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公開日:2021年10月14日

都心主要ラグジュアリーホテルのリバイバル戦略と行動直結プロモーション
―産業衰退死段階の生き残り戦略【2】
松田久一・千葉ともみ


構成

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1.ホテル業界の稼働率危機とあぶり出された構造的問題
2.なぜホテル業界は低収益で低賃金なのか―五つの要因
3.コロナ禍で見えてきた都心ラグジュアリーホテルの新たな機会と役割
4.都心ラグジュアリーホテルの生き残り-五つの取り組み
5.明らかになった主要都心ラグジュアリーホテルのブランド力
6.主要都心ラグジュアリーホテルのプロモーション比較
3.コロナ禍で見えてきた都心ラグジュアリーホテルの新たな機会と役割

 2021-2022年度の都心ラグジュアリーホテル市場は厳しくなることが予想される。

 しかし、コロナ禍は、ホテルの新たな利用者と新しい用途の可能性を広げた。


都内まで1時間圏内の顧客の再発見と第2の自宅ニーズ

 顧客の面では、国内外の旅行者ではないワーカー、地域レジデンツや女子会などの様々なネットワークが注目される。旅行者ではない新たな顧客層が発見された。

 第2に、ホテルの新しい用途が拡大したことである。ホテルは、自宅から1時間圏内で移動できる、仕事に集中できる場であり、都心のもうひとつの自宅の部屋であり、エステ三昧の場であり、ストレスを癒す場であり、短期間のサービスアパートメントであり、都心を散策する江戸文化との出会いの場であり、都心の季節の旬を楽しむ場であり、ランチをエレガントに楽しむ女子会の場であることなどが再発見された。狭い都心部の居住空間を補完する「第2の自宅」の役割だ。

 さらに、ホテルが、財だけでなく、他の財とのコーディネート、様々なサービスやホスピタリティを統合的に提供できることによって、消費の最先端をリードする経験財の提供の場であることが注目できる。


経験財の消費をリードする非日常空間

 消費からみるとホテルは「経験財」を提供する最先端の場である。「経験財」とは、事前に品質がわからず体験してみないとわからない財である。イベント、コンテンツやOSなどのソフトウェアなどが典型例である。現代は、単品で消費されていた財が補完財と組み合わさり、システム化され、サービス化されて経験財化している。

 現代の消費の経験財化を探るために、ここでパンを中心にした食事シーンに対する支払費用(「xxでのパンを中心とした食事に支払った金額」)と支払意思価格(WTP:Willingness To Pay)(「xxでのパンを中心として食事にどの程度の金額を支払いたいと思いますか?」)を調べてみた(「消費社会白書2022」)。


図表8.パンを含む食事の経験財化 ― 独立財の高度化


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 この結果からホテルでパンを食べるコスト(値段)は、職場の約12倍である。さらに、この費用の差にも関わらず、消費者は満足している。それは、ホテルで食べるパンの食事シーンの「支払意思価格(WTP)」は、5,204円と高く、実際に支払った4,661円を上回っているからである。

 ホテルは単に食材を加工して提供しているのではない。食器、テーブル、演出、雰囲気、そして、ホスピタリティの提供によって、消費者に「経験」を提供している。ホテルは食材やメニューを提供する場ではなく、パンを経験財として提供してくれる場として期待されている。

 コロナ禍で再発見されたホテルの新しい顧客層と新しい用途、そして、提供サービスの経験財化は、都心ラグジュアリーホテルの事業空間を広げ、ホテルに新しい機会を提供し、新しい役割を提示するものである。


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4.都心ラグジュアリーホテルの生き残り-五つの取り組み

 都心ラグジュアリーホテルは、国内外の旅行者が激減したことにより、目前の稼働率アップによる生き残り課題と構造的な低収益・低生産性・低賃金問題が脅威となっている。他方で、旅行者ではない新しい顧客や新しい用途の機会もみえてきた。

 従って、個々のホテルは、自社の機会と脅威を識別(SWOT)し、そして、弱みと強みを確認した上で、独自の戦略(TOWS)を組み立てていく必要がある(SWOTの説明へリンク)。

 この戦略転換の共通の必要条件は五つである。


三位一体経営の見極めと集中

 資産投資とホテル運営の分離は、資金手当を考慮すると必須だ。これからの焦点は、大手外資チェーンのブランド力をどう評価するかである。見直し、再交渉は必須だと思われる。数年はロイヤリティに対する対価はあまりない。


都心ラグジュアリーホテルの「差別化集中」戦略を磨く

 都心ラグジュアリーホテルは、ホスピタリティによる「差別化集中」の戦略グループに属している。結果として、施設とブランド名が異なるだけで提供サービスに差はなく、価格にも転嫁できていない。戦略グループ内のホテルはすべて同質的な差別化しかできていない。

