ここでは、サクセスマーケティングの参考事例をご紹介します。
海外の事例としてウォルマート、シャーク、日本の事例としてヤクルト、恵比寿ガーデンプレイス、カルディ、3COINSをご紹介します。
初めに、二階建てセグメンテーションについて取り上げます。
現在、収入の格差が広がっており、意識としても実態としても、分断している構造が確認されました。イメージとしては、年収400万円を境に、高所得である2階の住民と低所得である1階の住民に分かれていくと考えてください。
企業は、今後市場がどのように動くのか、どちらを顧客にしていくかを検討する必要があります。中でも1階の住民をみると、新しい低収入層に向けた事業や低価格ライン等、様々なことを検討しなければいけない段階にあります。
階層化にいち早く対応して成長したウォルマートの事例を取り上げます。
まず、アメリカでどのように階層化が進んできたのかを図で確認すると、中所得層が40年間で大きく減少しています。約60%だったボリュームが47%に減少しました。
減った中所得層がどこに向かったのかをみると、ひとつは低所得層です。1980年代後半ぐらいから低所得層が増えはじめ、リーマンショックを境にさらに増えています。結果として、1,700万世帯から2,300万世帯へ大幅に増加しています。一方、年収10万ドル以上の高所得層も増え、20%から36%と大幅に増えています。
日本よりもいち早く階層化が進み、上と下とに分断した社会階層の変化にうまく対応したのが、ウォルマートです。
その戦略は三つあります。
ひとつ目は地方の低所得層に焦点を当てていったことです。
ウォルマートが創業した1962年当時、多くの小売業は多くの顧客を確保するため、大都市の中間層をターゲットに進出しました。しかしウォルマートは、地方の1万人ほどの商圏で、年収3万ドル以下の人たちにフォーカスを当てました。
このことは、当時の小売業では非常に珍しいことでしたが、理由のひとつとして、ウォルマートの本社があるアーカンソー州が、アメリカの州の中でも1位、2位を争うほど貧困率が高く、平均所得4万ドル以下の人たちが大変多いという立地特性、顧客特性があげられます。ここから低収入層に集中するという判断が生まれたと考えられます。
ふたつ目は、低収入層の買い物ニーズに対して深掘りした、様々なチャネルを開発したことです。最初はディスカウントストア、いわゆる耐久消費財を安価に提供するセルフサービスのお店としてスタートしましたが、その次に出したのがスーパーセンターです。
スーパーセンターとは、ディスカウントストアに食品を加えた業態で、これにより、低収入層の人たちが食品から日用品、耐久消費財まで、ワンストップで買えるようになりました。
三つ目は、メーカーとの直接取引です。後発参入だったために通常の卸やブローカーを使えず、メーカーと直接の取引をすることがウォルマートの大きな特性でした。全国にある約4,000店舗のバイイングパワーを生かして、メーカーと有利な形で取り組みをし、規模の経済を達成していきます。これが成功のポイントになっています。
今では、売り上げは約70兆円にのぼり、従業員も全米1位の約68万人です。トヨタで36万人、イオンで14万人なので、非常に多くの従業員を抱えています。地方ではウォルマートで働き、ウォルマートで消費するという生活圏を作り出しています。
アメリカの人口の90%が、ウォルマートに約1マイル以内でアクセスできるほどの店舗があるそうです。商圏における人口カバー率が約90%あるので、それを生かして、商品を顧客の家の冷蔵庫まで届けたり、その商圏における小売の配送サービスを手がけたりして、ますます低所得層に対する深掘り、密着度を高めようとしていることが見て取れます。
「感情社会の生活イノベーション」パートで、ロープライスチャネルに注目しました。日本でも業務用スーパーが1,000店を超え、激安スーパーやディスカウントストア等、様々なものが出てきています。
二階建てセグメンテーションの中で、1階と2階どちらに対応していくのか、低収入層にどう対応していくのかがこれから求められます。
ふたつ目が、生活イノベーション商品開発です。ダイソンキラーと呼ばれるシャークを取り上げます。
日本の消費者は、コロナや値上げ、マウンティング消費など、生活者の行動やニーズがどんどん変わり続けています。それをいち早く捉えて、イノベーションを起こしていくことが重要です。
ここで取り上げるシャークは、消費者の新しい動きをいち早くキャッチし、ダイソンでは解決できなかったニーズに対応することで、ダイソンに肉薄しています。
最初に出したハンディータイプの掃除機がサメの形をしていたので、シャークという名前になったようですが、2016年から17年ぐらいにかけて、ダイソンを上回るシェアを獲得しました。
