メーカー(販売元)が卸値(出荷価格)だけを提示し、標準卸売価格(希望卸売価格)や標準小売価格(希望小売価格)を設定せず、流通各段階の業者が自らの判断で自由に価格決定を行う方式をオープンプライス(オープン価格)といいます。逆に、メーカーが標準卸売価格や標準小売価格を設定する方式は、建値制と呼ばれます。
消費者の立場では、例えば新発売された商品がオープンプライスである場合、比較参照するものがなく、価格についての判断が難しくなります。販売店の店頭価格を平均した実勢価格や実売価格から検討することになります。価格情報を探索するコストが増えますが、一方で、販売店間の公正な競争が促される結果、価格が安くなるというメリットも考えられます。
戦後の日本のメーカーは、建値制度を採用し、価格支配力を行使してきました。流通各段階がメーカーの設定する建値を守れば、価格が安定し、販売数量予測に基づく計画生産に従い生産設備を最適に稼働させ、安定した利益を得ることができるなど、建値制度はメーカーにとって都合の良い仕組みでした。流通各段階に価格決定権を与えるオープンプライスは、この価格支配力を低下させることになりますが、近年多くの業界、メーカーでオープンプライスへ移行するケースが増えています。この背景には、独占禁止法の摘要強化など法規制の影響もありますが、本質的な狙いはメーカーの収益の確保にあります。
従来の建値制度下では、営業販売部門は建値を維持しながら販売数量を伸ばすために、販売手数料(リベート)の料率を上げ、その種類を増やし、加えて販促費も投下してきました。この結果、リベートや販促費が膨張し、しかもこれらが値引きの原資となり、卸値より小売値が安くなるというケースが出るほど、メーカーの標準小売価格と店頭実売価格に大きな乖離が生じました。特に、強大なバイイングパワーを後ろ盾に、価格支配力を持った大手組織小売業が店頭売価を乱高下させるため、価格が揺らぎ、ブランド価値の低下を招き、ブランドが短命化し、メーカーは計画的な生産がままならなくなりました。こうした状況下では、当然、生産活動も不安定になり、生産コストが上昇します。さらに、例えば、物流部門では、出荷ピーク時に備えた設備投資が必要になります。こうした物流設備は、ピーク時に最大効率を発揮しますが、普段は稼働率が悪くなり、結果的に通期の稼働率は低下することになります。営業部門でも期末の押し込み販売のために販促費が肥大化します。従来の建値制度は、現在ではこのような様々なコスト上昇を招き、収益低下の悪循環を生み出す結末を迎えています。
これを断ち切るために、メーカーとしては建値制度を放棄せざるを得なくなったわけです。建値制度を放棄し、オープンプライスへ移行することは、同時にこれまで建値を維持するために、出荷価格と実売価格の乖離が生じた場合、流通各段階で目減りする分を補填する役割を担ってきたリベート制の放棄も意味します。実際にオープンプライスへ移行したメーカーのケースを見ると、各種リベートを廃止し、廃止するリベートの分、出荷価格を引き下げ、これを新出荷価格として提示するという方法が採られています。
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