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データを扱う技術のなかで、今日特に注目されているのが人工知能だ。中でも、大量のデータから新たな知識を獲得する機械学習と呼ばれる人工知能の一分野が注目されている。今回は、こうした技術がどのように利用されるようになるかを踏まえて、人工知能の歴史や分類、問題点をまとめてみたい。
一般的に人工知能と聞くと、iPhoneの音声アシスタントSiriやSoftBankの人型ロボットPepperのような会話システムが連想されるだろう。しかし、人工知能の技術が具体的にどのようなものを指すのかは、あまり知られていないのではないか。
人工知能は、大まかにいえば人間が知識を使ってするようなこと、問題の解決を機械にさせようとするものである。詳しく分類すると、問題の答えを自動的に「探索」する方法、どのように知識を表現するかという「知識表現」、過去の知識から新しい情報を導く「推論」、最適な計画を組み立てる「プランニング」、そのなかで最適な選択を行うための「意思決定」、そして自動翻訳など言葉を機械的に処理する「自然言語処理」、音声や画像データを言葉や概念に結びつけて処理する「音声認識」、「画像認識」、そして実世界に対して直接アクションを起こす「自動運転」や「ロボット」、身近なものではAmazonの「自動推薦システム」など、研究の対象領域は多岐に渡る。
最近よく聞くようになった「機械学習」や、その技術のひとつである「ディープラーニング」といったものだけではない。複数の技術が組み合わさって人工知能を形成している。
人工知能の全体的な研究領域を把握するため、簡単に歴史を紹介する。実はこれまでも人工知能のブームや、冬の時代があった。今回はその何度目かのブームである。
1945年にノイマン型コンピュータが発表され、機械による計算が徐々に発展していった。そして、「人間の知的活動を行う機械」を作る試みが始まった。1956年、マッカーシーなどの数学者や心理学者らが集まった会議で、「人工知能」という言葉が初めて使われた。
1970-80年代は、人の知識を記号で記述して、それを操作する人工知能が提唱された。1982年ごろ日本でも、第五世代コンピュータプロジェクトと呼ばれる、人工知能のプロジェクトがスタートしている。知識を記号論理で記述し、それとともに推論(後述)システムを開発して、高度な知能を実現することを目指していた。応用としては、エキスパート・システムという人間の専門家の意志決定を真似るシステムが多数構築されている。
1990年代-2000年代前半までは一時期、人工知能冬の時代とも呼ばれていた。ただし、ネットワーク技術の発達で、データ量が爆発的に増加する環境下にあった。また、今日発展しているニューラルネットワーク、データマイニング、サポートベクターマシン(SVM)、スパースコーディングといった機械学習に関連する技術も研究されていた[1][2]。そして2010年代に入り、この分野の研究がさらに進むと、画像認識などで飛躍的な成果を出すようになった[3]。その結果、高度な処理方法を自動的に獲得することが一部可能になり、再び機械学習がブームとなっている。
このように人工知能の研究史を大きく分けると「黎明期」→「論理に基づいた方法」→「機械学習」(+α)となる。人工知能には何度か異なるアプローチのブームがある。
ただし昨今のブームは、これまでとは異なっている。今回のポイントは、
- 環境として、大量のデータ(ビッグデータ)が容易に手に入るようになったこと
- ハードウェアとして、速くて安い並列処理ができる演算装置が入手可能になってきたこと
- ソフトウエアの面では、画像認識などの複雑な処理を自動的に学習できるようになったこと
などだ。医療診断におけるIBMのワトソンの利用をはじめ、身近な事例ではディープラーニングを用いたGoogle翻訳の改善や、株の自動取引、運転の補助システムなど、広い分野で人工知能が活用されている。
このように本来の人工知能には様々な技術や歴史がある。しかし、世間で「人工知能」と呼ばれるものには、こうした技術を含んでいないものも多い。
また、人工知能と呼ばれるものの中にはレベルがあるということが指摘されている[4]。このレベルを把握することで、本当に「人工知能」の技術を用いているのか、単にバズワードなのかの区別がつく。それぞれのレベルについて説明してみると、以下のようになる。
- レベル1:単純な制御プログラムを「人工知能」としている。
例:制御を搭載したエアコン、電動シェイバー、洗濯機など。自動的に最適なコントールを行う。 - レベル2:古典的な「人工知能」を利用している。
例:推論や探索を行って診断やパズルを解く。エキスパート・システムや、簡単な質問応答システムなど。ルールや知識を記述する必要があり、知識表現が大事。 - レベル3:機械学習を取り入れた人工知能。
例:自ら学習する機能を持ち、ビッグデータなどを用いてレベル2をより拡張したもの。カメラの顔検知なども機械学習の一種。 - レベル4:ディープラーニングを取り入れた人工知能。
例:自ら外部の入力の特徴を表現する「特徴表現」を学習する人工知能。Googleの実験で、大量の画像を読み込ませた際に、自動的にネコの画像を抽出することに成功した。
一方で、人工知能には「強いAI(Strong AI)」と「弱いAI(Weak AI)」と呼ばれる区分も存在する[5]。「弱いAI」とは、特定の領域に特化し、問題解決をおこなうプログラムの開発を目指している。現状の人工知能の研究は、主にここに焦点があてられている。囲碁用の人工知能などは、この「弱いAI」に該当する。
「強いAI」は、特定の領域に特化するのではなく、人のような汎用的な知能の開発を目指している。研究段階ではあるが、技術の開発や議論も盛んに行われている。
参考文献
参照コンテンツ
【シリーズ】マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術
- (1)人工知能とその社会的インパクト
- (2)人工知能とは
- (3)機械学習の入門およびマーケティング
- (4)ディープラーニングなどの新たな機械学習と因果などの限界
- (5)実践:今日からはじめる機械学習とディープ・ラーニング
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