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(2018.09)
八海山 衰退市場で成長続ける本業強化戦略
日本酒活かす事業多角化とリアルコミュニケーション
ディレクター 大澤博一



1.日本酒市場の低迷と八海山の実績

 日本酒市場は、典型的な衰退市場だ。2017年の日本酒市場(清酒課税移出数量)は前年比98.5%の53万KLで、6年連続の減少となっている。そんな中で、成長を続けているのが日本酒「八海山」で知られる八海醸造(新潟県)だ。本業を生かした事業の多角化や、消費者に「八海山」やそのほかの製品を知ってもらう仕組み作りに力を入れ、売上を伸ばしている。

 八海醸造株式会社は、1922年創業、資本金1,000万円、従業員数107人(同社ホームぺージより)の清酒メーカーだ。株式会社八海山(以下、八海山)が、「八海山」ブランドを小売に卸す、いわゆる販売会社となっている。2012年に75億円だった同社の売上は増収を続け、17年には89億円となった。市場が20%も縮小しているなかで、20%の増収を続けている八海山の成長のポイントは、どこにあるのだろうか。


2.日本酒事業の深堀~生活に寄り添うお酒が理想

 八海山は生業の日本酒市場において日常酒化を追求しているのが特徴だ。八海山の南雲二郎社長が目指す日本酒は「飲んだ気がしないのでいつの間にか飲んでしまう」だという。

「日本酒というのは食事をしながら飲むもの。気づかないうちに飲んでしまうものが食中酒ということだと、僕は思っています」。
(テレビ東京「カンブリア宮殿」2016年12月8日放送 より)

 2008年からの10年間で20%も縮小している日本酒市場では、商品の個性を出すことが主流だ。例えば、旭酒造(山口県)の日本酒「獺祭」は精米歩合を2割まで行い、洗練された味わいを作り出している。各蔵元は香りや味わいなどで差別化し、生き残りを図ろうとしている。しかし、八海山はその流れとは逆に日本酒の「定番」を追求している。お酒の個性を出すのではなく、どんな料理にも合い、ついつい飲んでしまう、食事時を引き立たせるためのお酒を目指している。

 南雲社長は「需要に対して供給を満たすことが企業としての存在価値だと思う」(SAKETIMES 2018年2月28日付 より)と語る。安定して良い酒を作り、適正価格で販売して、いつでも消費者が手に入れられることに重点を置く。そのために同社は大量生産を可能にする機械を導入し、機械化させた方が効率的な作業を職人から機械に変更した。一方で、味の決め手となる麹づくりは職人の手作業にこだわっている。そうすることで、安定供給できる仕組みをつくった。


3.自社の強みを活かした事業の多角化~日本酒以外への事業拡張

 八海山は日本酒市場の低迷が続くなかで、新しい事業の柱づくりに注力した。

 「八海山を深く理解してくれる人を増やすべきだと思いました。並行して企業として売上も伸ばしていかなければいけないので、日本酒に並ぶ「柱」を模索していた」(SAKETIMES 2018年2月28日付 より)と南雲社長は言う。その柱が、日本酒づくりの技術力を生かした甘酒「麹だけでつくったあまさけ」の製造・販売だ。

 他の甘酒と大きく異なる点は、酒を造った後の麹ではなく、酒を造る前の米麹を使っているところだ。麹の発酵効果だけで十分な甘さを引き出すことができるため、砂糖を一切使っていない。これは、日本酒造りで培ってきた麹などの甘みを自由にコントロールできる技術を使っている。

 日本酒づくりの事業から、その技術を生かした「発酵製品を提案する」という事業を再定義したことで、甘酒が誕生した。09年に発売を開始、12年にガラス瓶からポリ容器に変更し販売量は1.7倍に拡大、現在の甘酒の売上は9億~10億円と、同社の売上の1割以上を占めるまでに成長している。

 甘酒事業をさらに強化するために、製造能力を増強する投資も行っている。新設した甘酒の製造所は延べ床面積が5,100m2で2017年6月に稼働、年間製造量は従来の2.9倍の430万本体制となり、18年の売上は18億~20億円と倍増する予定だ。


