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公開日:2022年02月07日

明日のクルマはどこに飛ぶのか
―次世代モビリティ展望
代表取締役社長 松田久一、顧問 西橋裕三
編集:合田英了


 本稿は、「EVが変える市場と競争-『拡・自動車市場』への脱成熟と自動車メーカーの脱皮」を素材として、弊社顧問 西橋裕三氏ならではの視点で「次世代モビリティの方向性」をご提言いただいたものを、特別編として取りまとめたものです。

 弊社代表取締役社長 松田久一が、「クルマ買うなんてバカじゃないの?」という衝撃的なコピーで話題を呼んだ若者消費の研究書「『嫌消費』世代の研究 経済を揺るがす『欲しがらない』若者たち」(東洋経済新報社)を出版してから13年。いま、この本のとおり若者たちはクルマを買わなくなっています。

 今後、クルマの未来はどうなっていくのか?

 大手広告代理店時代、「トヨタ/エスティマ 天才タマゴ」「湖池屋カラムーチョ」など数多くのキャッチコピーを考案され、クリエイティブをリードしてきたコピーライターで現在弊社顧問も務める西橋裕三氏に、「未来のクルマ」について語っていただきました。

 前半は、西橋氏よりご提言いただいた内容を、後半は、松田との対談の模様をお伝えします。

PARTⅠ「次世代モビリティ雑感」編

1.干渉しあう世界

地球温暖化を軸にして、色々なことが回り出しています。

 「地球温暖化問題が全ての問題に優先する」という認識がグローバルに定着し、産業の流れに、国や共同体の政治的な力が加わって世界潮流となっています。「次世代モビリティ」の方向もこの円環から抜け出るものではありません。


2.地球への負荷

 こうした前提に立つと、「クルマなんかいらないんじゃないか」「これ以上、この星に負荷をかけてどうする」という捉え方が出てきます。

 「ゾウの時間 ネズミの時間」[1992](本川達雄著/中公新書)という本があります。「行動圏や生息密度は動物のサイズと一定の関係」があり、「人間だけがサイズと使用する総エネルギー量の正の相関関係から大きく逸脱している」という話です。

 地球というのは人間だけのものではでなくて、人間は地球や生き物のほんの一部でしかないわけです。産業革命以来、私たちはこのことを見て見ぬふりをしてきました。


3.便利と理念の折り合い

 とはいえ、クルマがなければやはり不便です。「便利」と「理念」の折り合いをつけながら生きていくのが「生活」というものです。

 C.W.ニコル[1940-2020]さんは長野県黒姫の「アファンの森」で馬による間伐材の「運搬」を始めました。クルマだと舗道が必要で森を傷めます。林道なら馬を歩ませることで、運搬だけでなく「エコサファリ」として観光に使えます。これは「理念」です。

 新しいパラダイムを迎えるのであれば、せめて「地球」を視座に置きたいと思います。


4.ケータイとクルマ

 私たちは、将来「クルマ」を何と呼んでいるでしょうか。日本人は短い言葉が好きだと思うので、「ケータイ」を「ケータイ」と言い続けているように「クルマ」も「クルマ」と言い続けるんじゃないかと思います。ただ、実態はもう全然変わっています。

 2007年、スティーブ・ジョブスがiPhoneを発表して街の風景が一変しました。「携帯電話」は「携帯できる電話」でしたが、「スマホ」は人々の生活の全般にわたって関わりを持つ「相棒」となって、あらゆる人が様々な場所でひたすら「スマホ」を眺めるようになりました。

 日本にクルマは7,500万台あります。アメリカで2億数千万台、中国で1億5千万台です。これらがネットワークで結びつくと「リアルタイムに動く情報HUB」になります。クルマは今、劇的な拡張期にあります。


5.走る行政

 昨年、「TOKYO MER~走る緊急救命室~」[2021年7~9月放映](TBS)というドラマがありました。特注の医療車両(走るER=mobile Emergency Room)で事故や事件が発生した現場に急行し、緊急救命手術を行う特命チームの物語です。

 リモートでは解決しない「現地・現場」主義が必要な状況・ニーズ・仕事はいくらでもあります。その時にものをいうのが「モビリティ=移動体」です。救急車、消防車、パトロールカー、それらが進化すると、「クルマ」の概念から大きく逸脱し「走るコミュニティ」「走るアミューズメント」「走る自治体」「走る行政」になります。

 ネットワークとAIが融合し、従来ならそこに行かなければ受けられなかったサービスが、向こう側からやって来てくれる。日常の風景が急速に変わってきています。


6.クルマの世界潮流

 ハイブリッドカーで出遅れた欧米中は地球温暖化を好機として一挙にEVに舵を切りました。もはやICE(内燃機関)を一部でも取り入れたハイブリッドやPHEVに戻る可能性はないでしょう。急進的であれ、斬新的であれ、世界がEVの方向にしか向かってない以上、日本もその歩調に合わさざるを得ません。

