マルチブランド戦略とは、同じ製品カテゴリーに複数のブランドを展開することを指します。1メーカーによる市場カバー力をアップし、その市場自体を活性化することが可能な戦略です。
コトラーによれば、ブランド戦略には、新商品を既存のブランド名や製品カテゴリーに加えるのか、それとも新しいものにするかの組み合わせによって、「ライン拡張」「ブランド拡張」「マルチブランド」「新ブランド」「共同ブランド」の五つの選択肢がありますが、そのひとつであり、現在の市場において、有効なブランド戦略と言うことができます。
代表的な企業としては、ネスレ、P&G、ロレアルなどがあります。たとえば、ネスレはミネラルウォーターのカテゴリーに、「ペリエ」「ヴィッテル」「コントレックス」など6ブランドを展開しています。
ブランド戦略は、市場シェア獲得競争にとって要となります。マルチブランド戦略の本来のメリットとして次の八つがあげられます。
- 当該商品カテゴリー全体の情報発信量を増大させ、市場を活性化する
- 既存ブランドのイメージを維持しつつ、新ブランドによって市場のカバー力が増す
- 自社の既存ブランドのポジショニングを維持したまま、別ブランドを展開することによって、競合のラインエクステンションに対する防衛が可能である
- 市場の各セグメントに個別のブランド名で商品を提供することで、競合の市場参入に対する防衛が可能である
- 新商品を新ブランドで市場に投入することで、既存ブランドの強みを維持すると同時に、リスクを回避できる
- 流通別にブランドを展開することで、流通の独自性に対応できる
- ブランドを複数化することで、当該市場の価格競争をある程度回避できる
- ブランドイメージの分散させずに、幅広い価格帯をカバーできる
一方、デメリットとして次の四つがあげられます。
- 宣伝広告量が複数のブランドに分散することで、消費者へのメッセージ量が希薄化し、ブランド育成が進まない
- 流通ビッグバンによりメーカーの流通リード力が低下する中、新ブランドはますます小粒化する。その結果、流通リード力がさらに低下する悪循環が起こる
- 生産・物流が非効率化する
- ブランドの氾濫により商品の差別化があいまいになった結果、ユーザーのブランド離れが起き、ブランドが小粒・短命化する
マルチブランド戦略は本来、当該市場においてメインブランドの価値を強化しつつ、新しい価値を提案する戦略であるはずですが、安易なブランド追加により、逆に既存ブランドも含めポジショニングがあいまいになり、自社内カニバリゼーションを起こしているという状況が多く発生しているようです。この状況を打破するためには、顧客セグメントに基づいて、各ブランドにどんなポジションを持たせるのか、「ブランドのポートフォリオを持つ」という発想が必要です。
参照コンテンツ
- MNEXT 眼のつけどころ ブランド・ものづくりビジネスモデルの革新のすすめ方
―戦略思考とはどういうものか(組織論篇) - MNEXT 眼のつけどころ ブランドのロングセラー化の鍵は「うまいマンネリ」づくり
―市場溶解期のブランド再構築 - JMRからの提案 Next Marketing 2016 バーティカルマーケティングへの革新(2016年)
- JMRからの提案 マーケティングTips ブランディング 名前のちから(2020年)
- マーケティングFAQ どうすればブランド力を強化できるか
- マーケティングFAQ ブランド認知と企業イメージ
関連用語
おすすめ新着記事

2022年、値上げの春をどう乗り切るか
原材料高、原油価格高騰に端を発する値上げは様々な商品分野に波及し、コロナ禍で持ち直しつつあった消費マインドも再悪化が懸念されている。メーカーにとっても、値上げの巧拙が業績を左右する重要な局面だ。消費者ニーズを捉えて付加価値を高め、値上げ後も選択してもらえるような価格戦略・ブランドづくりが必要になってくるだろう。この値上げラッシュを乗り切り、物価上昇・消費低迷の市場環境下でも成長につなげるためのヒントを、当社が蓄積したケース・理論から紹介する。

強い「ハーゲンダッツ」、ファンつかむPB
家計調査によると、2021年の冷菓の支出金額は2年連続で1万円を超え、食糧費に占める割合も2年連続で過去最高となった。調査結果を見ると、店頭接触や購入経験など複数の項目で「ハーゲンダッツ」が首位に。特に3ヶ月以内購入では2位の「チョコモナカジャンボ」に9.7ポイント、今後の購入意向でも同じく「チョコモナカジャンボ」に9.3ポイントの差をつけた。

人種のるつぼ「川口市」 "本当に住みやすい街"は流通戦略の新たなモデルケース
テレワークの定着で職住分離が進み、生活者のライフスタイルが変化。それに伴い、人気のエリアも変わってきている。なかでも注目の街が、東京都北区に隣接する埼玉県川口市だ。川口市は、2021年度の税収が当初見込みより34億円上回る943億円になることを発表。コロナ禍で税収が落ち込む自治体が多いなか、バブル期以来の増額補正となった。買い物面では、都市型店舗と郊外型店舗が同居する"買住近接"エリアだ。居住者も多様で、ファミリーからシニア、日本人と外国人など、様々なライフスタイルが共存。多様性の街「川口市」には、今後の流通戦略のヒントを見出すことができる。