4.日本酒×甘酒×料理による相互補完型のリアルコミュニケーション

 同社は、八海山を知ってもらうために三つのコミュニケーションの工夫を行っている。ひとつは、店舗を活用した日本酒の体験だ。2012年に八海山のことを良く知ってもらうための店舗「千年こうじや」を東京にオープンさせ、店舗を増やしている。ここでは八海山の麹や発酵技術を生かした醤油、塩麹だれ、甘酒の他に麹を活用したスイーツや総菜などを販売し、食べ方の提案を行っている。1番人気は麹を使って肉を柔らかくした「塩麹漬けもちぶた」だという。

 南雲社長は「伝統的な技術の蓄積だけど、それを使うことで新しい提案ができる」と語る。千年こうじやでは、商品を使った簡単で美味しいメニューを提案するセミナーを、なんと年間150回も開催している。「塩麹をまぜこんだオムレツ」「甘酒をつかったさわらの照り焼き」「甘酒じたてのスイートポテト」などだ。

 セミナーでは日本酒八海山がふるまわれる。日本酒と料理の相性を体験し、食中酒として身近に感じてもらうのが狙いだ。

 ふたつ目は、スーパーなど小売業の店舗でのブランドづくりの工夫だ。八海山は日本酒が低迷した時期に、営業マンを縮小するのではなく拡充。八海山の良さを小売業に伝える啓発営業という独自スタイルを導入した。同社は問屋を活用しない直接営業であるため、より商品の価値を伝えることができる。

 一例としては、関東で有力スーパーマーケット(SM)「ヤオコー」と正規特約を結び、日本酒売場に八海山コーナーを展開している。埼玉県東松山市の標準型進化店では、日本酒売場の中央に八海山の様々な商品が3尺4段で並べられている。八海山を紹介するボードもあり、まさに売場で八海山ブランドづくりを行っている。

 三つ目は、八海山が本社を構える南魚沼市に顧客を呼び込む展開を行っていることだ。同社はここで、カフェや売店、飲食店などを集めた「魚沼の里」を運営している。食堂やベーカリー、蕎麦屋やスイーツ店など13の施設がある。定期的にイベントを開催し、年間3万人の消費者を呼び込んでいる。また、ここでも日本酒八海山と料理、魚沼の食材との相性の良さを味わってもらい、ファンにする試みが行われている。

 八海山のコミュニケーションのポイントは、本業の日本酒の価値をリアルに伝えていることだ。料理との相性の良い日常酒を開発し、その技術を使った甘酒をつくる。その甘酒を活用した料理を年間150回のセミナーで教え、日本酒と料理の相性をリアルに体験させて、八海山の価値を店頭で実感させている。さらに、SM店頭ではコーナー展開により八海山がいつでも購入できる環境も作っている。こうした本業が生きる事業の多角化をうまく行っていることが、同社の成長のポイントといえるだろう。


5.八海山の今後

 八海山の取組みで特筆すべきことは、ブランド価値をリアルコミュニーションで伝えていることだ。

 2018年7月には、ビール醸造所を新設オープンした。発売20周年を迎える「八海山泉ビール」をリブランディングし、「ライディーンビール」に刷新した。ここでも食事の邪魔をしないビールをつくっている。

 「生活に寄り添う」という考え方が貫かれており、発酵商品の新商品を投入することで、八海山ブランドをますます強固なものにしようとしている。

 今後さらに成長を続けていくためには、八海山ブランドをプラットフォームとして位置づける必要がある(プラットフォームについては、MNEXT 眼のつけどころ 「高収益な市場プラットフォーム事業をどう創出するか?-MSP事業創出作法」に詳しい)。具体的には、他のブランドや商品と連動して、多くの消費者との接点を作りだし、八海山ブランドをいろいろな領域に広げていけるかが鍵となる。南雲社長が「日本酒の外に市場そのものをつくっていく組織を目指す」(SAKETIMES 2018年2月28日付 より)と語っているように、ブランドをどう広げていけるかがさらなる成長のポイントだ。


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