 問題はクルマを従来のクルマの「延長」とみるのか、「新しい環境」と捉え直すのか、その頭の切り替えです。前者であれば、今後欧米中に追いつくことは多分ないと思います。

 トヨタという会社は豊田織機という、織物業がルーツの会社です。マシンを扱うというところでは、織機から車という一貫性はあるのですが、モビリティという面ではほぼ断絶しています。つまり、クルマの世界に取り組むという冒険を一度やっています。

 その実験精神の表れとして、「Woven City(ウーブン・シティ)」があると思います。クルマや環境やビックデータと接続させることによって、「人が中心の街」を創っていく実験的な試みです。ここからクルマの近未来像が見えてくると思います。


7.飛ぶクルマ

 ここで3次元に問うてみたいのですが、飛ぶクルマは、いつ実現するのでしょうか。

 「THE JETSONS」[1962-63]という2062年をモデルにした、アニメがありました。ジェットソンという一家がいて、お父さんがサラリーマンで、空飛ぶ車で出勤します。会社に着いたら、空飛ぶクルマが「ぱぱっ」とコンパクトになり、アタッシュケースの大きさに収まります。あと40年で2062年。そこまで人類はいけるでしょうか。

 当時の人々は、100年後のイメージでこの作品を作りました。実際は、SkyDriveという日本の有志が設立した会社が、2020年、有人飛行テストを成功させました。販売は2023年あたりに考えているようです。





 飛ぶモビリティというのはできるだろうと思いますが、問題は法整備です。「Woven City(ウーブン・シティ)」のように1企業が独占的に取り組める都市ではできますが、公共的な自治体の下に展開させるには時間がかかるのと思います。


8.明日のクルマ

 「空飛ぶクルマ」ができて従来のクルマは陳腐化するでしょうか。一方、近宇宙での覇権争いをしているように、空飛ぶクルマの未来は「様々な地理的事情」によって絵空事のままで居続けるでしょうか。

 かつてスティーブ・ジョブスがiPhoneを発表した時、iPodにダイヤルをくっつけてジョークにしたように「まだクルマにタイヤが付いてるよ」という、タイヤがないことが常識になる未来が本当に来るのでしょうか。

 答えはそう遠くない未来にありそうです。未来はいつも唐突にやってくるのです。


9.明日のクルマ(完全自動化以降)

 完全自動化というのが物理的にも法律的にも完全にクリアになると、クルマは2方向に分かれていくと思います。

 ひとつは、限りなくアミューズメント、エンターテインメントに振り切ったモービルシアターのような方向です。ソニーが、360度画面で、リアルで走っている場所ではない場所を映しながら大広場を駆け抜けていく、風景を見ながら体感することを提案しています。体が動きながらも、すごい映像を見せる、ムービングシアターです。刺激を極限まで推し進めて体験を提供する方向です。

 逆に、新幹線をみると、ビジネスマンはほぼ寝ています。安全な移動体であればいい、その間は、ひたすら寝たいということです。刺激や情報を一切遮断して、目的地に着くまでは自分の時間として眠りたいというのがビジネスマンのあり方ではないでしょうか。完全自動化されて、30分以上、小一時間以上の距離であれば、寝ることに費やしたいと思うのが、ビジネスマンの本音ではないかと思います。心地よい空間にしてあげる方向が求められると思います。つまりドライバビリティがもたらす快感はいらない。ドライバビリティはクルマに任せて、積極的に、睡眠する場所として閉鎖的で排除的な場所を享受したい。という方向に別れていくということです。





 例えば30分という移動時間をどう過ごしたいか。ちょっとでも情報をたくさん得たいのか、そこではせめて情報を遮断して自分だけの時間にしたいのか、時間の使い方への違いがクルマをふたつの方向に分けていくと思います。





PARTⅡ:次世代モビリティ対談

10.EVの時代は来るのか

松田 お話を伺っていて私が感じたのは、西橋さんは、地球の歴史という観点からみると、もうEVしかないだろうと。そんなニュアンスが伝わってきました。

西橋 もっとイノベーションが自由であれば違う選択肢があるかもしれません。核融合など、全く違うエネルギー源が利用される時代が来るかもしれません。全世界的にグリーン化、そしてEVの方向に向いている中で、アンチを唱えるのは容易ではないです。再生利用可能エネルギーを使うことも含めて、クリーンでグリーンなエネルギーを使う移動体を目指さざるを得ないし、それにしか未来はないと思います。


11.クルマをクルマと呼ばなくなる日

松田 二番目に、西橋さんはEV時代の車は、やはり「クルマ」という音は残るだろうと提案されました。クルマという「記号表現」は変わらないが、「記号内容」は変わっていくということですね。

西橋 恣意的に作った名前は消えていくと思います。私は、内容(シニフィエ)は変わっても音(シニフィアン)は残っていくと思います。将来的には新しい言い方をしているかもしれませんが、当面はクルマという言い方を続けると思います。中身は全然違うのにスマホも「ケータイ」と呼びます。タイヤがなくなった時点でもまだクルマと呼び続けていると、いずれ「あれ、これ飛んでるのに何でクルマって言うんだっけ」とどこかで誰かが言いだして「ああ、そうだよな」という遅さで、クルマという言葉が消えていくのではないかと思います。


