日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

(2016.11)
マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術
(1)人工知能とその社会的インパクト
客員研究員 沖縄国際大学 金城敬太



 今ある仕事の何割かは、コンピュータに取って代わられるだろう。そんな未来が遠からずやって来そうだ。

 情報技術のひとつとして、プログラミングを高度に発展させた「人工知能」による自動化が注目されている。グーグルをはじめ、多くのIT系産業で人工知能に対しての投資が盛んに行われており、自動運転や自動翻訳、アルゴリズム取引などの分野で研究が進んでいる。こうした技術は今後、マーケティングの分野でも大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで、人工知能とはそもそもどのような技術なのか、そしてどのように応用することができるのか、またどんな分野では応用が難しいのかを考えていきたい。

 ここで覚えておいてほしいことは、人工知能を応用してビジネスやマーケティングを行う際、必ずしも技術の専門家になる必要はないということだ。マーケティングなどの専門家にとっては、どのようなことが可能か、極端にいえば「どのような入力に対して、どのような出力があるか」を把握し、それをもとにアイディアを出して、専門家と一緒に問題の解決を実践していくことが可能であるからである。つまり、技術の「ユーザー」になって活用することもできるということだ。今のところ、専門家だけでなく、こうした技術を応用するユーザーがまだまだ不足しているという指摘がある[1]

 本稿では、こうした人工知能・自動化に関連する領域として、

  • 人工知能の技術についての入門
  • マーケティングへの応用例
  • マーケティング・サイエンスなどの数理的アプローチ

の3点を中心に解説し、技術を活用できる新たなユーザーを育てることを目的とする。また必要に応じて、これらの技術を利用するためのソフトウェア等の紹介も行う。

 技術の話に入る前に現状、上記で述べたような人工知能などの技術の導入で今後、産業全体にどういった影響があるかという、マクロな観点から把握してみたい。

 米国の労働省のデータを使って702の職種を分析したFrey, C. B.らの研究によれば、今後10~20年という早い時期に、コンピュータ化によって約47%の職種が自動化されるリスクが高いとしている[2]。また、90%以上の確率で消える職種としては、「テレマーケター」、「時計の修理工」、「データ入力作業員」、「保険引受時の審査担当」、「簿記・会計・監査などの担当者」、「不動産登記の審査・調査」などが挙げられている。このように今後高度に発展したコンピュータが様々な業種に影響を与えることが予想される。中でも、一部、営業に関連するような職種では大きな影響があると指摘されている。

 また、ジャストシステムによる職業別の仕事と人工知能に関する実態調査では、調査対象者の仕事が人工知能(AI)に置き換わるかという質問に対して、「販売・接客」が1位で14.6%、2位が「企画・マーケティング(14.3%)」となり、「将来的に全てが人工知能やAIに置き換わると思う」と答えた人が高かった[3]。このように、企画・マーケティングなどに関わる人々の間でも、不安が広がっていることが明らかである。

  一方で、国立情報学研究所で人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」を牽引する新井紀子教授によれば、銀行の窓口のような仕事よりも、むしろ半沢直樹のようなホワイトカラーの仕事のほうが問題があるとしている[4]。これはコミュニケーションなどが重視されるような業種は、人工知能に代替されないのではないかという理由だ。また、人間が意思決定をしなくてはならない、医師などの分野も残るのではないかと指摘している。

 人工知能などの技術についての予測に、2045年問題というものがある。これは、発明家・未来研究で有名なレイ・カーツワイルが、著書「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology」の中で、2045年に世界は技術的な特異点(シンギュラリティ)を迎えると指摘していることを指す[5]。具体的にいうと、コンピュータが人類の知性を超え、その結果として人々の生活が後戻りできないほど大きな影響を受けるとしている。

 高度に発展したコンピュータによって産業や職業がどう変化していくのか、分野を問わず大きな関心が寄せられている。すでに述べたように、徐々に自動化の波が押し寄せる中で、人々が失業するリスクにさらされるのではないかという指摘が数多くある。それを踏まえて、将来的にベーシックインカムなどの対策を国全体で行う必要が出てくるということも議論されている[6]

 これから、人工知能がどのような技術でどのように仕事に関係していくのか、そして現状ではどこが苦手なのかについて把握することは有用である。自動化が苦手な分野などを知ることで、今後どのようなスキルを磨けばいいかが把握できるからだ。

