眼のつけどころ

ePOPで成熟ブランドのリブランディング― 2022年春の提案

2022.01.28 JMR生活総合研究所 クリエイティブチーム

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 2022年は波風が高いが、薄日の見える年になりそうだ。

 最大の懸念要因は、新型コロナの変異種・オミクロン株の感染拡大と、その後のオミクロン株の変異種だ。弊社の分析では、2月にピークを迎え、3月中には収束、その後再びオミクロン株の変異種(ステルスオミクロン株)が感染拡大するという、コロナのエンデミック(地域や時期で起こる流行病)化が進む、とみている。ほぼインフルエンザ化する。

図表1.2月7日 2.6万人、あるいは2月14日 4.3万人でピークに達し収束へ
図表

 この状況判断のうえで、消費財メーカーが取り組むべきは、ブランドの再構築・再活性化、つまり、「リブランディング」だ。

 日本の主要消費財メーカーのブランドの成熟化が進んでいる。「製品には寿命があり、ブランドには寿命がない」。確かにそうなのだが、図表2で任意に選んだ30ブランドは導入後30年を超えている。さすがに、リニューアルしなければ時代や顧客の変化についていけない。会社の寿命でさえ「30年」説がある。

図表2.成熟ブランドの「リ・ブランディング」
図表

 さて、どうリブランディングするか。提案したいのは、リアルな売場での顧客への感情マーケティングである。消費者の購買行動の、SNSなどへのネット依存が進んでいることは言うまでもない。しかし、「クリック」や「いいね」で購買が起こるとは思えない。現に、世界市場を席捲しているGAFAの4社を知らない人はほとんどいないが、必ずしもブランドの好意を形成しているとはいえない。iPhoneなどの製品を提供しているアップル社を除いて、むしろ、寡占的な企業や個人情報を活用している企業として、嫌いな人が多いほどだ。認知の高い「フェイスブック」が社名を「メタ」に変えたのも、「フェイスブック」ブランドになんの未練もないということだ。

 これはネットではブランドが構築できない、ということだ。ブランドの本質は、消費者に自社ブランドを好きになっていただいて、長くご愛顧いただくことだ。ネットでは、消費者が愛用固定に結びつくほどの、好きという感情を形成しにくい。GAFAのサービスを毎日利用しているが、その利用は人との結びつき、つまりネットワークがあるからで、好きだから利用をしている訳ではない。このネットワークを維持するためには、個人情報が漏洩の危険にさらされることもやむを得ない、というのが実感だろう。

 好きという感情はどこで形成されるのか。それは、リアルな場である。消費財メーカーならば、ブランドと消費者が出会う場、つまり、売場(Point of Purchase)だ。ネットは、パソコンでいえばせいぜい27インチディスプレイの中の映像空間に過ぎない。しかし、リアルな売場はすでに「メタバース[1]」を実現している。そこに、購入意欲の高い消費者が訪れる。クリックの何万倍の時間コストを支払ってやってきてくれるのが売場だ。

 この絶好の条件で、うまく消費者の感情を刺激して、消費者の好意と購買を引き出すのが、emotional Point Of Purchase Marketing(ePOP Marketing)だ。

 小売業との共同で、売り場のエンドなどでブランドフェアなどを開催し、一定の面積を獲得する。この場で、次の3条件を満たす刺激(インセンティブ)を与える。

 ひとつは、ひと目で親しみやすさを感じられるPOPなどを配置する。製品特徴や価格ではない、親しみを感じるPOPが大事だ。ふたつ目は、このPOPが、なんらかの「!!!」(驚き)になれば、大脳皮質での理性的判断(スロー)ではなく、感情をつかさどる「脳幹」を刺激し、ダイレクトに感情を形成(ファスト)できる。三つ目に、親しみやすさを感じたPOPを繰り返しみていただくことである。これで、「単純接触効果(ザイオンス効果)」を生み、親しみやすさを感じるポジティブフィードバックを引き出すことができ、ブランドに対してそもそものポジティブ感情を抱く「プライミング(下地)効果」ができる。

図表3.もっと長くご愛顧いただく鍵:ePOP marketing
図表

 この三つの条件を満たす売場をつくり、有力な食品スーパーの店頭で実施してみた。

 公開できる結果は次のとおり、大きな成果をあげた。

  • ブランド認知率        90%以上
  • ブランド好意度        90%以上
  • ブランド再購入以降      90%以上
  • 同種フェアの売上       130%以上
  • 坪効率            3倍以上

 この結果は、ePOPによって、わずか5分で、消費者のブランドへの好意度を上げ、好意を取り戻せることを示している。この事例で決め手となったのは、弊社のクリエイティブチームが提案した、手書きのイラストを活用したPOPである。

図表4.好意の決め手―手書きイラスト
図表

 このPOPは、手書きによって関心を呼び、親しみやすさを感じさせ、写真と見間違うほどのリアルさが「驚き」につながり、コロナ禍で実物接触のできない商品をリアルにみせることができた。この手書きイラストに売場で何度も何度も出会う効果が、ネットやマス宣伝ではできない好意の感情を生み出し、ブランドの認知や理解を促進することになった。従って、手書きPOPは有力な感情マーケティングのツールである。ひとは、ひとのオリジナルな手仕事に惹かれるようだ。

 他方で、手書きPOPの見せ方や配置にもっと工夫の余地もあった。さらなる工夫を加えることで、食品や飲料などのパッケージ商品、トイレタリーや化粧品などに幅広く応用できる。

 弊社はこの2022年春に、コロナ禍での「ePOPでリブランディング」を提案したい。

【参考文献】

  • ジョセフ・ルドゥー(2007)「エモーショナル・ブレイン 情動の脳科学」,東京大学出版会
  • 下條伸輔(2008)「サブリミナル・インパクト―情動と潜在認知の現代」,ちくま新書
  • ダニエル・カーネマン(2012)「ファスト&スロー ─あなたの意思はどのように決まるか?」,早川書房
  • 竹内龍人(2014)「なぜ、それを好きになるのか?脳をその気にさせる錯覚の心理学」,角川SSC新書

【注釈】

  •  ネットワーク上に構築された仮想空間や、仮想空間におけるサービスの総称。利用者は仮想空間上にアバターとして参加し、相互にコミュニケーションをとることができる。「Meta(超越した)」と「Universe(宇宙)」を組み合わせた造語で、始まりは米国の小説家ニール・スティーヴンスンの小説「スノウ・クラッシュ」(1992)に登場する仮想空間であるとされている。現実のサービスとして、古くは「セカンドライフ」(Linden Lab)、「あつまれ どうぶつの森」(任天堂)などもメタバースと言うことができる。