12.完全自動化でやっと「自動車」になる

松田 記号内容の部分は、情報のHUB化であり、走る行政であり、遊ぶ車で、色んなコンテンツを含めた内容に変わっていくんじゃないかというような見立てですよね。

西橋 そうですね。拡張というとかっこいいですけど、拡散ともいえて、ものすごく実態がぼやけてきてますよね。自動車って「自ら動く車」です。本当は、完全自動化した時に初めて自動車が自動車になったといえると思います。今までは人間が主導権を握ってハンドルを握って、判断して操作しないと自動車は自動車として動かなかったんだけれども、完全自動化がされた時点で、やっと自動車なんですよ。言葉の方が全然先に行ってたんじゃないかと思っています。


13.飛ぶクルマへの憧れ-スーパージェッターと筋斗雲

松田 私も西橋さんも同世代なので、「飛ぶクルマ」ってすごい関心があるんです。私の少年時代は「スーパージェッター」[1965~1966年](TBSの SFアニメ)でした。

西橋 究極は「筋斗雲」だと思います。植物というのは動けないので、動物を超えた戦略というのがあります。動物を動かして、自分を生かす元締めみたいなところが植物にはあります。動物である限り自由に動き回りたいというのがすべての動物が持つ本能だと思います。

西橋 一日千里、もっともっと行きたいという、そして鳥のように空を飛びたいという、いろんな動物を見ながら人間はそれを真似してきました。鳥だったら飛ぶためにあらゆるものを捨てて犠牲にしているにもかかわらず、人間は犠牲のないまま飛ぶ能力を手に入れました。だから、歴史の中で人間の拡張が行われていく過程で、乗り物が進化していったと思います。車から飛行機になって、ロケットになりました。ただ、燃料を使いますし、事故もあります。一方、筋斗雲は雲だから、事故もないし、ぶつからない、夢のモビリティです。人間の想像力の限界にある乗り物です。


14.人間らしさと自由への欲望

松田 人間も植物から進化してきているんで、人間って植物性の側面と動物性の側面があります。やはり動物としての動きたいという欲望の究極が「スーパージェッター」なのでしょうか。

西橋 時間はどんどん早くなり、加速し、秒単位もしくはマイクロ秒単位で色々な物事が決済される時代です。人間のスケールを越えているものもあって、世界の把握ができなくなってきています。だからその反動で、人間本来の持つタイムスケール感を失いたくないという気持ちを、持ってると思います。

西橋 ハードもソフトもどんどん発展していって、細かく刻んだ時間を生きざるを得ないことを要求されている、そのジレンマでずっと現代人は生きているわけです。でも1日24時間というのは変わらないわけで、もっと人間らしさという願望と、もっと自由を得たいという人間の欲望の間で揺れるんだと思います。


15.ドライビングタイムがなくなる時-時間を何に使うか

松田 もうひとつ思いましたのは、自動運転車はドライビングタイムが無くなるので、時間の使い方、ドライビングタイムをセーブした時間を何に使うかの選択が求められるということですね。

西橋 時間に対する考え方の問題です。自分の人生をどう捉えるかに最終的には行きつきます。例えば壮年期、30、40、50代くらいまではがむしゃらに働きたい。働くためには、動かさないとダメ、運動しなければダメ。移動の時間ぐらいは休みたいと思います。

西橋 全身麻酔みたいなもので、移動している間は意識をなくすぐらいの、気が付いたら目的の場所に着いていた、ただ体を休めていたいということが、全自動ならできます。快適に眠れる車が求められるのです。軽く一杯やってもいいわけで、寝て、目的地に着く。本当の完全な自動運転車ならこれができるわけです。車だって酒を飲めるようになるかもしれません。

松田 西橋さん、本日はありがとうございました。


さいごに

 EV化は自動車や情報家電といった業界の垣根を崩し、アップルやソニーなどの新たなプレーヤーが自動車の概念を変えていく。一方、完全自動運転は、人々を運転から解放し、私たちは新たな空間を手に入れ、そこで食べたり、寝たり、仕事をしたり、コンテンツを楽しんだり、買物をしたりと、様々な商品やソフト、サービスを楽しむようになる。企業にとっては、単なる膨大な移動時間が、新たなビジネス機会に変わる。自動車はますます単独では存在できない財になる。次世代モビリティは、モノという存在を超えて、様々な情報やサービスと一体となって、今までにない体験を提供する経験財になっていく未来がうかがえた。


プロフィール

西橋裕三氏

当社顧問。
1958年大阪生まれ。早稲田大学法学部卒業。1982年、大手広告代理店入社。
2018年同退社。カンヌ国際広告賞金賞、ACC賞ほか多数受賞。
「トヨタ/エスティマ 天才タマゴ」「湖池屋カラムーチョ」「味の素 ちゃんとちゃんとシリーズ」など。現在フリーのコピーライターおよびイラストレーター。TCC(東京コピーライターズクラブ)会員。
著書「空想絶滅図鑑」。


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