 マーケティング・リサーチを例にとってみると、ソーシャル・メディアの発達およびその分析の自動化によって、多くの消費者の声が自動的に入手できるようになってきている。一方で、この技術だけでは高齢者などソーシャル・メディアを利用しない人々の声を集めるのは難しい。さらに、消費行動を理解するためには、単純に言葉で発せられている部分だけを切り取っていても、かなりのバイアスがある。対象者に様々な質問をしたり、観察をしたり、内部の心理・生理的な反応などを正確に把握するためには、(一部代替できるにせよ)現状の単純で自動的なシステムによって代替することはできない。

 

 このように人工知能の技術を知ることで、これらの技術のユーザーになって最新の技術を自分の仕事に応用することができる。さらに、自動化がしやすいものと現状では困難なものを見分けることで、今後どのようなスキルに投資すべきかを把握することにも役立つだろう。

 次回以降は、人工知能についての歴史や概要を解説し、マーケティングへの応用例もいくつか挙げていく。さらに、こうしたシステムを導入する際に必要なマーケティングにおける数理的アプローチについても紹介していきたい。



参考文献

[1]  松尾豊. (2015). 人工知能は人間を超えるか. 角川 EPUB 選書.
[2]  Frey, C. B., & Osborne, M. A. (2013). The future of employment: how susceptible are jobs to computerisation. Retrieved September, 7.
[3]  株式会社ジャストシステム,職業別の仕事と人工知能 に関する実態調査,
https://www.justsystems.com/jp/download/contents/fastask/biz
/report/fa_report-ai-20160823.pdf
[4]  ロボットに負けない働き方(1)「半沢直樹」が失業するとき,
https://college.nikkei.co.jp/article/38824110.html
[5]  Kurzweil, Ray. The singularity is near: When humans transcend biology. Penguin, 2005.
[6]  井上智洋(2016). 人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊,文藝春秋.

参照コンテンツ


【シリーズ】マーケティングのための人工知能入門およびその周辺技術


おすすめ新着記事

MNEXT 眼のつけどころ<br>世界情報寡占企業からデータ提供代が貰える日 <br>―「グーグル後の生活」と等価交換
MNEXT 眼のつけどころ
世界情報寡占企業からデータ提供代が貰える日
―「グーグル後の生活」と等価交換

私たちは、日常的にグーグルなどの検索サービスを利用している。便利な一方、事業者は我々の検索や行動の履歴を無料で利用し、企業向けの広告などで巨額の収益をあげている。欧州ではこうした個人データを「資産」とみなし、課税対象とする動きがでてきている。そうなれば、これまでのように個人データを自由に利用することはできなくなる。AGFAのような巨大IT企業も戦略転換を余儀なくされる。同時に、リアルな製造業や小売業も、少し冷静にネット戦略を見直す時期に来た。

MNEXT 眼のつけどころ<br>復讐心は乗り越えられるか―近代とどう向き合うか
MNEXT 眼のつけどころ
復讐心は乗り越えられるか―近代とどう向き合うか

復讐心は乗り越えられるのか。結論から言えば、乗り越えられない。復讐心とは人間の適応進化の産物であり、倫理の問題を越えているからだ。しかし、復讐心の高まりは「復讐=悪」という近代的価値と相反する。では、この復讐の時代に日本社会はどう復讐心と向き合えばよいのか。三つの方向性を提示したい。ひとつ目は、近代社会を完成させること、ふたつ目は宗教や信仰心によって復讐心を克服すること、三つ目は日本の土俗的な自然信仰を復興させることである。

消費者調査データ<br>コーヒー飲料<br>クラフトボス、ジャパンクラフトマン。ペットボトルコーヒー躍進
消費者調査データ
コーヒー飲料
クラフトボス、ジャパンクラフトマン。ペットボトルコーヒー躍進

2017年のコーヒー飲料市場は前年比2.8%増で、特にペットボトルコーヒーの成長が著しい。今回のランキングでも「BOSS」が6項目で首位を獲得、それを「ジョージア」が追う展開となった。17年4月に発売された「クラフトボス」は前回から大きく評価を上げ、再購入意向では首位に躍り出た。後発のペットボトルコーヒーも健闘しており、新たな飲用シーンを開拓したコーヒー市場から目が離せない。






マーケティングモニターのご案内
データでわかる辛口性格診断
マーケティング入門講座
会員登録のご案内
消費社会白書2018
「戦略200+」比較分析ツールのご案内
page top

JMR生活総合研究所マーケティングサイトに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。著作権はJMR生活総合研究所に属します。

Copyright (c) 1997-2018 Japan Consumer Marketing Research Institute. All rights reserved.