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公開日:2022年03月11日

女性が生み出す6.9兆円の市場
―アフタヌーンティーは都心高級ホテルを救えるのか
【第3回】
クリエイティブ・マネジャー 麻生友美


構成

    第1回(2022.03.11 公開)
  1. アフタヌーンティーで「ヌン活」を楽しむ女性たち
  2. 「ヌン活」女性の活動状況
  3. 都心ラグジュアリーホテルの取り込み状況
  4. 第2回(2022.03.22 公開)
  5. 危機下の都心ラグジュアリーホテルの生き残り
  6. 第3回(2022.03.29 公開)
  7. ホテルに学ぶ女性消費リーダーの取り組み

>>英訳版はこちら(ENGLISH ver.)

ホテルに学ぶ女性消費リーダーの取り組み

「ヌン活」をする女性の属性と心理

 MLHは危機的状況に置かれながら、アフタヌーンティーの展開に取り組んでいる。ホテルがどのような利用者を取り込んでいるのか、ホテルのアフタヌーンティーを利用している人に絞って属性をみていく(図表3-1)。職業ライフステージでは、フルタイム有職の独身社会人、子育て層が高い割合を示している。職業では、管理職・経営者、フルタイム勤務者の割合が高い。個人収入では400万円以上600万円未満と、600万円以上の割合が高かった。アフタヌーンティーを利用する人は、高収入女性であると推測する。


図表

高精細な図表はPDFのダウンロード購入でご利用いただけます。

アフタヌーンティー利用者の消費意識と価値意識

 では、消費に関してはどのような意識を持っているのか。次の調査結果はアフタヌーンティー利用者の消費意識を表している。ホテル利用経験者のうちアフタヌーンティー非利用経験者に対して、アフタヌーンティー利用経験者が持つ消費意識の比率の差を高い順に並べたものである(図表3-2)。

 差の大きかったトップ3は、1位「今を楽しむためにはお金は惜しまない」、2位「付き合いや交際のための支出は削れない」、3位「有名ブランドの商品を選んだ方が、失敗がないと思う」であった。また、非利用経験者より割合が低かったのは「分相応なものを選ぶべきだ」である。

 次に、アフタヌーンティー利用者の価値意識を見てみる。

 上位三つは、1位「社会的な地位や名声を得たい」31%、ともに同率2位で「人付き合いのための時間はなくてはならない」28%、「世間体が気になる」28%であった。ホテルのアフタヌーンティーを利用するのは顕示欲の強い女性である。


図表

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アフタヌーンティーを楽しむ女性たちのプロファイリング

 これまでの調査結果より、アフタヌーンティーの利用者についての属性を見てきた。

 ホテルで優雅に楽しむ姿を想像できるが、内なる心理はふたつの特徴をもって共存していると考えられる。これをプロファイリングして解釈してみる(図表3-3)。


「同質化欲求」

 仲間には、良い情報や自分の体験などをシェアして仲間だと認めてもらいたい。

 自分の居場所を確立したい。

 いわゆる群れ心理である。常に自分の周りには仲間がいるということがステータスであり、安心感を得たいと思っている。


「差異化願望」

 自分の仲間以外には自分の良い体験は見せつけて、優越感を得たい。

 自分の方が上流階級だと認識させたい。

 ライバルと差を付けて優越感を得たいということは、劣等感の裏返しとも考えられる。


 アフタヌーンティーを利用する女性は、友達関係維持の為の「関係財」として消費している。同じ経験を共有することが目的であり、美味しさは二の次かもしれない。

 その本質的なニーズは、同じ経験をすることによって仲間意識を確認する同質化によって安心感を得ているからである。他方で、属さない他のグループに対しては差異化をし、見せびらかし、優越感を得たいと思う。

 このような仲間との群れ心理と、他のグループへの優越感の誇示はなぜおこるのか。

 それは女性の置かれている経済的状況が男性よりも厳しいからである。男性よりも低収入であり、同時に、格差が大きく開いている。平均年収では男性の545万円に対し、女性は293万円(「民間給与実態統計調査」)。これは、女性が非正規社員として入社したり、30代から出産などによって非正規化したりするからである。したがって、生活を維持していくために、仲間との情報交換を大事にし、他方で自分の収入に象徴される獲得した地位を誇示しようとする。この女性の仲間内の同質化志向と仲間外への異質化志向は男性よりも強い。これは女性がより社会的存在であるからであり、異質化と同質化が流行を生むことはよく知られている(ヒップスター効果)。従って、アフタヌーンティーも流行の可能性が高い。多くの女性が経験し、みせびらかしができなくなると新たな関係財が流行することになる。

