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公開日:2021年10月14日

都心主要ラグジュアリーホテルのリバイバル戦略と行動直結プロモーション
―産業衰退死段階の生き残り戦略【3】
松田久一・千葉ともみ


構成

矢印をクリックすると小見出しが展開します

1.ホテル業界の稼働率危機とあぶり出された構造的問題
2.なぜホテル業界は低収益で低賃金なのか―五つの要因
3.コロナ禍で見えてきた都心ラグジュアリーホテルの新たな機会と役割
4.都心ラグジュアリーホテルの生き残り-五つの取り組み
5.明らかになった主要都心ラグジュアリーホテルのブランド力
6.主要都心ラグジュアリーホテルのプロモーション比較
5.明らかになった主要都心ラグジュアリーホテルのブランド力

 都心主要ラグジュアリーホテルがそれぞれどのようなブランド力を持つのか、どのような競争関係になっているのか、ターゲットとなるのはどのような顧客層であるかを調査結果からみてみる。調査設計は図表9のとおり。都心主要ラグジュアリーホテルは任意で12ホテルを抽出した。


都心主要ラグジュアリーホテルの宿泊利用状況

 まず、都心主要ラグジュアリーホテルの、宿泊経験率及び宿泊率は以下のとおり(図表9)。

  • 宿泊経験率は全体の20%(図表9-左図)
  • 20%のうち各ホテルの宿泊率は以下のとおり(図表9-右図)
  • 宿泊率が最も多かったのは、アパホテルで46%。
  • 続く2位はホテルニューオータニで32%
  • 3位は帝国ホテル28%、4位はThe Okura Tokyo 18%。

 対象ホテルでは、アパホテルが46%と高い割合を占めており、続いて、御三家、以降は外資系と続く。


図表9.主要12ホテルの宿泊経験率及び宿泊率


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 次に12ホテルのシェア、および1年以内の宿泊率を見てみる。宿泊経験ホテル数は、1人あたり、1.27回である。

 主な結果は下記のとおり(図表10)。

  • ホテルのシェアはアパホテルが最も高く28%、続いてホテルニューオータニ19%、帝国ホテル東京が17%、The Okuraが11%、以下外資系が続く。
  • 1年内の宿泊率は、アパホテルが44%、帝国ホテル東京が23%、ホテルニューオータニが15%、The Okuraが9%。
  • 1年内のコロナ渦でもアパホテルが高い割合を占めており、御三家が続く。


図表10.12ホテルのシェア(強さ)および1年内宿泊率


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 都心のラグジュアリーホテルは、ブランド力を競っている。その実態を探るために、都心主要ラグジュアリーホテルの固定客、認知状況やホテルの継続利用意向をみてみる。


都心主要ラグジュアリーホテルの固定客

 宿泊経験者のホテルへのロイヤリティをみてみる。ブランド力とは、ホテルの継続利用が固定していることである。まずは、任意の12ホテルでの宿泊経験の分布は以下のとおり(図表11-上図)。

 この分布をみてみると、顧客によって、ホテルへのロイヤリティが異なることがわかる。

 そこで、宿泊経験者ベースを利用ホテル数別にロイヤリティ分類してみた。

  • 1ヶ所    -「シングルロイヤリティ」層       -68%
  • 2ヶ所    -「やわらかいロイヤリティ」層      -16%
  • 3ヶ所以上  -「スイッチャー」層(使い分けする)   -15%

 シングルロイヤリティ層が68%と大勢を占める。その結果、確認できることは以下のとおり(図表11)。


図表11.宿泊経験者のホテルへのロイヤリティ


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  • シングルロイヤリティ層はアパホテルが53%と過半数を占める。
  • やわらかいロイヤリティ層は上位3ホテルがホテルニューオータニ52%、帝国ホテル東京40%、The Okura 32%と御三家が名を連ねている。

