエンド」にしておく。

 すると、ひとつの市場を四つのセグメントに再構成して捉えることができる。仮に、これまでは、この成熟市場を、すべてのセグメントに、ひとつの品質の市場として捉えていたとすると、市場は新たに再定義され、再理解されたことになる。多くの日本人の平均的な価値観である平等意識にあった「オーバオールセグメント・同一品質戦略」である。実際、日本のロングセラーブランドは、すべてのセグメントに同一品質対応の戦略をとっている。

 さて、新たに再構成された市場にどんな戦略をとるべきか。(1)従来どおりの同一品質戦略を維持し刈り取りする、(2)ライバルの動きを待って後手必殺戦略をとる、(3)価格(品質)差別化戦略をとる、の三つである。この三つの戦略については、それぞれのコスト-ベスフィット分析を比較検討すべきである。アフターコロナは急速な収入格差や消費反発が起こると予想されるので、ここでは先手必勝で価格差別化戦略をとることにする。

 市場を構成するセグメントごとに、市場の成長性などの魅力度と自社-他社の競争地位を確認し、セグメントごとに標準戦略(刈り取り、見極め、投資、撤退)をシミュレーションし、キャッシュフローの改善を計算する(図表3)。

図表3.市場再定義による価格差別化戦略
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 市場脱皮期には、再構成された市場のなかで、成長する顧客層を重点に、品質、すなわち、提供価値をどう変えていくかが重要になる。つまり、高収入層-ハイエンドセグメントへの品質の差別化対応である。

 現状の「オーバオールセグメント・同一品質戦略」と比較して、顧客の満足度を高め、収益性を改善でき、技術的に可能という条件を満たせば、価格、品質、提供価値を再定義して、品質差別化戦略をとる。

 つまり、製品の価格帯を品質に応じてふたつのラインに分けて、高価格帯をサブブランディングして投入し、価格差別化戦略をとる。それが最適戦略である。この戦略の必要条件は、WTPで差があっても、価格差を裏打ちするリアルな品質差別化が実体化できることである。実体的な品質が変わらないならば、顧客に「割高」と見なされ見放される。

 Netflixの場合は、コア顧客を値上げでセグメントし、Netflixブランドの自前コンテンツという新しい価値を提供し、アフターコロナの市場衰退期の脱皮期に備えたということだ。

 市場が衰退し、脱皮期をもたらしているのは、長期的な観点からの社会の再階層化である。そして、再階層化の時代のマーケティングは、成長する富裕層市場への確かな品質差別化を通じた市場の再定義である。

【注釈】

  • [1] Cash Cowは、事業ポートフォリオマネジメント(BPM:Business Portfolio Management)の中で、市場成長率が低く、相対シェアが高い「金のなる木」と呼ばれる。多くのキャッシュ(お金)をひねり出すことができる。通常、投資をせずに現在のシェアを維持する「刈り取り」戦略がとられる。
  • [2] あるものを得るために手放した別の経済価値を指す。ある行動を行うことで、そのほかの行動は断念することになる。代替案がもたらしたはずの収益は失われる。活動の代償=費用ととらえる考え方。
  • [3] 人口増加や生物の増殖過程を近似的に表す微分方程式。新商品やサービスなどの普及も、この曲線を描くといわれている。飽和状態にほど遠い段階では加速度的に増加し、飽和状態に近づくと増加率が減少し、飽和点に漸進的に近づく。(小学館「デジタル大辞泉」などより)
  • [4] 同じ機能や役割を持った同質的な商品サービスでも、収入によって「支払意思価格(WTP)」が異なる。「よいものを安く」の単一価格戦略だと、企業にとっては機会ロスになる。

【参考文献】