アルビオンの売上高が伸びている。1996年度には238億円だったのが2018年度には686億円と、過去23年間で約3倍にまで伸長した。一方で、中心チャネルである化粧品専門店の店舗数は20年前と比較して、約3,000店から約1,400店に絞り込んでいる。
だが、順風満帆な右肩上がりの成長だったわけではない。増収増益の後、2009年度から500億円の壁に直面したのである。
1990年代後半以降、アルビオンは2008年度まで12期連続増収を達成。ロングセラー商品「スキンコンディショナー」のほかにも、積極的に新製品を投入した。また、2000年以降は化粧品専門店の絞り込み・1店当り売上の拡大を進め、着実に成長を遂げてきた。
しかし、売上高500億円を目前にしながら、2009年度に減収に転じた。そして、その後3期連続の減収が続いた。この当時、店舗数は約1,600店と90年台後半の約半数にまで絞り込まれている。
減収の主要因は、化粧品専門店の売上減少である。1997年の再販制度の撤廃により価格が自由化され、価格を武器にするドラッグストアが台頭、通信販売も伸び始め、化粧品専門店の集客力が弱まった。2005年から続けてきた「既存品」、「既存客」、「既存店」の三つに集中するという育成策が限界にきたのである。
図表.アルビオンの売上高推移
減収が続くなか、2011年度に「新5ヶ年計画」が策定された。重点施策は、シリーズの大型リニューアルは行わず、1品1品の個性・独自性を高めていく「新製品発売数の絞り込み」、既存客を中心に来店客数と来店回数の拡大を最優先に取り組む「365日のお客さまづくり」のふたつだ。
そのうえで、化粧品専門店の成長目標を定めた。年商1億円以上のショップを34店から100店、年商6,000万円以上のショップを97店から300店、年商3,000万円以上のショップを277店から600店に増やすことを目指した。業態として成熟期と衰退期のはざまにある化粧品専門店にとって、この目標は非常にチャレンジングなものだった。
これを実現するために、まずはテナント店への大胆な資源シフトを図った。前4ヶ年計画で、改善すべき点がふたつ確認できていた。ひとつは、路面店の売上はほぼ横ばいである一方、ショッピングセンターなどに出店しているテナント店は2ケタ成長を遂げていたことだ。こうしたテナント店に対しては年率105%以上の売上目標を立て、新客獲得に活動の重点を変え、総客数の拡大を狙ったのである。
もうひとつは、化粧品専門店の成長プランである「EX-PLAN」の徹底である。「EX-PLAN」自体は2002年から続けている成長活動計画である。しかし、導入から10年近くたち、おそらくマンネリ化していたと考えられる。この計画を既存客育成だけではなく、新客獲得の計画に作り替えたことが大きい。
またこの間、大型単品アイテムである「エフラクチュール」(数々のコスメアワードを獲得)導入や人気ブランドである「ポール&ジョー」の有力化粧品専門店への積極導入を図った。
業績は2012年度から好転し、4期ぶりの増収を実現した。その後は再び成長軌道に乗り500億円の壁を突破。そして、2018年度には売上高686億円にまで拡大した。化粧品専門店数はさらに絞り込まれ、2018年12月時点では1,351店となっている。
また、2018年度には年商1億円以上のショップが96店、年商6,000万円以上が149店、年商3,000万円以上が261店となった。成長目標として掲げた年商1億円以上のショップ100店舗は、ほぼ目標を達成した。
このように、同社は中心チャネルである化粧品専門店が、自社の優位性を発揮する基軸であるということを忘れなかった。ともすれば、Eコマースやセミセルフなど新たな業態への参入などを考えがちだが、化粧品専門店のなかで成長力のあるテナント店というセグメントに集中することで、500億円の壁を突破することができたのである。
2016年度からの中期計画では、「EX-PLAN2021」を展開しはじめている。これは、大型化粧品専門店の更なる育成が柱となっている。2016年度から創業70周年にあたる2026年までに、年商2億円ショップを11店から100店へ、年商1億円ショップを85店から200店へ、年商6,000万以上ショップを149店から300店へという高い成長目標を掲げている。
その柱となるのが、アルビオンブランドのみを取扱うオンリー店政策である。その実現のため、同社はふたつの業態を開発した。