 このことから、「やわらかいロイヤリティ層」は御三家を使い分け利用をしていると思われる。

  • スイッチャー層の上位3ホテルはホテルニューオータニ81%、帝国ホテル東京76%、The Okura 60%と高い割合を示し、外資系のグランドハイアット東京35%、ウェスティンホテル東京33%、ザ・リッツ・カールトン東京29%とほぼ肩を並べている。

 御三家などの都心主要ラグジュアリーホテルのブランド力形成という観点からは、

  • アパほどにシングルロイヤリティ層が十分に形成できていない。

 つまり、シングルロイヤリティを形成できているのはアパホテルのみであり、アパホテルの差別性は、ターゲットを「サラリーマンの出張旅行」に設定し、ホスピタリティサービスをダウンサイズしたコスト優位の価格設定にあり、それが固定客づくりに繋がっていると思われる。

 出張を余儀なくされるビジネスマンの割り切った、利用頻度の高い、日常使いと都心ラグジュアリーのより高いホスピタリティを求める顧客、利用頻度の低さや非日常を期待されるホテルとの違いでもある。日用品とラグジュアリー品の違いである。

 しかし、都心ラグジュアリーホテルの課題として、ロイヤリティ層をいかに増やすかという課題は残る。シングルロイヤリティ層が形成されていない、「やわらかいロイヤリティ」層を、いかにシングルロイヤリティ層にするか、スイッチャーの自社ホテルへのロイヤリティをいかに上げるかである。

 ロイヤリティ層の多さは、顧客の獲得コストを最小化でき、価格の受容性も高いので、持続的な経営には不可欠な顧客である。


都心主要及び新興ラグジュアリーホテルのブランド力

 ブランド力を、認知、好意、飲食経験、宿泊経験、飲食継続利用意向、宿泊継続利用意向の継続利用に至る認知の段階ごとにみてみる。特に、固定客(シングルロイヤリティ層の多さ)と宿泊飲食経験者の継続利用意向の歩留まりを「ロイヤリティ」の高さとする。

 都心主要ラグジュアリーホテルのブランド力は以下のとおりである(図表12)。

  • 認知度が一番高いのは、ホテルニューオータニで61%。
  • 認知度から好意に繋がっているのは、帝国ホテル東京で18%。
  • 好意から飲食経験に繋がっているのは、ホテルニューオータニで58%。
  • 好意から宿泊経験に繋がっているのは、ホテルニューオータニで41%。
  • 飲食経験から継続利用に繋がっているのは、ザ・リッツ・カールトン東京で63%。
  • 宿泊経験から継続利用に繋がっているのは、ザ・リッツ・カールトン東京で68%。
  • 宿泊または飲食経験から継続利用に繋がっているのはザ・リッツ・カールトン東京で58%

 このことから、認知、好意、そして、好意から飲食や宿泊経験に結び付ける強さがあるのは、ニューオータニなどの御三家である。他方で飲食宿泊経験を継続利用意向に結び付ける強みは、ザ・リッツ・カールトンが最も強い。


図表12.都心主要ラグジュアリーホテルのブランド力


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 その他都心ラグジュアリーホテルについてもみてみる(但し、サンプル数が少なく参照程度)(図表13)。

  • 五つのホテルの中での認知度はパレスホテルが高く23%。
  • 認知から好意はアマン東京で15%。
  • 好意から飲食経験はパレスホテル東京で60%。
     (パレスホテルは先述のホテルニューオータニの58%を超えている)
  • 好意から宿泊経験は東京エディション虎ノ門で29%。
  • 飲食経験からの継続利用は星のや東京で64%。
  • 宿泊経験からの継続利用はアマン東京78%と最も高い。リッツ・カールトン68%を上回る。
     続いて星のや東京69%。フォーシーズンズホテル東京大手町は53%。
     東京エディション虎ノ門は大きく差をつけられている。
  • 宿泊または飲食経験からの継続利用は、星のや東京で56%。

 宿泊率シェアでは、御三家や既存外資系ホテルには及ばないが、潜在的な可能性は確認できる。

 宿泊継続利用に繋げることができるホテルとして高い評価を得ているホテルは、社員の家族意識でホスピタリティを提供するアマン、品質管理手法を導入しシステム化したチームワークで顧客の問題解決をするザ・リッツ・カールトンである。