そのシャークが、2018年に日本に上陸しました。日本の掃除機市場は約400万台で、ほぼ横ばいの成熟市場です。あえて参入する理由のひとつ目として、日本法人シャークニンジャのゴードン・トム社長は、「日本での販売台数はアメリカの40%だが、単価が2倍だから」(PRESIDENT 2018年10月1日号)だと答えています。
具体的には、日本の掃除機市場の平均単価は約2万4,000円で、アメリカ人からすると、なぜ掃除機にそこまで払うのか理解できないそうです。台数は少ないが、単価が高い、そして単独世帯が増えているという点で魅力的な市場として捉えたようです。
二つ目は、訪問調査や店頭観察を通じて、日本の消費者の細かいニーズを発見していったことです。中でも、ダイソンにも対応できない様々な不満やニーズが蓄積しているということを発見しています。
三つ目は、高層マンションの居住者が増えていることやコロナで在宅時間が増えたことにより、気付いたときにすぐ使えるコードレススティックが成長していたことも理由でした。
最終的には、日本は世界でも特に品質に厳しい国民性を持っている点や、清潔性に厳しいことから、この日本で満足できる商品が作れれば、生産ラインの品質や商品の水準が上がり、世界で満足される商品が作れるのではないかと考え、この成熟市場に参入しました。
ところが、実際に試作品をいくつかの日本の家庭に試してみたところ、最初は評価が低かったようです。結局アメリカで売っていた商品をダウンサイズしただけのもので、うまくいきませんでした。理由を調べるため、アメリカから開発者が日本へ家庭訪問に来ました。約50世帯、6週間にわたる調査で、単独世帯や主婦等、様々人たちの掃除行動を見て、色々なことを発見していきます。
例えば、日本人は掃除の頻度が週に5~6回と、アメリカ人の週1~2回と比較して多いことです。また、細かいごみを非常に気にします。髪の毛や、ペットの毛、猫砂等、細かいごみが取れるかどうかを非常に重視している国だということがわかります。
頻度が多い分、わざわざ掃除機を取り出したりしまったりすることを非常に手間に感じていること、掃除機の掃除まですること、脚の短い家具が多いためにわざわざしゃがんで掃除していること等、色々なことを発見します。
そして、次のような考えに至ります。どうも日本人は細かいごみに対して、すぐ取りたいのに取れないことへの罪悪感があるのではないか。掃除に対して非常に面倒を感じているのではないかということです。罪悪感や面倒から解放してあげて、もっと掃除を楽しいものに変えていこう、掃除を快感に変えていこう、というのがシャークのコンセプトだったそうです。
「感情社会の生活イノベーション」で、シン・家電、エンタメ家事についてご案内しましたが、同じ家事でも楽しんでやろうというニーズを、リアルな日本の消費者の観察を通じて発見したのです。
シャークがやったことはふたつあります。
ひとつは、ダイソンが弱いセグメントを突いて、反転攻勢に出たということです。ターゲットとしたのはダイソンが弱かった単独世帯です。色々なところを簡単なもので掃除したいというニーズに対応したのが「EVO POWER」という商品です。これが省スペース・ハイパワーで、一気に首位に立ちます。家庭を持ちマンションに住んでいる人たちにも着目しました。日本の観察の中で、お母さんが赤ちゃんを抱えながら掃除をしていたことから着想を得たもので、片手で隅々までさっと掃除できる「EVO POWER System」を開発していきます。
ふたつは、既存製品の不満に注目し、清掃力と操作性を強みに、ダイソンに勝って市場獲得をしていったことです。既存のサイクロン掃除機は、吸塵力が売りですが、どうしても取れないものがあったり、ヘッドと床が密着しなかったり、高音域のモーターなので不快感がある、大きい、重い、直進しかできない、家具の下を掃除するのにしゃがむ必要があるなど、色々な不満が感じられていたようです。
シャークは、大きなブラシにフィンを付けました。これによって、細かい毛をかき出していく。ヘッドに重心を置いて床に密着し、重低音でごみ取りが実感できるセンサーを付けながら、吸引力よりも清掃力ということを訴求します。
さらに、ダイソンより小型、軽量で、マルチに動くサスペンションや、ハンディー部が切り離せたり、パイプが曲がったり、しゃがまずソファの下が掃除できたりという狭い家での操作性を持たせました。
こうして、掃除を面倒から快感に変えていくということを実現し、ダイソンに迫っていきます。最近は、ダイソンのほうが逆にミーツー商品を出していて、このブラシをまねたようなスクリュータイプのものを出す等、日本の掃除機市場で台風の目になっているのが、このシャークです。
参照コンテンツ
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