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公開日:2021年05月25日

消費反発の現場を探る
ようこそ都心のリゾート―熱狂的ファン生む「アマン」の魅力
文・イラスト/千葉ともみ


 海外旅行が容易く出来ない今、人々は気分を解放する為にどこに向かうのでしょうか。

 筆者の勤務するホテルのお客様も「もう我慢も限界」とお話をされていました。

 人々は今、1日も待てないほど早く解放されたい、リフレッシュしたいと願っています。遠出がなかなかできない今、リゾートを体験できる場所は東京にもありました。東京・大手町のアマン東京です。知る人は知っている、しかし知名度はまだ高くはないアマン東京を今回は探っていきます。


アマン東京とは

 アマンリゾーツが日本に進出したのは、2014年。銀行や商社、マスコミなどの本社が集まる日本経済の中心地・東京大手町が、日本初進出の地に選ばれました。みずほ銀行本店などが入っている大手町タワーの33階から38階にあります。

 インドネシアや中国などアジアを始め、アメリカやヨーロッパ、アフリカなど世界各地にラグジュアリーホテルを展開しています。建設する土地の文化や自然と調和した施設となっているのが特徴です。

 一度宿泊すると、そのサービスや雰囲気の虜になり、"アマンジャンキー"として各地のアマンリゾーツの宿泊を繰り返すファンが数多く存在するといわれています。SNSで「#amanjunkie」と検索すると、ラグジュアリーなリゾートで贅沢な時間を楽しむアマンジャンキーの姿が多数アップされています。美しい自然と、それにマッチしたホテルは、まさに"大人のバケーション"にふさわしいといえるのではないでしょうか。

 世界中のセレブが愛してやまないアマンは、その快適さだけでなく、宿泊料金も突出しています。前回紹介した帝国ホテルの2人1部屋が約47,000円なのに対して、アマン東京は約11万円(公式サイト6月平日の料金、消費税・サービス料含む)と倍以上。東京オリンピックを見越して数多く建設された東京の高級ホテルの中でも、群を抜く高さです


喧騒から静寂へ イタリアンレストラン「ARVA」

 縁側をイメージした黒い石段を登り、奥にあるイタリアンレストラン「ARVA」を訪れました。大きな窓からは、喧騒的な東京ではなく皇居も見渡せる緑豊かな風景と、高いビルが広がっていました。

 平日のランチでしたが、レストランの入客状況は半分ほど。ビジネスマンが多く行き交う大手町なら、接待の場として利用されてもおかしくないと思うのですが、ここは接待というよりは癒し目的で来ているお客様が多いようです。

 一般的に、ホテルビジネスでは宿泊部門の粗利益率が高い一方で、飲食サービスはそれほど高くありません。しかし、顧客の満足度を高めるという点では、飲食サービスは重要な役割を担っています。また、ホテルのレストランは、ホスピタリティを感じてもらい、ホテル自体をプロモーションする場でもあります(MNEXT 眼のつけどころ 「時代を貫くプロ・マーケティング  都心高級ホテル競争『アマン』VS.『リッツ』」参照)。

 30代から40代の層が多く家族連れやビジネスマンは見受けられません。おしゃれをしたカップルや友人同士の利用が多く見られました。

 コースの種類は3種類で、それぞれが5,700円、7,500円、10,000円。他のシティホテルでもランク下のコースで3,000円台を出しているのと比べると価格は高めです。コロナ禍であってもあくまでもターゲットは富裕層狙いです。

 今回は、特徴を捉えるためにも、品数が一番多いNATURARE(自然)というコースを注文しました。

 テーブルセットは他のホテル同様、カトラリーはナフキンに包まれ、マスクホルダーやウェットペーパーがセットされています。ウェットペーパーは檜の香り。イタリアンですが、日本の旅館にいるようなアロマの香りに包まれます。和の融合に徹底していますね。