 アフタヌーンティーを利用する女性は、このような二面性を持ち合わせながら、頻繁に情報交換をし、流行りをつくるリーダー的存在となっている(図表3-3)。


図表

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アフタヌーンティーのビジネス効果

 ホテルのブランド力を高め、継続利用をしてもらう為にはまずは経験してもらうことが重要である。そして、アフタヌーンティーの利用は他の施設利用よりも好感、推奨、宿泊利用に十分な効果があることが分かった。見せびらかし、顕示欲の強いターゲットの女性が、アフタヌーンティーの重要なインフルエンサーとなることで、利用のきっかけになる可能性はある。そしてホテルがまだ取り込めていないアフタヌーンティー利用者を取り込み、11時から17時の充実ニーズを読み取り、新しい価値を作り上げていけばさらに市場規模は広がると期待できる。


都心ラグジュアリーホテルに学ぶ日中充実ニーズの取り込み

 MLHを中心に、ホテルではアフタヌーンティーの取り組みが活発である。前からあったものではあるが、日中充実ニーズをうまく活用し、より華やかにし、海外旅行ができないコロナ禍でより注目され、15ホテルだけで年間45億円を稼ぐ良い結果を生んでいる。しかし赤字を補填するまでには至らない。しかし、注目すべきは女性の日中の活動である。ここには活路を見出せる。これらから学び、消費財メーカーにも言えることは五つある。

(1)消費リード力のある女性を狙う

 11時から17時の日中を充実させたい女性の市場規模は7兆円弱あることが分かった。その女性は、顕示欲があり、見せびらかしの情報発信力がある。これが今、消費リード力を持つターゲットである。11時から17時の間に彼女たちは何がしたいのか、そのニーズに応える商品、サービスを提供することで効率よく取り込むチャンスを掴めるのではないか。


(2)女性の行動を狙う

 女性が充実させたい時間に求めることは、食事を充実させたい割合が高く、アフタヌーンティー利用に絞っても全国の市場規模は219億円である。食品メーカーのヒット商品が100億円以上と言われていることを考えると、その規模は決して小さくはない。都心ほどその注目度は高くなっている。


(3)活動の生まれる時間帯を狙う

 今回の調査では、消費をリードしている女性のうち、平日は専業主婦、休日はフルタイム勤務者が主に活動していることがわかった。また、昼間より、夜の方が年収の高い層が活動している。女性たちが有効に活用するコアな時間を詳細に読み込み、ニーズを捉えることが重要である。


(4)商品サービスではなく差別化した価値を生み出す

 現在、コロナ禍により市場のニーズが急激に変わった。今までの商品、サービスでは通用しない。そして価格競争がある。どんなに価格競争で優位にいても、他企業が差別化した価値を出せば状況が変わる可能性もある。今、求められているのは差別化した価値、そして1+1=2+αにすることである。そして、日中充実を求めるニーズを取り込める最先端のラグジュアリーホテルとタッグを組むことも考えられる。


(5)ブランドロイヤリティに結びつける

 今必要とされていることは、これまでの常識を分解し、市場ニーズに対して新しいカテゴリーのセグメントではないだろうか。コンセプトを明確にし、顧客を絞り込み、詳細に練った戦略で新たなブランドロイヤリティを確保するとともに、築き上げてきた今までのロイヤリティに対してもフレッシュな側面を改めて理解してもらうべきである。

 MLHは、ホテル間で競争しながら45億の市場を生み出し、活性化に励んでいる。アフタヌーンティー市場が拡大していくなかで、消費者のニーズは鋭くなっていく。いよいよ、本腰を入れて他にはない商品サービス、戦略やマーケティングに革新しなければいけない。その為には、先の五つのポイントをおさえ戦略的行動に変えていく必要がある。



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著者プロフィール

麻生友美

1980年代生まれのマーケティングクリエイター。JMR生活総合研究所・クリエイティブマネジャー。

経験財を提供する様々な産業を経てクリエイターに。イラストを得意とした店頭コミュニケーションで実績があり、評判も高い。消費者説得の「こころのマーケティング」を目指している。


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