半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:2022年12月22日

「消費社会白書2023」より
感情社会の生活イノベーション
消費研究チーム


全文の閲覧には有料の会員登録が必要です。
登録済みの方はこちらからログインして全文をご利用ください。

分断社会の到来

 20年世代をベースとした大きな時代変化の流れの中、2023年という時代の断面として、社会と消費の現在の姿がどう見えてくるのか。「消費社会白書2023 感情社会の生活イノベーション」の内容をもとに、消費の今を、以下の八つの断面で示していきます。


図表


 まず階層化の進展と分断社会の到来についてです。

 継続調査の結果をもとに個人年収金額の分布の推移を見ると、2005年時点ではピラミッドの形状をしていたものが、時間の経過とともに上から2段目の層が細くなり、一方で一番上の層と一番下の層が厚くなる、砂時計の構造に変わりつつあります。


図表


 日本の社会構造に関する現状認識も、この砂時計のような分断社会といわれるものが32%、将来予想でみても36%となっており、最も多くなっています。分断社会が到来するという認識・見通しが優勢となっていることがわかります。

 分断社会の到来を背景として、価値観と消費の潮流に関して注目すべき点を、次の四つの断面で示していきます。


「感情保守」の台頭

 断面のひとつ目が、「感情保守」の意識の台頭です。価値観に関する因子分析結果をみると、第1軸には「あたたかな家庭や社会をつくりたい」「他人同士でも助け合える人間関係をつくりたい」「義理や人情を大切にしたい」「自分の国や民族の文化を守りたい」という意識を総括したものが表れています。

 私たちは今回、この意識を「感情保守」と名付けており、これは現在を代表する価値観になっています。この「感情保守」の根幹にあるのは、社会に広く受け入れられてきた一般道徳や規範を大事にしたい、守りたいという情緒的な保守の空気のようなものです。


図表


 この「感情保守」は、上の世代になるほど強くなる傾向があります。加えて、階層が上の層ほど、収入が上の層ほど、また階層意識が上の層ほど強くなる傾向が見られます。

 「感情保守」が現在の代表的価値観として台頭している背景として、大切なものへの喪失感が「感情保守」の意識を刺激していることが考えられます。「今の世の中、何か大切なものが失われている気がする」という喪失感が、50~60代の高齢層で特に強くなっています。

 こうした喪失感が強くなるほど、「感情保守」の意識が強まる傾向も確認できています。大切なものが失われていくことへの漠然とした危機感が、情緒的な保守の空気といわれる「感情保守」の意識を刺激していると示唆されます。


消費マインドの凍結

 断面のふたつ目は、消費マインドについてです。消費者にとって、将来の見通しは不透明なものとなっています。1年後の収入の見通しに関して「増えていない」と答えている層が76%と、大勢を占めています。次に多いのが「わからない」で13%です。「増えている」「やや増えている」を合わせても11%余りで、「わからない」を上回っています。

 消費者のマインドは今も冷え込んだままです。今後の消費について、支出全般、個別のカテゴリーいずれでみても、「増やしたい」という意向が全くみられない「消費凍結層」の割合が65%と、過半数を占めています。

 こうしたマインドの凍結傾向は、収入見通しが不安定で不透明であるほど強くなることが確認できています。


値上げが及ぼす悪影響

 断面の三つ目は、値上げの動きが消費に与えるインパクトについてです。値上げの動きは、収入見通しや支出意欲に悪影響を及ぼしています。1年後の物価見通しに関して「上がっている」「やや上がっている」を合わせた割合は7割を占めています。こうした物価上昇の認識や見通しが強いほど収入減少見通しも強くなり、支出意向でも減少が強まることが確認できています。

 こうした値上げの動きが、収入見通しの悪化や支出意向の減退という形で、消費にデフレインパクトをもたらしていることが示唆されます。


図表


 値上げの動きは、消費意識の面でも大きな影響を及ぼします。消費意識の項目で、賛成率が50%を超える7項目のうち、チェックマークが付いている項目が、堅実な消費意識を反映したものになっています。

 こうした堅実な消費意識といわれるものは、収入が下の層ほど強く、物価の上昇見通しが強いほど、強くなる傾向も確認できています。今後、値上げの動きが進むにつれ、下位層を中心にしてさらに強まり、定着していくことが考えられます。


上位層が主導する「マウンティング消費」

 断面の四つ目として、注目すべきもうひとつの動きが「マウンティング消費」です。消費意識に関する因子分析結果をみると、第1軸には、「他人に自慢できるような商品や店を選びたい」「他人よりもワンランク上のものを買いたい」という意識が表れています。