 このことから宿泊継続に繋げるには、アマンやザ・リッツ・カールトンなどが独自システムで提供する安定したサービスの質、ホスピタリティが有効である。


図表13.都心主要ラグジュアリーホテルのブランド力


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ホテルのブランドの特徴―経験でブランドロイヤリティがつくられる

 ホテルの認知状況からホテルブランドをみてみると、消費財とは異なる特徴がある。ここで改めて、ホテルブランド力を高めるという観点からホテルのブランディングを考えてみる。

 ホテルブランドの特性を代表的な消費財であるビールの特性と比較してみる。

 結果は以下のとおり(図表14)。

  • 認知度はホテルでは御三家平均が57%、外資系3社平均が30%、ビールが平均65%。

 認知から好意は、ビール平均が40%に対し、ホテルは御三家平均が13%、外資系3社

 平均が10%とともに10%台となっている。ロイヤリティの指標である「経験/好意」の歩留まりは、

  • ホテル御三家平均が60%、外資系3社平均が49%、ビール平均が65%。

 「継続利用/経験」の歩留まりに関しては、

  • 御三家平均49%、外資系3社平均48%、ビール平均が51%

 経験からの継続利用について、ホテルとビールを比較してみると、ほぼ差はない。

 この比較から分かることは、消費財商品のブランドの特性は、認知、好意、経験、継続利用という認知段階をそれぞれ高めることが重要だが、ホテルは、認知から好意、好意から経験へとつなげることが難しく、ホテルは「経験してみないと品質が分からない」。これは、経験以前に品質が分からない「経験財」の特性を強く持つということである。

 つまり、ビールならブランド名を認知し、製品の特徴を理解して、好き嫌いの態度を形成し、試用、飲用、継続飲用に結びつくが、ホテルは、製品の特徴に相当するサービス特徴がわからない。特に、ホスピタリティの品質を事前に知ることは難しく、接客者によってまったく違う。実際に飲食や宿泊をしてみるしかない。ここが他の製品サービスとは違うところだ。

 従って、認知を高め、施設をアピールするマス広告よりも、何らかの行動のきっかけとなるインセンティブを活用し、プロモーションでブランド形成することが重要になる。そして、ロイヤリティを形成し、継続利用が見込める顧客層を獲得できるかである。


図表14.ホテルブランドの特性-ビールとの比較


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都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性

 ここでは、現在までに都心主要ラグジュアリーホテルが獲得した顧客特性のロイヤリティ層の比率をみてみる(図表15)。

  • アパホテルはシングルロイヤリティ層が79%と8割近くを占めている。
  • 帝国ホテル東京とホテルニューオータニはスイッチャー層が若干多いもののシングルロイヤリティも35%前後を確保している。
  • 外資系ホテルは、スイッチャー層が50%を超え過半数を占めている。


図表15.都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性(1)


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 宿泊経験者をもとに、都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性を年代別構成比、性別ライフステージ構成比でみてみた(図表16)。

性別年代
  • ホテルニューオータニは男性60代が16%、女性60代が20%と男女ともに60代の利用が一番多かった。昔からの顧客が多いと推測。
  • The Okuraは男性60代が最も多い。女性利用は特徴なし。
     ビジネス利用が多いと推測。
  • 外資系ホテルはそれぞれ女性40代の利用が際立っている。
  • ザ・リッツ・カールトン東京は30代女性、40代女性の利用に加え、50代男性の利用が21%と高い。
性別ライフステージ
  • 全体では男女ともに独身社会人、子独立が最も高い割合を示している。
  • 御三家の特徴は平均の割合と同じ形を示している。
  • 外資系ホテルは平均と比べて、違うライフステージ構成の割合を示している。
  • ウェスティンホテル東京は女性既婚子なしの割合が最も多く25%、グランドハイアット東京は女性既婚子なしが21%と一番多く、続いて女性子育て12%が平均より高い比率を示している。
  • ザ・リッツ・カールトン東京は女性独身社会人に次いで、女性子育てが18%となっている。