 従って、より差別的な価値を提供するためには、他ホテルと異なる活動をし、違う価値を提供することである。その基本は、他ホテルとの競争の幅(=顧客セグメントとターゲティング)を明確にすることである。


個人のホスピタリティに依存しないしくみづくり

 現在の差別化戦略の実質はホスピタリティである。しかし、それは会社が持続的に提供できる金銭的な裏付けのあるものではなく、ホテルマン個人に依存したものである。これを差別化の武器にするのは、社会的に通用するスキルアップ支援に加え、金銭的裏づけが不可欠である。そのモデルは、言うまでもなく、ホスピタリティにチームによる品質管理の手法を取り入れ、日本よりも年収がはるかに高いものである。

 ホスピタリティを会社の独自のシステムで持続的に提供し、価格に転嫁できないならば、ホスピタリティによる差別化は合理的な選択ではない。差別化する提供価値を、旅行者のためのホスピタリティの高い飲食宿泊サービスからホテルの日常用途や経験価値の提供サービスへと転換すべきである。


販売先・仲介先との価格交渉力をつける

 自社の販売チャネルが、代理店やネット販売に過度に集中し、価格交渉力を失い、価格リーダーシップを握られないように、自社のネットチャネルや販売先の多元化を意識する。そして、自社のネットチャネル比重を上げていき、価格リーダーシップを維持する。


産業としてホスピタリティの持続提供を可能にし、金銭的に報いられる制度を構築

 現在のホテルの差別性はホテルマンの属人的ホスピタリティに依存している。それは個人の「やりがい」や「達成感」などの非金銭的報酬で支えられている。しかし、この選択は、自らの自由な選択というよりも、長い拘束時間のなかで、他の仕事の選択の自由がなく、低賃金と厳しい雇用条件で不利な雇用条件の承諾を余儀なくされている側面が強い。

 この問題は、ホテル経営の社会的責任、経営方針や基本戦略の問題であるとともに、産業政策としても取り組む必要がある。企業は、低賃金を前提に、企業にしか通用しないスキル教育ではなく、社会に通用するスキル教育を行い、成果に金銭的に報いる制度をつくるべきである。企業市民として社会的責任だ。

 産業としては、391万人を擁するサービス産業のリーディング産業として位置づけ、業界の近代化と健全化を優先すべきだ。低賃金、過酷な雇用条件を放置して、訪日客「30年6,000万人」の回復などあり得ない。

 厳しい雇用条件の「悪用」の温床となっている労働基準法の厳格適用と指導、そして、労働市場に積極的に介入し、スキルアップ支援などで、被雇用者の賃金交渉力を上げ、雇用の流動性を高める支援をする必要がある。大手ホテルでも、シフト制が適応されているにも関わらずマネジャー職として残業代未払い、違法な長時間労働やサービスが常態化している。

 また、ホテル間の競争を促し、ホテルが他ホテルとの「暗黙の合意」を破り、「抜け駆け」賃上げをするよう促す制度を導入する必要がある。また、ホテルの専門学校などの未成年向けの広告で「やりがい」など主観的で根拠のない表示をするなどの訴求を制限すべきだ。

 持続的な競争優位に繋がる戦略転換を、ホテルが進め、政府が低賃金に陥っている産業構造を変える政策を推進する。こうした長期利益をめざす一方で、個々のホテルの喫緊の課題は、目の前の客室稼働率を上げることである。その解決策は、経営の安定基盤である固定客を見定め、ホテルへの長期のブランドロイヤリティの強みと弱みを分析し、顧客の直近の宿泊などの行動変容を促すプロモーションを効果的に展開することである。

 「動物」のように動いて顧客を獲得できない立地に規定される「植物」的なホテルにとって、顧客の行動を迫る攻めの唯一の手段は、プロモーションしかない。プロモーションで攻めるのが危機下の最適手段だ。

 都心ラグジュアリーホテルに関して言えば、ここ2~3年はインバウンドは期待できない。都内居住の推定宿年間泊数の約91万泊を都内主要11ホテルが供給可能な約168万室で奪い合うことになる。11ホテルに均等に配分されたとして宿泊部屋稼働率は約54%で全ホテルが赤字になる。従って、ライバルホテルから顧客を奪うか、国内旅行者を獲得するしかない。競争率は約1.85倍である。


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■「消費社会白書2022」調査設計



著者プロフィール

千葉ともみ

都内の日系、外資系ホテルで10年以上の勤務経験がある。

現在は、JMR生活総合研究所のマーケティングクリエイター。


参照コンテンツ


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