市場転換期の戦略では、セグメンテーションが非常に重要です。ここでは、成功事例を挙げて紹介していきます。
まず、ダイハツ工業の軽自動車「タント」です。2003年に発売の後、モデルチェンジを経て、現在のタントは4代目になります。当初は、「親子にぴったりタント」というキャッチフレーズで、ファミリー向けのクルマとして売り出されました。そして狙い通りに子育てファミリーに支持されました。
それが、2代目3代目と進んでいくうちに、ユーザーの構成が変わっていきました。特に3代目になると、シニアの比率が高くなっています。この時期のCMは、豊川悦司さんが出演していて、急な坂道でも加速できることを強調していました。
ファミリー層向けのクルマなのに、「走り」を訴求したわけです。そのため、ターゲットがぶれて、売上も落ちてしまいました。
そこでもう一度セグメントし直して、2019年に子育てファミリー層に向けてモデルチェンジしたタントを売り出します。この変更がターゲットとなった層に届きました。発売1ヶ月目には、月間販売台数目標12,000台を大きく上回る37,000台を受注しました。
図表1.2019年フルモデルチェンジで復活

このクルマの特徴は、前と後ろのドアの間に柱がない「ミラクルオープンドア」で、赤ちゃんを抱えたままでも乗車しやすいこと。さらに、運転席が後方に大きくスライドするロングスライドシートを採用し、運転席に腰かけたまま後部座席の子供に向き合えるようにしています。このように、ファミリー層をセグメントしたものづくりを行いました。その結果として、売上を一気に伸ばすことができました。
セグメントを設定するというのは、企業にとってとても重要です。
もうひとつ例を挙げます。森永製菓の「inゼリー」です。発売されたのは1994年。当初は、「ウィダーinゼリー」というネーミングでした。CMには、木村拓哉さんを起用して、10秒でとれる朝ごはんという訴求をしていました。その後、売上200億円くらいまでに成長していきます。
そして、2014年に発売20周年を記念したリニューアルを行いました。そのときに、10秒で朝食がとれるという訴求から、カロリー別ラインナップに変えました。具体的には、カロリーゼロやカロリーハーフといった商品を発売しました。
ところが、これが消費者に大不評だったんです。朝ごはんとしてチャージしたいのに、カロリーゼロでは飲む意味がないといった声が、メーカーにたくさん届いたそうです。
そこで同社が行ったのが、ターゲットとセグメントを明確にして、そこに集中することです。CMでは嵐の櫻井翔さんを起用し、20代から30代のビジネスマンに向けて展開。ここから売上も増加し、今ではゼリー飲料市場でシェア38%と、圧倒的な地位を確立しています。
カロリー別表示から機能性別表示に変更し、ターゲットを20代30代のサラリーマンに絞ったことが、成功のポイントだったといえると思います。
忙しいビジネスマンが、手軽に取れる食事という点をアピールし、プロモーションも東京・山手線の交通広告で大々的に行いました。さらに販売チャネルもコンビニ、特にセブン-イレブンに注力しました。ビジネスマンにとっての利便性を重視したといえます。
「ネクスト戦略ワークショップ」講演録
「消費社会白書2020」特別コンテンツ
参照コンテンツ
- MNEXT 眼のつけどころ 高収益な市場プラットフォーム事業をどう創出するか?-MSP事業創出作法
- MNEXT 眼のつけどころ 高収益な市場プラットフォーム事業をどう創出するか?-MSP事業創出作法
- MNEXT 眼のつけどころ 次の時代のマーケティング戦略を考える (4)セグメントをうまく理解すれば、収益が上がり、20年先も読める
- MNEXT 眼のつけどころ 次の時代のマーケティング戦略を考える (3)営業の再起動とマーケティングによる市場創造の可能性
おすすめ新着記事

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 成長するコーヒー市場 6つの形態が店頭に共存するワケとは?
コーヒーの国内消費量は、2022年に4年ぶりの増加に転じた。最近では大手コンビニエンスストアがコーヒーのサブスクサービスを実験的に導入する動きがみられる。今回はコンビニを中心にコーヒーがどのように買われているのか調査をおこなった。

消費者調査データ No.397 シャンプー(2023年12月版) 「パンテーン」と「ラックス」、僅差の競り合い
コロナ禍によるインバウンド需要喪失からゆっくり立ち直りつつあるシャンプー市場。調査結果は「パンテーン」が複数項目で首位を獲得したが、2位の「ラックス」との差はごくわずかで競り合いが続いている。国内メーカーでは、独立系の専業メーカーが独自のコンセプトで高いリピート意向を獲得している。

成長市場を探せ 「巣ごもり」後も割安感で堅調な家庭用冷凍食品(2023年)
2022年の家庭用冷凍食品の生産量は、前年比100.8%となる80万5,000トンで、8年連続拡大、過去最高を更新。22年からの食品全般の値上げのなかで、簡便化志向や節約志向から利用が継続されているとみられている。



