
新型コロナウイルス一色に染まってしまった今年の上半期。2月頃からザワザワし始め、3月に入り、なんかヤバいんじゃない?と危機感を覚えたのも束の間、4月には緊急事態宣言が発令。日本も例外なくパンデミックに飲み込まれ、東京の繁華街からは嘘のように人が消えました。
その様子を顕著に伝える場所として、多くのテレビ局が放送し始めたのが、渋谷のスクランブル交差点の映像。『今日の渋谷スクランブル交差点は人並みもまばらです...』。そんな風に、同じ場所が毎日映し出されるものだから、渋谷の街がどんどん寂しくなっていく様子が手に取るようにわかり、ついには、その日の歩行者の人数まで数えられるようになっていました。でも、そんな珍しい渋谷の風景に驚いたのは最初のうちだけ。しばらくすると、さすがに見慣れて、ほとんど気にも留めなくなりましたが...。
一方で、嫌というほど見せられるうちに、渋谷スクランブル交差点という場所は、どんなに再開発が進もうとも、渋谷にとっては不動の存在なのだと実感したのも事実です。少し前まではインバウンドがワンサカ集まり、交差点のど真ん中に立ち止まっては写真や動画を撮っていた大人気の撮影スポットだったのに、コロナの影響で、今はそういったインバウンドはほぼ皆無。しかし、世界中で知られる「世界で最も有名な交差点」であることには違いないので、渋谷=スクランブル交差点という図式は、どんな時代になろうと、どんな状況になろうとも変わることなく、今でも確固たる渋谷のシンボルとして君臨しているのだということにも気づかされました。
1960年代半ば、経済成長と交通網の整備のおかげで、いち早く百貨店を開業した新宿や銀座は瞬く間に商業地として賑わうようになりました。しかし、谷あいの小さな街だった渋谷は、百貨店が誕生するまで素通りされていたといいます。
そんな渋谷に、最初に百貨店を開業したのが「丸井渋谷店」(1967年)。次いで「東急百貨店」(同年)、「西武百貨店」(1968年)。わずか1、2年の間に三つの百貨店が開業したことで、渋谷は一気にお買い物タウンへと飛躍したのです。さらに、「渋谷パルコ」(1973年)の誕生でセンター街に若者が集まるようになったのを機に、駅前の交差点がスクランブル化し、この時から渋谷は流行発信地としてのブランドを確立させたのです。
約50年に渡り、街の歴史を見守り続けてきたスクランブル交差点。ことに、スクランブル交差点から延びる渋谷センター街や若者のファッションビル「109」を自分たちの遊び場にしてしまったアムラー、子ギャル、ヤマンバ、チーマーなどの存在は、昭和・平成の歴史を語るうえでは欠かせないカルチャーといえます。
今、渋谷は大規模な再開発プロジェクトが進行中です。
2012年、「渋谷ヒカリエ」が誕生した時は、本気で渋谷を大人の街にしようとしてるな...と感じたのを覚えています。続けて、「渋谷キャスト」「渋谷ストリーム」など、ニョキニョキと建設された高層ビル群は、どれも若者たちの居場所を避けるように誕生。それはまるで、『スクランブル交差点周辺は、どうぞそのまま若者たちの遊び場にしてください。その代わり、それ以外の場所は、オシャレでカッコいい大人の渋谷にさせていただきますね』と、ビル群が若者たちを窘めているかのようにさえみえます。
そんな大人な渋谷を真正面からコンセプトにしているのが「渋谷フクラス」。2019年に渋谷駅西口の「東急プラザ渋谷」跡地に誕生した複合施設です。「東急プラザ渋谷」も、2階から8階に入居。閉館から4年8ヶ月を経て復活しました。商業施設ゾーンを手掛けたのは、世界的デザイナーの森田恭通氏。ターゲットは"都会派で感度が高い成熟した大人たち"。狙いは完全に大人です。
このビルの目玉は、なんといっても「SHIBU NIWA」と名付られた17階のルーフトップガーデン。無料で出入りできる展望スペースです。敷地内にハイセンスなカフェバーを有するこの屋上から、若者が闊歩するスクランブル交差点を見下ろせば、自分がちょっぴり余裕のある大人に思えるかもしれません。さらに、1階のバスターミナルでは、一般路線バスに加え、羽田・成田空港にアクセスできる空港リムジンバスの運行もスタート。グローバルワーカーな大人たちをも引き寄せています。

今回訪ねた街はコチラ!
著者プロフィール
赤沢奈穂子
放送作家。
日本脚本家連盟、日本放送作家協会会員。
コピーライターから放送作家に転身後、日本テレビ「11PM」でデビュー。番組における最初で最後の女性作家に。テレビ、ラジオ、イベントなど数々の番組等に関わり、1993年渡米。NY、イスラエル、ロンドンでの約7年の居住を経て帰国。その後は、番組構成をはじめ、雑誌ライター、書籍の執筆、イベント運営など、幅広く活動している。既婚。2児の母。東郷奈穂子名義でも活躍中。
コピーライター作品「フルムーン旅行」
放送作家作品「テレビ東京/出没!アド街ック天国」ほか
近著に、萩谷慧悟ダイビングフォトブック「HORIZON」(2021)、「Azure Blue」(2022)、小西成弥フォトブック「treasure」(2022)など
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参照コンテンツ
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