プロジェクト・チーフ 井口裕太
長引くコロナ感染拡大の影響で、消費者の食生活や購買行動などにも変化が起こっています。当社が毎年発刊している「消費社会白書」の最新号の分析結果から、その内容について詳しく見ていきたいと思います。
最新号のタイトルは「コロナからの、KAITOU」です。この「KAITOU」には三つの意味が込められています。ひとつ目は、コロナという状況下で生活者がどのように反応して行動したかという「回答」です。ふたつ目は、マーケティングソリューションとしての「解答」です。三つ目が、マーケティングによって私たちが消費者のココロを「解凍」していく必要があるという意味での「KAITOU」です(「『消費社会白書2022』のふたつのアナザーストーリー」)。
まず消費回復のシナリオを考えていきます。コロナによって社会は個人階級化が進み、二分されていっています。白書の分析結果から、緊急事態宣言の解除後に、消費を「解凍」させる層は、半数に満たないということが明らかになりました。今後、消費支出を伸ばしたいという人は、全体の42%です。一方で、支出を増やしたい項目がひとつもない人たちは58%います。この層を、消費凍結層と呼んでいます。
データから、消費回復は世の中の大半の人が、どんどん支出を増やしていくということではなく、42%の消費解凍層の中から少しずつ進み、ミルフィーユのように少しずつ層が積み重なって消費回復が進んでいくと予測しています。コロナからの全面的な消費回復というのは予想しづらいのが現状です。
その背景には、消費解凍層と凍結層の収入、収入見込、預貯金の増加などで大きな格差が生まれているからです。凍結層の人は、増やそうと思ってもなかなか増やせない状況です。
ここで、ターゲットスライドという考え方を紹介するために、事例を挙げて解説します。先ほど説明した消費回復の図式は、個別の商品領域についても同じように考えることができます。明治の「TANPACT(タンパクト)」は2020年3月に市場導入されたブランドです。このブランドは、現代人のタンパク質不足を解決するというコンセプトで、ヨーグルトやチーズ、チョコレート、ビスケット、スープなどを展開しています。また、伊藤ハムなど他の企業とコラボした商品も販売しています。
幅広い商品を手掛けていますが、売り場でまとまって展開しにくいという点では課題もありそうです。そこで、どのような戦略をとれば、さらに市場浸透を目指せるかについて仮設的に検討してみました。それが、ターゲットスライドによる層を特定したインセンティブプロモーションです。
まず今注目の40代女性を最初のターゲットに設定します。この層に対して4Pを組み立て、特にプロモーションに重点を置いていきたいと思います。商品はチーズやスープにし、疲れを感じている40代女性に、優しいタンパク質の補給というテーマで訴えます。
さらにインセンティブとして、TANPACTのスタンプラリーを行い、複数商品を購入すると、現金がもらえるというキャンペーンを展開します。流通チャネルは、都市型SMにします。
次の段階としては、20代女性をターゲットにします。この場合は、タンパク質の1種であるケラチンを補強する"新おやつ習慣"というプロモーションを行います。20代女性のニーズを考え、髪と皮膚、爪などの成分となっているケラチンを補強することをアピールし、この層のニーズに応えていきます。
このように、ターゲットを定めながら、そのターゲットごとに4Pを組み立て、リアルなプロモーションを行うことを提案したいと思います。
「消費社会白書2022」のご案内
コロナで消費マインドは凍結してしまいました。
コロナに今どんな回答(KAITOU)をすればいいのか?どんな解答(KAITOU)があり、どんな解凍(KAITOU)の方法があるのか?
独自消費者調査の結果から、事実を提示し、みなさんに少しでもヒントを提供できればと存じます。
本書で網羅しきれなかった約100の設問を、性別や年代、ライフステージなど12の基本属性を軸に集計した基本集計表も販売中です。
参照コンテンツ
- MNEXT 2022年の消費の読み方-価値拡張マーケティング(2021年)
- MNEXT 凍結した消費マインドを溶解させるマーケティング―解除後の消費増加シナリオ(2021年)
- MNEXT 静かに激変する「当たり前の日常」と解凍消費(2021年)
- JMRからの提案 「消費社会白書2022」のふたつのアナザーストーリー(2021年)
- 「食と生活」のマンスリーニュースレター
おすすめ新着記事
成長市場を探せ V字回復で2年連続過去最高更新の炭酸飲料(2024年)
炭酸飲料が伸びている。2020年はコロナ禍で前年割れとなったが、翌21年にはコロナ前の水準に迫り、22年、23年と2年連続で過去最高を更新した。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 「紅麹サプリ問題」認知率は86%! 消費者の健康食品選びに変化
コロナが明けて需要が戻った健康食品市場だったが、2024年3月に「紅麹サプリ問題」が起こった。そこで、健康食品の利用と、「紅麹サプリ問題」を受けて消費者の行動がどう変化したかを調査した。
消費者調査データ 茶飲料(2024年9月版) 抜群の強さ「お~いお茶」、大手3ブランドが熾烈な2位争い
2年連続のプラスとなった茶飲料市場の調査結果をみると、トップブランドの「お~いお茶」が全項目で首位、大手飲料メーカーの緑茶ブランド3点が熾烈な2位争いを繰り広げている。一方、再購入意向のランキングでは、麦茶ブランドが上位に入った。