図表16.都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性(2)


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 次に都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性を世帯年収金額構成比、居住地域構成比に分けてみてみる(図表17)。

世帯年収
  • 御三家、外資系ホテルともに1,000万円以上の割合が高い。
  • 1,000万円以上の割合が高い上位3ホテルは、ザ・リッツ・カールトン東京が46%、ウェスティンホテル東京が39%、グランドハイアット東京が38%。
居住地域
  • 宿泊経験者合計の割合では、東京以外の関東の利用者が最も多い。
  • 帝国ホテルは東京以外の関東が最も多いが、東京都民の利用が25%と平均19%よりも高い。
  • ウェスティンホテル東京は、東京都以外の関東の利用者が44%と特に高い割合を示している。
  • グランドハイアット東京は東京都民の利用が27%で最も多く、九州・沖縄の利用客が平均より大きく上回り15%
  • ザ・リッツ・カールトン東京は、東京都民が39%と最も多く、調査した都心主要ラグジュアリーホテルの中でも最も多かった。


図表17.都心主要ラグジュアリーホテルの顧客特性(3)


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都心主要ラグジュアリーホテルの競合関係

 都心主要ラグジュアリーホテルの競合関係は下記のとおり(図表18)。

  • 御三家はやわらかいロイヤリティ層によって3ホテル間の間で競合関係が生まれている。
  • 御三家を軸に、外資系ホテル3ホテルの競合関係が生まれている。


図表18.都心主要ラグジュアリーホテルの競合関係(1)


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 都心主要ラグジュアリーホテルの競合関係を、各ホテルを軸として割合を調査した(図表19)。

  • 御三家それぞれの利用者は、他御三家も利用し、3ホテルの間を高い割合で利用していることが分かる。
  • 外資系ホテルは外資系のみというわけではなく、御三家を利用する割合も高い。
  • 御三家の顧客層は、御三家に偏って利用をしているが、外資系ホテルの顧客層は偏りなく幅広いジャンルで利用する顧客層と推測できる。


図表19.都心主要ラグジュアリーホテルの競合関係(2)


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 この結果は、2019年の全国の都心ホテルの利用状況を反映したものである。このことを踏まえ、都心主要ラグジュアリーホテルのブランド力に関して以下のようなことが言える。

  • アパは非常に強い。サラリーマンのエコノミーな出張ニーズの取り込みと集中で圧倒的な強さを持つが、都心ラグジュアリー層とは異なる層である。

  • 国内需要の観点からは、御三家が強い。特に、国内顧客のロイヤリティ層が多いのは、ホテルのブランド形成の特徴である飲食や宿泊を経験して形成されるという特性を持つので、都心ラグジュアリー市場での部屋数の多さと営業経験の長さが大きく影響しているとみることができる。

  • 他方、外資系ホテルや近年参入したホテルは、訪日外国人旅行者を獲得してきた経緯から国内需要への対応が遅れた結果として、国内顧客のロイヤリティ層が少ないと思われる。

 また、この調査で、ホテルのブランド形成は、認知からいかに経験にジャンプしてもらえるかが成功のカギを握ることがわかった。従って、都心ラグジュアリーホテルの固定客獲得競争は、低価格競争も含めて始まったと言える。

 その成功の鍵は、自社の固定客づくりに結びつく顧客層をターゲットに設定し、様々な価格だけではないインセンティブを駆使して、行動を促すプロモーションを開発していくことである。


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6.主要都心ラグジュアリーホテルのプロモーション比較

 ここでは都心主要ラグジュアリーホテルが現在どのようなプロモーションを行っているのかをみてみる。狙いは、ホテルの戦略転換の必要性、ホテルのブランド力と新たな競合状況を踏まえて、主要ホテルはどんなプロモーションを展開しているかをみるためである。