ひとつは、アルビオンのセレクトショップと位置づける「アルビオンドレッサー」だ。コンセプトは「キレイを自由に」。アルビオンの化粧品とアルビオンがセレクトした雑貨をラインナップしたコスメストアとなっている。この業態は、アルビオン主導の運営で、店舗コンセプト、接客方針、デザイン、ビジュアル・マーチャンダイジングなど意思決定のほとんどを同社が行っている。現在18店展開しており、2018年度の既存店売上は前年比148.5%という高い伸びを示し、平均年商は1億1,000万円である。
もうひとつは「アトリエアルビオン」である。こちらは、アルビオン、エレガンス、イグニス、インフィオーレという四つのブランドの顔が見える店を目指している。コンセプトは「あなたをキラキラさせる、キレイがいっぱい!」。アルビオンが手がける四つのブランドの異なる魅力を発信しながらあなたというキャンバスに、あなただけのキレイを描いてゆくサポートをする、という店づくりである。こちらは、アルビオン主導ではなく、化粧品専門店主導の運営、意思決定が行われている。出店条件も「アルビオンドレッサー」が大都市圏駅ビルや大型ショッピングセンターに限定しているのに対し、テナント店であれば出店できるようになっている。現在5店舗だが、今後順次拡大していく予定だ。
アルビオンが定めた1億円以上のショップ目標300店のうち、半数をこのふたつの業態で達成しようと計画している。もちろん、化粧品専門店側が1社だけでは依存度が高まることを嫌う懸念はある。しかし、それを払拭するために「販売支援金制度」を導入した。対象店は、アルビオングループ商品と雑貨の取扱いのみ、もしくは資生堂など他社制度化粧品メーカーの取扱いなし、かつ店内でのアルビオングループ売上シェアが90%を超える店で、売上ランクに応じて支援金が提供される。短期的な制度ではなく、2027年度まで継続する長期的制度である。
アルビオンは500億円の壁を突破し、さらなる成長を目指している。そのために、化粧品専門店という基軸を進化させた、「アルビオンドレッサー」「アトリエアルビオン」というふたつの業態の展開を進めている。同社の今後の展開に注目したい。
特集:中堅企業の成長戦略
- 戦略ケース ピンチはチャンス!コロナ禍の中堅企業の営業スタイル ダイレクトマーケティングに転換せよ(2020年)
- 戦略ケース 新創業とともにマスターブランディング強化 湖池屋の付加価値戦略(2020年)
- 戦略ケース 11年連続成長で売上高160億円増 フジッコの「粘り強さ」(2020年)
- 戦略ケース プラットフォームビジネスで急拡大するウーバーイーツ(2019年)
- 戦略ケース 中堅企業のお悩み相談 「逆転営業戦略」「販路開拓」「リアルファンづくり」(2020年)
- MNEXT 中堅ビジネスの再成長への提案―大手よりも伸びる中堅企業のナゼ?(2019年)
参照コンテンツ
- MNEXT 眼のつけどころ ブランドのロングセラー化の鍵は「うまいマンネリ」づくり
―市場溶解期のブランド再構築 - 戦略ケース 高成長を長期維持する業務用ヘアケアNo.1「ミルボン」
ブレない基本戦略と強みを磨き続ける競争優位(2018年) - 戦略ケース 快進撃続くTHREE―「ブルーオーシャンターゲティング」で第3の価値創造(2019年)
- 戦略ケース 急成長を続ける化粧品ブランド「THREE」 差別化と脱しがらみで日本発の世界ブランドへ(2018年)
- 企業活動分析 コーセー
業界の業績と戦略を比較分析する
おすすめ新着記事
消費者調査データ シャンプー(2024年11月版) 「ラックス」と「パンテーン」、激しい首位争い
調査結果を見ると、「ラックス(ユニリーバ)」と「パンテーン(P&G)」が複数の項目で僅差で首位を競り合う結果となった。コロナ禍以降のセルフケアに対する意識の高まりもあって、シャンプー市場では多様化、高付加価値化が進んでいる。ボタニカルやオーガニック、ハニーやアミノ酸などをキーワードに多様なブランドが競うシャンプー市場の今後が注目される。
消費者調査データ レトルトカレー(2024年11月版) 首位「咖喱屋カレー」、3ヶ月内購入はダブルスコア
調査結果を見ると、「咖喱屋カレー」が、再購入意向を除く5項目で首位を獲得した。店頭接触、購入経験で2位に10ポイント以上の差をつけ、3ヶ月内購入では2位の「ボンカレーゴールド」のほぼ2倍の購入率となった。
「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 伸長するパン市場 背景にある簡便化志向や節約志向
どんな人がパンを食べているのか調べてみた。主食として1年内に食べた頻度をみると、食事パンは週5回以上食べた人が2割で、特に女性50・60代は3割前後と高かった。パン類全体でみると、朝食で食事パンを食べた人は女性を中心に高く、特に女性50代は6割以上であった。