ネクスト戦略ワークショップ 講演録

コロナな時代のプラットフォームマーケティング

2020.11.20 代表取締役社長 松田久一

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本コンテンツは、2020年11月5日に開催したワークショップでの講演に加筆・修正を加えたものです。

 新型コロナウイルス感染症が世界的に広がった2020年を、私たちは「コロナな時代」と定義しました。緊急事態宣言や営業時間短縮、テレワークの推奨などによって、人々の生活スタイルが変化し、中小企業だけでなく大企業の業績にも影響を及ぼしています。こういった状況の中で、どんなマーケティング施策を展開していくべきなのか、会社を持続させていくために必要なことは何かについてご案内します。

01

コロナな時代を区分する

 まず、この「コロナな時代」の変化を三つに区分したいと思います。毎年発刊している消費社会白書のために、消費者調査を行っています。これまでの流れに、今年はコロナが突然ぶつかってきました。この歴史的変化を受けて、短期波動と中期波動、長期波動というものが出てきます(図表1)。

図表1 2020年の消費 ― コロナな時代
図表

 短期波動は、政府が提唱するニューノーマルの動きです。社会的距離をとって、マスクを着用し、手洗いを行うといったものです。その結果として、巣ごもり消費が増えました。ソニーなどが好業績となり、動画配信サービスNetflixの加入者も増加しました。さらに、自宅で食事を取る機会も増えました。これは、短期的な変化です。

 この反動として起こってくることが中期波動です。これまで抑圧されていた不要不急の消費に目が向くようになります。この不要不急の消費は、家計消費の約25%ほどです。それが今ありません。ある程度は食費に回っていると考えられます。さらに、貯蓄に回っている部分もあります。つまり、消費は延期され、潜在購買力が高まっています。これが、GoToキャンペーンなどに回り、盛り上がっているわけです。

 一方、長期波動は、5年、10年という長いスパンで見たときの変化です。社会的距離政策で、これまで自分を承認してくれた人がいなくなり、「自分は何なのか」(アイデンティティ)といったことを各自が問わざるを得なくなりました。

 もうひとつは、自立ファミリーが志向されるようになっていることです。コロナの拡大で、郊外持ち家で、男性が外で働き、女性が専業主婦をするというスタイルへと戻るのではというふうに思われていますが、調査では逆の結果となりました。自身のアイデンティティを問い直したり、不要不急の消費が回復していったりする中で、それぞれが生きがいを感じるような消費を志向していくのではないでしょうか。

 さらに、「食」です。いわゆる一汁三菜の和食メニューから、もう少しくだけた感じのカジュアル和食に変わっていく流れがあります。これまで、専業主婦の人たちを中心に惣菜や冷凍食品を使うことに対して罪悪感が存在していました。それが、コロナという衝撃が生まれ、家で食べる食事が増えたことで、薄まってきています。これも長期波動といえるのではないでしょうか(図表2)。

図表2 コロナな時代を読む ― 短期・中期・長期波動
図表

 短期、中期、長期の波動によって、これまで行ってきたマーケティングの方法を変える必要があります。短期に対しては、即応する必要があります。中期に対しては、2~3年かけて応じていくことが求められます。一方、長期には構造的に対応していく必要があります。

02

企業が対応すべき基本三柱

 このような中で現在、多くの企業がコロナによる変化にどう対応するべきか苦しんでいます。まさに存続の危機です。これを乗り切るには、「セグメント」「ブランディング」「マーケティングチャネル」といったマーケティングの基本三柱に注力することが大切です。この三つが、見事にミックスされている企業が今、伸びているところです(図表3)。

図表3 持続的存続の鍵 ― マーケティングの「基本三柱」
図表

 セグメントとは、市場をどう区分しているかということです。それから、何を売るか。これはブランドという形で現れます。どこでというのがチャネルになります。ここでいうマーケティングチャネルというのは、自分たちと一緒にやってくれるチャネルのメンバーと仕事をするということです。ここでもうひとつ重要になってくるのが、コミュニケーションです。

 これらの三つの柱をうまく組み合わせているのが、株式時価総額1兆円の日清食品です。この企業は、ブランド戦略、セグメント、チャネルの力、それぞれが非常にうまくいっています。1970年代にスタートした日清の「どん兵衛」は、80年代にはアイテムをどんどん増やします。例えばカレーうどんや肉うどんなどです。さらに、具でマルチアイテム化します。さらに、東と西で微妙に味を変えています。セグメントをどのように展開するかというのを、うまく考えているといえます。

 ですが、90年代はいろんなものを発売し、失敗します。そして2000年代には、カレーうどんをリニューアルの柱に据え、マルチブランド化させます。結果として市場を圧倒的に包囲するようなアイテム配置となりました。今でも商品をリニューアルし続けています。これは、日清の「ブランドに寿命はない」という考え方に基づくものです。

 そういう意味では、コーポレートブランドをうまく作り上げています。非常にテクニックが要求される市場の包囲をしています。そうすると、他社はなかなか入れません。さらに、消費者が飽きないように常にリニューアルを行っています。この包囲によって、流通に対しても支配力が生まれます。商品によるチャネルの切り分けも可能になります。この成功事例は、ブランド力を強化し、設定したセグメントごとにブランディングして、チャネルとの関係を強化することが重要だということを現しています。