 これからの都心ラグジュアリー市場は、都民1,400万人の中の年間宿泊利用者70万人の91万泊を、都心主要11ホテル1日4,610室を中心に、年間168万室で奪い合う競争である。およそ1.6倍の宿泊競争率である。厳しい戦いが予想される。

 この競争の決め手はプロモーションである。戦略転換には時間を必要とする。その時間を繋ぎ変化の方向を先取りするのが、現在のホテルプロモーションの役割だ。効果的なプロモーションの仕組みを探り、稼働率を上げ、固定客を増やすプロモーション事例を明らかにしたい。


プロモーションの定義

 まず、プロモーションとは何か(定義)を明らかにしておく。

セールスプロモーションとは、消費者に短期的なインセンティブ(a short term incentive)を提供し、製品を購入して頂くこと(伝統的定義)

 まさに、現在のホテルが希求するプロモーションである。値引きをインセンティブに宿泊行動を誘導する仕組みである。

 もうひとつは、何らかの価値をインセンティブに活用し、ホテルへのロイヤルティを高めて固定客に行うプロモーションを加えたものである。

セールスプロモーションは、ターゲットに認知された製品やサービスの価格・価値関係を変えるマーケティング及びコミュニケーション活動であり、そのことによって、i)短期的な売上を創出し、ii)長期的なブランド価値を変更させる。

(Don Schultz. Sales Promotion Essentials より)

 具体的には、ホテルプロモーションとは、ターゲットに、短期的には、飲食や宿泊をして頂き、また、長期的にはホテルのブランドロイヤリティを高めるために価格や価値などのインセンティブを活用するマーケティング及びコミュニケーション活動である。

 すなわち、固定客づくりには、イベントや差別的な売り出したいプランを「経験財」として情報発信し、新規顧客を開拓し集客をする。特に、ホテルのブランドづくりは、単に認知を得るのではなく、いかに飲食や宿泊経験に繋げられるか、ターゲットに対し、いかに適切なインセンティブを打ち出して、宿泊予約に結びつけ稼働率を上げるかにある。


任意に選んだ12ホテル33ケースの特徴

 現状を知るために任意で選んだ12ホテル、33ケースのプロモーションを整理した。

 最初にその一般的な特徴をみていく。

 ケースの分析は、それぞれのケースを「商品サービスのジャンル」、「目的」、「ターゲット層」、「インセンティブ内容」、「流通」の項目で整理した(プロモーションケースは7月~8月の事例)。

 ここで、ターゲットを「ロイヤリティ」「カップル」「ファミリー」「リモートワーカー」「富裕層」「競合顧客」「価格購入者」に分類してみた(図表20)。

  • 売り込み商品サービスは宿泊が76%(33ケース中25ケース)
  • 目的は稼働率が94%(33ケース中31ケース)
  • ターゲットはロイヤリティ層が42%(33ケース中14ケース)
  • インセンティブは、経験価値が64%(21ケース)、値引きが58%(19ケース)
     (併用は7ケース)
  • すべてのケースが自社サイトでの流通、他社サイトでも売り出しているものは8ケース。

 コロナ渦で稼働率を上げなければいけないというホテルの課題は、どのホテルも共通しており、固定客をターゲットに、価値・価格のインセンティブで宿泊行動を誘導するプロモーションが一般的傾向である。


図表20.プローモーションケース


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 次に同プロモーションをTPOなどのオケージョン別に再分類してみた。結果は緊急事態宣言の機会を捉えた用途提案ものが39%(13ケース)、コロナ渦のストレス解消を狙ったもの36%(12ケース)などコロナ禍という危機をなんとか「チャンス」に変えようと取り組んだ結果であることがわかる。他方で、季節をとらえた年中行事のようなプロモーションも多い。