 私たちはこれを「顕示消費」と名付けており、これが現在の代表的な消費意識となっています。これは別名「見せびらかし消費」とも呼ばれます。消費行動を通じて他人に自慢したい、出し抜きたい、優越性を示したいというマウンティングの姿勢が顕著となっています。


図表


 この意識は、収入が高い層ほど、階層意識が上の層ほど強くなる傾向も確認できています。上位層が下位層に対してマウンティングを取る、見せびらかしの消費行動をするという意識は、今後も上位層を中心にして主導されていくものと考えられます。


 ここまで、今の時代を捉える八つの断面のうち、価値観や消費意識を中心に四つを紹介しました。ここからは、そうした意識を背景としながら進んでいる、生活のイノベーションについて、四つの観点から説明します。


続きを読む
「内食中心が続く夕食と加工内食の拡がり」

続きを読むには有料の会員登録が必要です。


参照コンテンツ


おすすめ新着記事



J-marketingをもっと活用するために
無料で読める豊富なコンテンツプレミアム会員サービス戦略ケースの教科書Online


お知らせ

2024.03.25

当社合田執筆の「猛スピードのクルマはいらない」 これからの高齢化社会に必要な“まちづくり”とは何か? そのヒントは欧米になかった!」がメルクマールに掲載されました。

新着記事

2024.07.26

消費者調査データ 炭酸飲料(2024年7月版)  首位「コカ・コーラ」、迫る「三ツ矢サイダー」、高い再購入意向の無糖炭酸水

2024.07.25

24年5月の「広告売上高」は、6ヶ月ぶりのプラス

2024.07.24

24年5月の「旅行業者取扱高」は19年比で72%に

2024.07.23

24年5月の「商業動態統計調査」は2ヶ月連続のプラス

2024.07.22

企業活動分析 キユーピー株式会社 23年11月期は海外など好調で増収も原材料高騰で2桁減益に

2024.07.22

企業活動分析 カゴメ株式会社 23年12月期は引き続き海外事業がけん引し増収増益に

2024.07.19

企業活動分析 ライオン株式会社(2023年12月期) 増収も土地譲渡益の反動等で減益に

2024.07.19

企業活動分析 ユニリーバ(Unilever)(2023年12月期) 減収減益、事業部門の業績格差受け、新成長戦略を修正へ

2024.07.19

24年6月の「景気の先行き判断」は3ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.07.18

24年6月の「景気の現状判断」は4ヶ月連続で50ポイント割れに

2024.07.17

MNEXT 円安は歓迎すべきかー過熱する円安論争

2024.07.16

企業活動分析 山崎製パン株式会社 23年12月期は大幅な増収増益で過去最高益に

2024.07.12

消費者調査データ スポーツドリンク・熱中症対策飲料(2024年7月版) 首位「ポカリスエット」、追い上げる「アクエリアス」

2024.07.11

24年5月の「消費支出」はふたたびマイナスに

2024.07.10

24年5月の「家計収入」は20ヶ月ぶりのプラス

2024.07.09

24年4月の「現金給与総額」は28ヶ月連続プラス、「所定外労働時間」はマイナス続く

2024.07.08

企業活動分析 大塚HD 23年12月期は売上は過去最高を記録、医療事業の減損損失で減益に

2024.07.08

企業活動分析 小林製薬の23年12月期は、R&Dや宣伝広告への積極投資を行い増収減益に

2024.07.05

成長市場を探せ 初の6,000億円超え、猛暑に伸びるアイスクリーム(2024年)

週間アクセスランキング

1位 2017.09.19

MNEXT 眼のつけどころ なぜ日本の若者はインスタに走り、世界の若者はタトゥーを入れるのか?

2位 2024.07.03

MNEXT コロナ禍の前中後の内食もどりはあったのか? -食欲望の現在-

3位 2024.03.13

戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

4位 2019.09.10

戦略ケース プラットフォームビジネスで急拡大するウーバーイーツ

5位 2024.03.08

消費者調査データ カップめん(2024年3月版)独走「カップヌードル」、「どん兵衛」「赤いきつね/緑のたぬき」が2位争い

パブリシティ

2023.10.23

週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

2023.08.07

日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

ENGLISH ARTICLES

2023.04.17

More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

2023.02.22

40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

2022.11.14

Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

2022.09.12

The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

2022.06.20

6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area