かつて徒歩や人力車等、移動手段が制限されていた人々は、鉄道の誕生により、「移動の自由」を手に入れた。その後、マイカー元年(1966年)にトヨタ・カローラ、日産・サニーが発売されたことを皮切りに、今度は「移動の自在化」が可能になった。以降、自動車の利用者数は鉄道のそれを抜き、人々はロードサイドのレストランや総合スーパー、レジャー施設、地方の観光スポット等、好きな場所へ好きな時間に自由自在に移動するようになった。
しかし近年、世代交代を背景に、自動車から鉄道への逆流が見られる。自動車や運転に興味関心がなく、鉄道で移動しながらネットや会話、食事、買い物を楽しむ世代が増えてきている。
2014年の国内新車販売台数(登録車+軽自動車)は504万台だった。586万台だったバブル真っただ中の1990年と比べると、14%も減少している。2008年のリーマンショック以降、エコカー減税やエコカー補助金等、さまざまな政策により需要が下支えされてきたが、長期的に見れば国内新車市場はシュリンクしている。直近の動向を見ると、持続的 に減少している登録車(1990年の456万台から2014年の286万台に減少)に加え、好調だった軽自動車が、軽自動車税の増税の影響で2015年4月は前年同期比で23%の減少となった。今後、2017年の消費税増税の影響により業界ではさらなる販売台数の減少が見込まれている。
国内新車販売台数の長期縮小の原因は、人口や収入の減少だけではない。1990年と比べて2014年の人口(15歳以上)が10%増、収入(1世帯当たり平均所得金額)が10%減だが、これだけでは14%もの減少分を説明できないのだ。
実は、大きな原因は世代交代にある。世代とは、「同年代生まれの集団が、心理、道徳の発達段階や同じ社会的な役割を担うライフサイクル期に、社会的節目となるような同時代体験をすることによって、同質的な価値観や考え方が共有され、独自な社会現象を生む社会集団」のことである。国内では「バブル後世代」(1979~1983年生まれ)以降、収入に見合った支出をしない嫌消費世代(少子化世代:1984~1988年生まれ、ゆとり世代:1989~1993年生まれ)に変わり、自動車・AV機器等の家電製品離れが進んだ。たとえば20代の消費を見ると、自動車の平均購入数量は1980年に1,000世帯当たり96台だったのが2010年には56台に半減、テレビは同時期に61台から43台に減少している。
嫌消費世代が自動車を買わないのは、現行の車種が彼らの欲する機能やスペック、コストにあわないからだけではない。自動車への欲望そのものがないからである。当社の調査では、自動車の必要度(生活になくてはならない)、購入意向ともに、バブル後世代以降、急速に低下していることが確認できる。この差は、年代よりも世代の方が大きい(図表1)。
シリーズ「移動」のマーケティング
- なぜ駅はスゴイのか?-変わる駅の役割と新たなビジネスチャンス
- 変わる家族と駅の役割
- 世代交代で変わる鉄道と駅の役割
- 消費のホットスポットとしての駅
- 移動の起点・終点としての駅
- ビッグデータの宝庫「駅」でのビッグデータ利用を阻むもの
- ネットワークと駅
- なぜこうなった?これからどうなる?駅ナカ
- 観光日本のゲートウェイ「駅」
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