注目すべきプロモーション

 ここからは、33ケースのなかで、稼働率アップやブランドロイヤリティを高めるケースを紹介する。


ケース1 自社ホテルブランドの強み弱みを踏まえた戦略的なプロモーション

  • 機会を捉えて強みをいかす-帝国ホテル東京
  • 機会を捉えて弱みを克服する-ザ・リッツ・カールトン東京

 ここで改めて都心主要ラグジュアリーホテル6社のブランド力からみた個々のホテルの強みと弱みを整理してみる。その結果は、図表21のとおりである。


図表21.都心主要ラグジュアリーホテルブランドの強みと弱み


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 自社の強みを生かし、新しい戦略的なプロモーションを打ち出したのが帝国ホテル東京の「帝国ホテル サービスアパートメント」だ。

 レギュラーフロアに30泊で360,000円(サービス料・消費税込、宿泊税別)である。

 当初は3月15日~7月15日宿泊期間限定で99部屋が販売されたが、販売開始日の夕方には完売したという。

 特典は以下のとおり。

  • 専属サービスアテンダント
  • 駐車場無料
  • フィットネスセンター・プール・サウナ無料
  • お荷物お預かりサービス
  • ロビーラウンジでのコーヒー・紅茶無料
  • ビジネスラウンジや、ミーティングルーム無料(1日2時間)

 調査の結果にもあるとおり、帝国ホテル東京は価格競争に優位である。

 最低平均費用が14,368円の帝国ホテル東京は1泊あたり12,000円の宿泊プランを出したことは理にかなっているということになる。


ケース2 新セグメント新ニーズプロモーションーキャンプ提案キャンペーン

 遠出ができない都会のファミリー(子供)向けに、アドベンチャージャンルのプランが多い。

 "ホテルに居ながらキャンプ体験"
「リッツ・キッズ®ナイトサファリ」(ザ・リッツ・カールトン東京)

 このプロモーションは都会にいながらにしてアドベンチャーの醍醐味を味わえる。客室内に用意されるキャンピングテントによりアウトドア気分を満喫でき、子供の探求心や創造性をはぐくみ、まるで冒険に出かけるようなわくわくした気持ちを楽しんでもらえると謳っている。特典は以下のとおり。

  • お部屋でのキャンピングテント体験
  • 持ち帰りスペシャルアメニティー
  • レストラン朝食付き

 持ち帰れるアメニティーはホルダー付きのパスポートやバックパック、クレヨンセットやスリッパなど12点あり、その他冒険気分を味わえるプラネタリウムやランタンなどアメニティーも部屋に用意される。夏休みというイベントを利用したコロナ渦での今までにない新しい発想であるといえる。調査結果を参照しても分かるとおり、女性40代、女性子育て層を顧客特性に持つザ・リッツ・カールトン東京としては適したプロモーションである。

ケース3 コロナ疲れを癒すためのウェルネスに特化したプラン

 コロナ渦でストレス解消ができない今、健康を見直そうと誘引するプロモーションも多くみられた。その中では、ターゲットも30代40代、トータル的にウェルネスに特化したプロモーションを出していたのはパレスホテル東京だ。

「RETREAT & RESTART」(パレスホテル東京)

 特典内容は以下のとおり。

  • コールドプレスジュース専門店 FARMERS' JUICE TOKYO のジュースクレンズプログラム
  • 日本料理 和田倉がこのプランのためだけに考案した準備食・回復食やエビアン スパ 東京のボディトリートメント
  • ヨガマットをお部屋にご用意
  • お持ち帰り可能なオリジナルファブリックミスト

 8月中にはこのプランでの宿泊は満室であった。コロナ渦で健康を考えるターゲットに対して的確なプロモーションであったと考えられる。

ケース4 消費リーダーを明確にしたワーク対応のタイアッププロモーション

 テレワークの顧客層をターゲットにしたプロモーションも多くみられた。任意の33ケースはすべては拾っていないが、ひとつのホテルがテレワークを対象にしたプランをひとつではなくチェックイン時間や付加価値を変えて数種類出している。

 中でも、ターゲットが明確、付加価値の豊富さ、金額設定としても効果的と考えられるプロモーションがアンダーズ東京だ。

「My Premium Week at Andaz - Autumn Treat」(アンダーズ東京)