 接客は申し分なく、忙しさを感じさせない親近感のある適度な会話に、詳しい料理の説明、

 また、提供のタイミングも絶妙でほしいものを察知してスムーズにサービスしてくれることに感銘を受けました。老舗ホテルだけがサービスの生粋だという固定観念は払拭されます。

 今回のメニューは以下の通り

今回注文したメニュー
シェフからのおもてなし
相模原産有精卵のポーチドエッグ グリーンアスパラガスとピアーヴェDOPヴェッキオオーロ
タリアッテッレ 自家製パンチェッタと新玉葱のアマトリチャーナ
または
スパゲッティ 雲丹とマグロのカラスミ (+1,898円)
ほうぼうのソテー 菜の花と浅利 クスクスと檸檬
和牛挽肉と春キャベツのインボルティーニ ビーフコンソメのズッパ
チェリーのシブーストとリコッタチーズ ピスタチオジェラート
コーヒーまたは紅茶 小菓子

 「シェフからのおもてなし」は、アミューズです。


シェフからのおもてなし
シェフからのおもてなし


 トマトのクラッカーにマスカルポーネ、バジル、ドライトマト、バジルシード、タラのゼッポレと牛蒡のスープ。彩りが鮮やかでこれから運ばれてくる料理に期待感を与えます。「おもてなし」と表現されているとおり、歓迎されている気分になります。

 牛蒡のスープにはトリュフ風味が加えられ、ひとつひとつは余計な味がしない、しかししっかりと凝縮された旨味を感じるものでした。それぞれが別の料理ですが、ワンプレートに乗ったその料理はお互いを邪魔することなく合う料理でした。

 スタートの色とりどりな料理を静かに演出しているのが、アマンブラックとも言える黒いお皿。また、メインの料理に使用しているのは、茶色や深みのある緑のデザインをあしらった有田焼のお皿。こちらはシェフが直々に足を運んでデザインをお願いしたお皿だそうで、シェフが考える料理のキャンバスの土台となりすべてが完成しています。

 日本ならではの焼き物を取り入れ、シックでお洒落なものを取り入れているのはアマンらしいカラーが出ていると思いました。

 特に印象に残ったのは、スタッフのおすすめのパスタです。

 メニューにはありませんが、追加で頼みました。


アニョロッティ カーチョエペペ 黒胡椒とペコリーノロマーノ
アニョロッティ カーチョエペペ 黒胡椒とペコリーノロマーノ


追加注文したメニュー
アニョロッティ カーチョエペペ 黒胡椒とペコリーノロマーノ

 カーチョエペペはチーズと胡椒を意味しており、イタリアの首都ローマの名物料理です。

 一般的に知られているカーチョエペペは、ペコリーノチーズで絡め、胡椒を効かせたシンプルなスパゲッティです。アマンではラビオリのように詰め物をしたアニョロッティでアレンジしています。アニョロッティの生地には檸檬が練りこんであり、ペコリーノの濃厚な味わいが中から溢れ、檸檬の風味で爽やかで上品に仕上がっています。ホームメイドのアニョロッティは、ちょうどいい弾力で口からなくなるまで味わいが続きます。

 全体的にどの料理も余計な調味料を使わず、素材の味で味付けをしているというような自然が感じられる料理ばかりでした。それぞれの料理に彩りがあり、メインには目の前で仕上げのスープを注いでくれるなどパフォーマンスも欠かしません。

 ARVA=収穫を意味するネーミングにもあるとおり、イタリアや日本の食材を上手く融合し、食材そのままの味を生かし自然を料理全体で表現したアマンのコンセプトにマッチしたイタリアンレストランです。

 ここARVAの料理長平木正和氏はイタリアで17年を過ごし、うち13年を山と森と海に囲まれたヴェネトの州都、ヴェネチアで、その土地の海の幸、山の幸を使った伝統のヴェネト料理の経験を積んできました。イタリアで培われた伝統の食文化にこだわり、本場で過ごした17年間で蓄えてきたレシピを活用し、より本来のイタリアらしい雰囲気と料理を提供していくと称しています。


