サブプライムローン問題によって顕在化した米国の金融危機は、名だたる金融機関を巻き込んだグローバル規模の危機へと深化しています。米欧諸国の政府は、公的資金注入を含めた対応によりグローバルなシステミック・リスクの回避に躍起となっていますが、AIGやシティなどの大手金融機関の債務超過危機が明らかになる中で、解決への道筋は未だ見えない状況です。 米国金融危機の爪痕は、米欧諸国の金融セクター・レベルにとどまらず、アジアを含む全世界の実物セクターにまで及んでいます。主要国における最近の経済動向を見ると、危機が深化した2008年第4四半期に経済成長率も失業率も軒並み悪化しているとともに、今後の経済見通しについても成長率予想はマイナスまたは大幅な下方修正が目立ちます。 2009年度の日本経済の見通しについては、消費に陰りがみえ外需や投資も鈍化する、というのが主流のシナリオです。急速な生産・在庫調整により景気の底入れが予想よりも早くなる可能性への期待感が一部にはありますが、輸出に代わる次の成長のエンジンが見えない中で、内外需ともに総悲観モードが支配的です。3月に入ってからも、株価がバブル後最安値を更新するなど、悪材料が出続ける中で、消費をとりまく環境はますます厳しいものとなりつつあります。 今号の概要は以下のとおりです。 「米国金融危機後の見取図-世界経済を左右するパラダイムの興亡」では、グローバル規模で金融・実物両セクターに深いダメージを与えた米国金融危機とその後の不況について、内外の著名な論者によるその原因の評価と今後の見通しに関する見解を整理し、今後の政策運営を左右する、政策スタンスと世界経済像をめぐるパラダイムの対立を明らかにします。 「Economic Outlook for Japan」では、2008年12月以降の経済情勢を整理し、内外需ともに不振の下で調整局面入りした日本経済の今後の見通しと消費の読み方を提示します。 「購買行動にみる商品選択の不確実性」では、実験心理学アプローチによる独自の実証実験と眼球運動測定装置を用いた視線分析を通じて、消費者が状況依存的な商品選択行動を起こす非言語的要因の存在を明らかにし、人間の認知行動の背後にある情報フレームが選択行動に果たす役割を考察します。 「動的に変化する関係構造の分析についての研究」では、新しいデータ分析の動向について概観します。前号でデータ分析手法として属性とその関係性を扱う方法を比較を通じて紹介しましたが、本号では引き続き、こうした関係性を扱うデータとその分析についての最新動向を紹介するとともに、その動的変化を扱う技術の進展についてまとめます。 2009年早春、日本経済の底流で生起しつつある変化の予兆を捉えて、一歩先を見据えた戦略的判断と行動の一助となることを企図して、「消費経済レビュー」第11号を実務家のみなさまにお届けいたします。
|
|||