
ドミナント(dominant)は、「支配的な」「優勢な」「優位に立つ」という意味を持つ言葉です。小売業がチェーン展開をする場合に、地域を特定し、その特定地域内に集中した店舗展開を行うことで経営効率を高める一方で、地域内でのシェアを拡大し、他小売業の優位に立つことを狙う戦略をドミナント戦略といいます。ここで、集中して多店舗展開を行う対象となる地域をドミナントエリアと呼びます。
ドミナント戦略の代表例として、コンビニエンスストアをあげることができます。例えば、セブン-イレブン・ジャパン(戦略200+「セブン&アイ」を参照)は、2013年1月末で業界No.1の14,884店を擁していますが、その出店エリアは、47都道府県中40都道府県です。業界2位のローソン(戦略200+「ローソン」を参照)は2013年1月末で11,152店ですが、1997年には47都道府県での店舗展開を達成しています。近年、セブン-イレブンも空白エリアであった北陸三県や秋田県にも出店し、2013年からは四国への進出を開始します。セブン-イレブンは出店している都道府県のほとんどで100店以上を展開しており、一気に店舗が拡大することが予想されます。さらに付言すれば、コンビニエンスストアのドミナント戦略では、都道府県といった広域を単位とするのではなく、市区町村といった狭い範囲をドミナントエリアとして設定しています。
ドミナント戦略には、つぎのような効率面でのメリットがあります。まず、ドミナントエリアの持つ商圏特性をもとにセグメント化し、そのセグメントごとに適正な店舗モデルを準備することにより、出店計画を効率化することができます。また、配送センターを基点に一定の距離に出店していることにより、効率的な配送ルートが設定できるため、物流費の削減効果が得られます。この他にも、チェーン店の経営指導にあたるスーパーバイザーも効率よく個店を巡回でき、指導するための時間をより長く確保することができます。広告宣伝も全国規模でなく、出店している地域に絞って行うことができるため、広告宣伝費も削減することができます。また、集中出店している地域での知名度が高くなり、同時に競合の出店意欲を抑える効果も期待できます。
しかし、出店する魅力度の高い地域を巡る出店競争が激化しており、コンビニの隣にコンビニがあるといった状況も生まれています。こうした競争の中でコンビニは大手への上位集中が進みました(戦略ケース「CVSの東京都心の攻防戦 -ampmの牙城を揺るがすセブンとローソン(2003年)」に詳しい)。今後は都市と地方部、または都市内部における人口のエリア格差もあるため、コンビニだけでなくSMなど業態間でのシェア争いも激化することが予想されます(戦略ケース「東京市場シェア10%を巡る戦い -都市型SMの競争(マルエツ、西友、クイーンズ伊勢丹)(2002年)」に詳しい)。
ドミナント戦略の基本は、出店エリアでのお客様への価値提供にあります。これからは、こうした自社都合や業界競争優先のドミナント合戦ではなく、エリアの特性を的確に読み取り、それをお客様の価値実現を支援する品揃えや売り方、売場づくりへと変換する力が戦略成否の鍵を握ると考えられます。
参照コンテンツ
- 戦略ケース なぜ食品スーパー「ヤオコー」は、27期連続増収を続けられるのか? (2016年)
- 戦略ケース SPAモデルへの転換により更なる成長を図る西松屋チェーン (2015年)
- 戦略ケース コスモス薬品―業態革新の波を起こし、東部戦線を拡大中(2013年)
- JMRからの提案 伸びるローカル流通 第1部 4期連続増収チェーンの施策とは (2010年)
- 企業活動分析 セブン&アイ・ホールディングス
- 企業活動分析 ローソン
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