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公開日:2024年03月13日

なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか
ケース分析チーム

1. 大幅業績ダウンからの復活

 日本マクドナルドホールディングス株式会社が発表した2023年の業績は、全店売上高が7,777億円で営業利益が408億円とともに過去最高を更新した。

 他のハンバーガーチェーンの業績を整理してみると、モスバーガーを展開する株式会社モスフードサービスは「想定を上回る仕入れコストの大幅な上昇や海外事業での減損もあり、最終赤字となった」(2023年3月期決算説明会)としている。株式会社ロッテホールディングスが展開していたロッテリアは、2023年4月に株式会社ゼンショーホールディングスに買収された。

 マクドナルドは、2014年に起きた使用期限切れ鶏肉問題や、2015年に起きた異物混入問題で商品の品質に対する信頼が失われ、業績を大幅に悪化させた。そこから約10年で脅威のV字回復を遂げた要因を、ハンバーガー市場の競争状況の変化とマクドナルドのマーケティング戦略の観点から明らかにしていく。



2. ハンバーガー業界における競争の激化

 ハンバーガー市場で起きている大きな変化は六つある。

(1) 価格競争から価値競争への転換

 モスバーガーは定番商品の「モスバーガー」の2倍近い価格の「一頭買い 黒毛和牛バーガー」を期間限定で販売し、特別な一日を彩るご褒美バーガーとして他との差別化を図った。

 ドムドムハンバーガーを運営する株式会社ドムドムフードサービスは、黒毛和牛100%パティを使ったプレミアムバーガーメインの新業態「ドムドムハンバーガーPLUS」を銀座3丁目にオープン。カツカレー発祥の店である老舗洋食店の銀座スイスとコラボした「カツカレーバーガー」など高付加価値なバーガーメニューを展開している。

 ウェンディーズ・ファーストキッチンは、高級バーガーとして、刻んだ黒トリュフソースと白トリュフオイルを使用し、ウェンディーズの冬の新定番マッシュルームメルトと合わせた商品を発売。セット価格が2,000円以上となる高級バーガーで非日常の体験を提供。

 1,000円~2,000円の価格帯のハンバーガーも珍しくなく、各社はいかに高付加価値なメニューで顧客を満足させられるかが新たな競争の軸となってきている。

(2) ファストフード店から飲食店への転換

 マクドナルドは2018年から「夜マック」を全国の店舗で展開している。夜ご飯としてしっかりと食事をとりたい人や、家族や友人とワイワイ楽しみたい人をターゲットに「倍バーガー」や「ポテナゲ特大」などボリュームのある時間帯限定商品を提供している。

 モスバーガーも、「ディナータイムにモスを選んでいただきたい」という想いのもと、"ちょっと贅沢なライスバーガー"として「夜モス」を展開していた。

 大人がくつろげるバーガーカフェをコンセプトとしたフレッシュネスバーガーは、夜のサードプレイス(居心地の良い場所)として、カフェ利用はもちろん、気軽にビールと夜限定のメニューが楽しめる「ヨルカフェ」のサービスを全国の店舗にて実施。

 ファストフードとしてランチタイムや間食での小腹満たしとして食べられていたハンバーガーが、夜ご飯として消費者の生活シーンに進出してきている。

(3) 海外勢の日本上陸が進む

 2015年11月、ニューヨークで人気のハンバーガーショップ「シェイクシャック」が日本1号店をオープンし、「ハンバーガー界のスタバ」とも呼ばれ店舗を増やした。

 2023年10月には韓国No.1のバーガー&チキンブランド「MOM'S TOUCH」が海外初のポップアップストアを渋谷にオープンした。事前予約数は数日で満席となり、当日来場者も行列となる人気をみせた。

 台湾朝食専門店の「wanna manna」では、台湾朝食・ブランチのトップブランド「麥味登(マイウェイダン)」とのコラボレーション企画として、麥味登で人気のハンバーガー6種類を期間限定で販売した。麥味登は台北で誕生し現在は823店舗を展開する台湾トップのチェーン店である。

 韓国や台湾など、アジア圏の人気ブランドの日本上陸が進んでいる。

(4) 飲食店とファストフード店を掛け合わせた新時代の食事提供企業の登場

 2023年4月、ロッテリアが株式会社ロッテホールディングスから株式会社ゼンショーホールディングス に売却された。同年9月には「ロッテリア」の進化形店舗として「ゼッテリア」の1号店を東京都内で開業し、着々とその数を増やしている。ゼッテリアの特徴は、ロッテリアの看板商品である「絶品バーガー」シリーズとフェアトレードのコーヒーを中心としたメニュー展開にある。また、チーズはゼンショーグループの独自調達でゼッテリアの専用品として開発し、ゼンショーグループの食材調達網を活用している。ロッテリアのファストフードチェーンのノウハウと、ゼンショーの飲食店事業のノウハウを融合した新時代の食事提供企業としてハンバーガーチェーンに影響を与えている。

(5) 消費者の買い方の変化

 2020年以降、フードデリバリーサービスの利用が浸透してきており、消費者との接点も変わってきている。デリバリーニーズの高まりにあわせて急激に店舗を増やしているハンバーガーチェーンのひとつとして「バーガーキング」が挙げられる。それまで全売上に占めるデリバリー率が5%未満だったのが20%超となり、現在も維持している。

 持ち帰り専門として日本1号店をオープンして以来、テイクアウトに強かったマクドナルドも、2019年末に257点だった自社の宅配サービス「マックデリバリー」の対応店舗数を2023年12月には998店舗まで拡大している。Uber Eatsや出前館といったフードデリバリーサービスでの配達店舗数も合わせると、合計2,239店舗がデリバリーに対応している。

 これまではテイクアウトか店内飲食などで「買いに行く・食べに行く」ことが主な接点だったが、デリバリーが増えたことで「自宅に届ける」という新たな消費者との接点の開発が進んでいる。

(6) 売り手の脅威の拡大

 昨今では原材料価格の高騰や人件費、物流費、エネルギーコストの上昇などによってさまざまな業界で値上げが進んでおり、ハンバーガー業界もそのひとつとなっている。

 ハンバーガーバンズの原料である小麦粉は世界的な干ばつによる生産量の減少や物流費の上昇などと連動し、値上がりが進んでいる。ハンバーガーパティの原料である牛肉も、エサとなる牧草が干ばつの影響で不足しており、生産が落ち込んでいる。

図表1.ハンバーガーチェーンを巡る競争

図表1.ハンバーガーチェーンを巡る競争

 コロナ禍で持ち帰りやデリバリー需要に対応することで好調に推移したハンバーガー業界は、「ファストフード」から「食事」へ価値の転換をおこない、高付加価値メニューやデリバリーサービスの展開による高単価化が進んでおり、一昔前の価格競争から、価値の競争へ変わってきている。

 ファストフード事業のままでは生き残れない状況になってきているこの業界で、マクドナルドが食事提供事業として提供価値をどのように転換してきたかを分析していく。





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