場所選びにこだわるアマン

 アマンは1988年、プーケットに最初のリゾートとなるアマンプリ(サンスクリット語:平和な場所)を創業しました。

 創業者のエイドリアン・ゼッカ氏は、リゾートとなる場所選びには人一倍厳しいそう。自分の別荘を作るような感覚で理想の土地を見つけ出し、デザインやインテリアにも施設に注ぐ光の加減や、素材など細部まで徹底的にこだわるといいます。

 「平和」、「独自性」、「家族」の三つの要素で構成されるゼッカ氏の哲学から生まれるホテルはその土地の文化や習慣を生かした作りが特徴となっています

 アマンの顧客は世界中のセレブです。この顧客が満足する独自のホスピタリティを提供するために、他社がまねできないスタッフ間の連携や、その連携を生むためのトレーニングシステムが構築されているといいます。そのことによって、ファンを引きつけてやまないホテルとしてのユニークなポジションを確立しています。

 日本ではアマン東京のほか、三重県志摩市に「アマネム」、京都市に「アマン京都」が展開されています。

 また、2023年には森ビルが主体で取り組んでいる虎ノ門・麻布台プロジェクトにアマンでは日本初のブランデッドレジデンスとしてアマンレジデンス、またホテルにはアマンの姉妹ブランドのジャヌ東京が参入します。都市開発をリードしてきた森ビルとのパートナーシップによる新しい取り組みは知名度も上がりさらなる顧客獲得が期待できます。


コロナ疲れを癒やしてくれる場所

 在宅ワークや自粛でのコロナ疲れを癒したい時、遠出まではできない今、気軽に静かなリゾート気分を味わうにはアマンは、うってつけの場所でしょう。

 エレベーターを降り、ロビーに向かうと、高い天井から注ぐ優しい光と静けさの中に包まれます。30mの高さを誇る天井は障子を模した格子をあしらった作り。障子を通して降り注ぐ光は、なんとも言えない心地の良い光加減を作り出し、目の前にはインフィニティープールのような池が広がります。静かな空間に、優しい光が降り注ぎ、石、水、生花、まるで日本庭園のようです。


日本の縁側をイメージしたロビー
日本の縁側をイメージしたロビー


 ロビー一帯は仕切りもなく、数段の段差をつくり、日本の縁側をイメージしています。アマンのその土地と文化を生かすという特徴が細部にわたって取り込まれており、とても幻想的な空間で日本人の自然を愛でる伝統的なスタイルを上手く表現していました。まるで神社に来たときのような凛とした空気感があるため、ここに来た外国人が日本を感じることもできると思います。ちょっとした癒しが必要であれば食事だけでも十分です。

 大々的なマーケティングを行わず、口コミを大切にするアマン東京は、あえて東京の中心地にホテルを作ることでアマンを知るきっかけにしてもらうという戦略があるといいます。コロナの流行によって消費者の旅行に対する欲求は現在、抑圧されています。コロナの収束後、旅行へ行きたいと考えている人が多いのも事実です。今後、ワクチン接種が進み、消費者が動き始めたとき、ホテルは消費回復の有力な現場となり得るのではないでしょうか。

 今回訪れて感じたように、アマンは、その国(土地)の文化を取り入れた洗練された空間、居心地の良いサービスを提供し、一度訪れればその国や土地の特徴が分かる、またその雰囲気を存分に味わえるリラックス空間となっています。富裕層、中間層と幅広く体験してもらえる人が増えれば、この先さらに日本でもファンが増えていくのではないでしょうか。



著者プロフィール

千葉ともみ

都内の日系、外資系ホテルで10年以上の勤務経験がある。

現在は、JMR生活総合研究所のマーケティングクリエイター。


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