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公開日:2023年06月01日

月例消費レポート 2023年5月号
消費は足踏み状態となっている-マインド改善と支出切り詰めとの綱引きが今後の消費の鍵に
主任研究員 菅野 守

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 足許で支出全般の伸びはマイナスとなり、特に実質での悪影響が目立っている。

 日常生活財では改善が続いている一方、耐久財では分野間で好不調の格差が引き続き鮮明であり、消費は足踏み状態となっている。

 雇用環境は悪化の動きが続いているが、収入環境とマインドは改善基調にあり、消費を支える環境条件は底堅さを保っている。

 値上げの悪影響は食料や家事・家具用品などで根強いが、そのインパクトは和らぎつつある。輸入物価や企業物価の勢いはともに弱まり続けている。財では消費者物価の上昇は鈍化傾向にある反面、サービスでは上昇傾向が続いている。

 ただし、2023年4月の日銀金融政策決定会合で金融政策の現状維持が出されたのを機に円安の動きが再加速しており、円安方向への揺り戻しが今後更なる値上げを誘発する可能性がある。

 ゴールデンウィーク辺りを境に旅行や外食などを筆頭に消費回復の動きが出始めており、マインド改善も消費回復を後押ししつつある。他方で、新たな値上げに備えて、支出を切り詰め貯蓄を増やす層も出てくる。

 マインド改善層と支出切り詰め層との間での綱引きが、今後の消費の行方を左右するだろう。

 JMR消費INDEXは2023年3月に73.3へと、2ヶ月連続で低下している(図表1)。

 INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、3月は、支出関連3指標のうち、平均消費性向と預貯金の2指標が改善している。販売関連では、改善が10指標中7指標と前月よりも1指標分(具体的には家具・インテリア売上)だけ減っている(図表2)。

 消費支出の伸びは、名目では10ヶ月ぶり、実質では3ヶ月ぶりにマイナスに落ち込んでいる(図表4)。

 10大費目別では、3月は名目ではプラスが7費目となりプラスの側が優勢だが、実質では5費目となりプラスとマイナスが拮抗している(図表5)。

 家具・家事用品と食料の2費目は前月同様、名目の伸びはプラスだが実質の伸びはマイナスである。この2費目では名目と実質の伸びの差が引き続き顕著であり、値上げの悪影響が続いている(図表5)。

 物価の動きに着目すると、輸入物価の伸びは2022年9月以降、一貫して低下が続いている。国内企業物価の伸びも低下が続いている。他方、消費者物価の伸びは、2023年2月から3月にかけて横ばいとなっている(図表6)。

 財・サービス別に消費者物価の伸びの推移をみると、サービスでは2022年8月以降、物価の伸びは上昇を続けている。他方、財では2023年2月以降、低下が続いている(図表7)。

 販売現場では、小売業全体の売上は息長くプラスが続いている。チャネル別でも、2023年3月は主な6業態中、家電大型専門店を除く5業態でプラスとなっている(図表11図表12)。

 外食売上は、全体で16ヶ月連続のプラスであり、業態別でも3業態全てで13ヶ月連続のプラスである(図表20)。

 新車販売は、2023年4月時点で、乗用車(普通+小型)と軽乗用車ともに4ヶ月連続のプラスである(図表13)。

 他方、家電製品出荷については、黒物家電と情報家電は総じてマイナスである。白物家電も、ルームエアコンを除き概ねマイナスである(図表14図表15図表16)。

 新設住宅着工戸数は、全体では2023年2月以降、2ヶ月連続のマイナスである。利用関係別では、分譲住宅・マンションは4ヶ月連続でプラスだが、持家と分譲住宅・一戸建てはマイナスが続いている(図表17)。

 分譲住宅・マンションについては、首都圏はプラスに転じたが、近畿圏とその他はマイナスに転じ、中部圏は2ヶ月連続のマイナスとなっている(図表19)。

 雇用環境について、有効求人倍率は3ヶ月連続で低下し、失業率は2ヶ月連続で上昇するなど、悪化の動きが続いている(図表8)。

 収入は、現金給与総額、所定内給与額、超過給与額ともに15ヶ月連続のプラスである(図表9)。

 消費マインドについて、景気ウォッチャー現状判断DIは2ヶ月連続で、消費者態度指数は3ヶ月連続で上昇を続けている((図表10)。

 総合すると、消費は足踏み状態となっている。

 消費支出など支出全般の伸びはマイナスとなっており、特に実質での悪影響が目立っている。10大費目別でも、実質ではプラスとマイナスが拮抗する状態まで押し戻されている。

 小売販売や外食などの日常生活財では改善が続いているが、耐久財では分野間で好不調の格差が引き続き鮮明である。

 雇用環境では悪化の動きが続いてはいるが、収入環境は改善基調を保ち、マインドも改善の動きが続いており、消費を支える環境条件は底堅さを保っている。

 値上げの悪影響は、食料や家事・家具用品などで根強く残っているが、そのインパクトは和らぎつつある。輸入物価や企業物価の勢いはともに弱まり続けている。財では消費者物価の上昇は鈍化傾向にある反面、サービスでは依然として上昇傾向が続いている。

 2023年3月下旬以降、円ドル為替レートは円安基調に転じ、2023年4月27日~28日開催の日銀金融政策決定会合にて金融政策の現状維持の決定が出されたことで、円安の動きが再加速している。足許の円安方向への揺り戻しは今後、更なる値上げを誘発する可能性がある。

 一部報道では、今年のゴールデンウィークの国内旅行関連の需要はコロナ前の8~9割の水準まで回復した、との情報が観光庁より示されている。外食でもコロナ5類移行を機に需要回復の進展への期待感が高まっているなど、ゴールデンウィーク辺りを境に消費回復の動きが出始めている。足許のマインド改善の効果も、消費回復を後押ししつつあるようだ。

 他方で、将来予想される新たな値上げの動きに備えて、現在の支出を切り詰めて将来への貯蓄を増やす層も中には出てくるだろう。

 マインド改善で消費回復を牽引する層と値上げで支出切り詰めに走る層のどちらが優勢となるか、この2層の間での綱引きが今後の消費の行方を左右することとなろう。


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特集:2022年、値上げをどう乗り切るか

特集1.値上げの価格戦略

特集2.値上げが企業の収益に与えるインパクトを分析

特集3.消費者は値上げをどう受け止めたのか?


   

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