新型コロナウイルスの感染拡大によって、価値観やライフスタイルが変化し、余暇活動、食生活、購買行動などにも影響が及んでいます。セッション2では、調査結果からこのような生活者の変化について紹介したいと思います。
価値観とライフスタイルについて注目すべきことは、アイデンティティへのこだわりが強くなってきているということです。この思いに、どのように応えるかというのがポイントになっていきます。当社の消費者調査の結果をみると、人々のコロナに対するリスク意識は非常に高いです。コロナに対して、非常に危機を感じると答えた人の割合は、44%でした。
多くの人は自主的に自粛生活を送るようになりました。コロナに関して、自分の感染を避けたいという人は89%、人に感染させたくないという人も同数の89%です(図表1)。9割近くの人が、このように感じているわけです。
図表1.人付き合いの疎遠化
一方、感染防止行動として、マスクを付けると答えた人は94%でした。また他者との対面接触が大きく減り、非対面の接触が増えています。
それによって、人との絆が弱まっていると感じる人が半数近くいます。反動として、人とのつながりを大切にしたいという意識が強まっていることもわかりました。また、絆が弱まっていると感じている人ほど、自分らしさにこだわりたいと答えています。自分らしさというのは、人と会ったり、話をしたりする中で認識できるものです。人との接触が少なくなり、他者から承認されたり、共感したりという機会が減りました。そういった状況になって、自分のポジションや役割などを問い直すことが起こっているようです。中長期的にもこうしたアイデンティティ意識が強まっていくことが価値観の傾向としてあげられます。
さらに、長期的に変化している価値意識に、性別役割分業の意識があります。家事を専業主婦が行い、夫が働きに出るという従来からのスタイルに対する意識が変わってきています。人々の意識をみてみると、共働きを前提とした自立型の職住近接型というスタイルが志向されていく傾向があります。65%が職住接近で、共働きという家族のスタイルを志向しています。
また、これまでは大半の人が持ち家を志向していました。しかし、特に10~30代の若い世代では、持ち家にこだわらない人たちが増えています。
次は、コロナによって短期的に強まったとみられる住まいへのニーズについてみていきます。在宅勤務が増えたことで、住まいへの不満が増えています。住宅を選ぶ際の重視するポイントをみてみると、1番ウエイトが高いのが「居住価値」です。これは、換気や防音、日当たりなど、快適に暮らしたいというニーズです。住宅の換気性能や日当たりの良さ、防音、遮音、医療機関が近くにかるかなどの周辺環境などを多くの人が重要視しています。
また、100万人以上の都市に住みたいという人が多いのも事実です。コロナの拡大で、テレワークが増え、東京から転出する人が増加するのではという見方もありますが、当社の調査結果では、東京に流入したいという割合のほうが上回っています。そのため、世代交代を伴いながら、都市型の職住近接自立ファミリーというスタイルが増えていくのではないかということができます。
次は、消費と余暇についてです。外出自粛や営業時間短縮などコロナの影響が広がり、消費の回復はまだ鈍い動きが続いています。ここからは今後、どんな層が消費を牽引していくか、どんな消費が伸びていくかについて、みてみたいと思います。
世帯支出の増加意向が高いのは、10代20代の学生と、金融資産残高が5,000万円以上の富裕層です。このふたつの層は、コロナが拡大する中で「低リスク層」と言い換えることができます。若い世代は、健康リスクが低いです。また、富裕層は、経済的なリスクが低いということができます。全体的には堅実な消費意識が台頭していますが、このふたつの層はこれからの消費をリードしていくのではないでしょうか。
また、消費の楽しさが見直され始めています。現在、最も代表的な消費意識は、消費はよいものだというポジティブな「美徳消費」です。
美徳消費の中身をみると、人を応援するためにお金を使いたいや、家族や友人を喜ばせるためにお金を使いたいなどでした。つまり、これはアイデンティティ消費ともいえます。消費を通じて、自分の価値観を表したり、人を喜ばせて自分の存在価値を感じるといったアイデンティティ欲求のための消費です。また、美徳消費に次いで代表的な意識である衝動消費は、消費に対する非常に前向きな意識が表れています。
美徳消費の意識が高いのは、世帯年収金額が800万円以上の層です。衝動消費については、10代20代の若い層が多いです。
総務省のデータから、今年は家計黒字が顕著に増えています。ニュースなどでは、給付金が貯蓄に回ったともいわれています。これは、消費が先送りされて、潜在購買力が高まっていると解釈できます。
この潜在購買力は、どこへ向かうのでしょうか。調べてみると、経験財支出へ向かっているようです。経験財とは、旅行やコンサートなどです。富裕層は今後、旅行に対して支出を増やしたいという人の割合が高いです。コンサートについては、10代20代のリオ世代の特に女性が増やしたいとしています。
経験財とは、実際に消費をして、初めてその価値や品質がわかる商品やサービスのことを指します。旅行やライブなど不要不急の消費への欲求は、消えたわけではありません。先送りされた消費の出口として、これらの経験財支出への欲求が高まっています。
働き方と余暇には、どのような変化が起こっているでしょうか。顕著に増加しているのが在宅勤務です。2020年2月以降、4割もの人が在宅勤務を経験しています(図表2)。家の中での時間が増えたことで、余暇の中身も変わってきています。余暇に何を行ったかという質問に対して、最も多かった回答は「動画コンテンツ鑑賞」でした。次いで、テレビ・ラジオの視聴、SNSと続きました。巣ごもり生活をいかに快適に過ごすかというものばかりです。
図表2.在宅勤務で増える余暇時間と宅内余暇
多くの人はコロナの影響で、本来やりたかったことを控えています。そのため、余暇の満足度は、非常に低くなっています。満足していると答えているのは、4人に1人です。
今後増やしたい余暇活動として、突出して高いのは国内旅行でした。また、現状の余暇に満足していると答えた人の中で、これから増やしたい余暇活動として2番目に動画コンテンツ視聴が挙がっています。今後も動画コンテンツに対してはニーズが高そうです。動画コンテンツは10代20代で特に増えていますが、50代60代までの全ての年代で増えています。
これらの共通点は、経験価値が高いということです。商品そのものというよりは、その消費を通して得られる満足感や感動といった充足を得ることを目的としています。
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特集:コロナ禍の消費を読む
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参照コンテンツ
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