 特典内容は以下のとおり。

  • お部屋(50m2)からお好きな眺望を選択可能(ご予約時/*タワービュールームのみ料金が異なる。)
  • 館内レストラン、ルームサービスのご利用15%OFF(テイクアウトご利用時を除く)
  • ご宿泊日数分のプレミアム特典チケット(下記5種より選べる特典。1特典1チケットor 2チケットで利用可)
    1. "運動の秋"を満喫!地上約250mのルーフトップ テラスでストレッチレッスン(日曜限定 朝7:30~)
    2. BeBuのバーガーセット または、ペストリー ショップのケーキセットで秋グルメを堪能
    3. 秋のオリジナルカクテル/モクテルをルーフトップ バー/ザ タヴァン ラウンジで
    4. 秋の味覚おつまみセット"部屋飲みBox"で秋の夜長を満喫
    5. ルームサービスのワンプレートブレックファストセットでフレッシュな朝を

     特徴としては7泊8日のロングステイで稼働率を狙うプロモーションである。

     価格は7泊8日で163,900円(2名1室利用料金/税込み・サービス料別)1泊約23,000円という安い価格設定になっている。

     選べる特典のジャンルのバリエーションも、利用する目的の選択肢を広げることができる。

     また、ファッション誌「Marisol」で"アラフォー女性の心と体を解き放す"と紹介されており、そのターゲットが明確であることが分かる。


    プロモーションテクニックの傾向

     コロナ渦によってホテル業界の市場は変わった。外国人客から国内客の集客へスイッチされ、ニーズは旅行目的からライフスタイルの一部としての需要にシフトされる。多くのホテルではすでに市場のニーズを捉え、素早く動き出し、今までにない客室や宴会場の活用を生み出した。

     今回のプロモーション調査では、「外で遊びたい子供の欲求に答える」、「緊急事態宣言により、外食やお酒が飲めないことを利用する」、「ホテルクレジットを付けてFB収益を獲得しながら稼働率を上げる」、「2泊したら3泊目無料などの1plus1のような仕組みで稼働率を上げる」、「テレワーク」、「ストレス発散」などコロナ渦でのニーズに応えるプロモーションが多くみられた。

     しかし、画期的なアイデアであってもそのプロモーションがいかに自社の顧客特性に適したものであるか、利益性のあるものであるのか、効率的に経験に繋げるインセンティブがうまく構築されているかが重要である。

     そこを踏まえて、直近で稼働率を獲得する、長期の固定客を見据えることが必要である。


    行動直結とブランドづくりプロモーションへの教訓

     今回の調査では、ホテルブランド力は日用品とは違い、認知が継続利用に繋がることはないということが分かった。

     また、ほとんどの都心ラグジュアリーホテルがシングルロイヤリティ層を獲得できていないこと、競合ホテルを共有していること、それぞれのホテルによって顧客特性に違いがあることが分かった。

     行動直結とブランドづくりプロモーションへの教訓としては、いかに自社の顧客特性を捉え、競合ホテルを利用するやわらかいロイヤリティ層を少しでも多く獲得し、シングルロイヤリティ層へと固定していくかが重要ではないかと思う。

     その点を踏まえ、有効的な行動に繋げるプロモーションを売り出していくべきである。

     今回の調査では各ホテルのプロモーションは、そのホテルだけが特別に打ち出しているという差別化されたプロモーションは見つからなかった。事例に挙げたキャンプのプロモーションであっても同じプロモーションを出しているホテルもあった。プロモーションを考える上でニーズに対する着眼点が同じなのであろう。これからの国内客獲得倍率1.6倍の競争下では更なる差別化された特別なプロモーションを打ち出す必要があり、競争激化が予想される。


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    本稿で取り上げた12ホテル、33ケースのプロモーションを整理した一覧表を、近日販売レポートとして提供予定です。

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■「消費社会白書2022」調査設計



著者プロフィール

千葉ともみ

都内の日系、外資系ホテルで10年以上の勤務経験がある。

現在は、JMR生活総合研究所のマーケティングクリエイター。


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