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消費経済レビュー Vol.11
米国金融危機後の見取図
-世界経済を左右するパラダイムの興亡

 サブプライムローン問題によって顕在化した米国の金融危機は、米欧を中心に全世界の名だたる金融機関を巻き込んだ、グローバル規模の危機へと深化した。百年に一度と言われる今般の金融危機とその後の不況は、グローバルな資本市場を介してもたらされた全世界的な広がりと、危機の結果生じた金融・実物両セクターでのダメージの深さの両面で、歴史的にみても稀有な事態であることについて、疑義を挟む余地は少ないであろう。
 今般の不況に対する関心の高さは左右または主流・反主流の立場の違いを超えており、官・民・学諸領域における内外の著名な論者により、その原因の評価と今後の見通しについて様々な見解が出されるようになった。
 不況の直接的原因として、バブル崩壊がもたらすインパクトを念頭に置いている点は、論者の間でほぼコンセンサスが得られてはいるが、不況の遠因については、問題視している原因のスパンに応じ三つの立場に分かれる。金融市場の構造や金融機関の行動に局限する立場は、今回の不況を最低限度の適切な規制等の対応で短期的に解決可能なものとみている。グローバルなマネーフローの問題を重視する立場は、国際間での貯蓄投資バランス変更のために、5~10年程度にわたる持続的な政策対応が必要とみている。グローバルな経済システムに光を当てる立場は、今回の不況はアメリカ主導の金融主導型成長モデルの終焉を意味し、代替的世界経済システムが登場するまでは混乱は不可避とみている。
 不況脱却への対応のうち、金融市場への対応に関しては、流動性対応、銀行への資本注入、金融機関の行動やグローバル・マネーの動きの監視・規制に関して濃淡が分かれている。バブルの発生とそれに関与した金融機関の行動を問題視している論者ほど、政府による監視・規制・介入が必要と考えている反面、バブルの発生と崩壊は不可避なものとしつつも、(バブルの発生原因と目される特定の商品やプレーヤーではなく)バブル崩壊がもたらした資本市場の機能不全を問題視する論者ほど、流動性対応で十分とする傾向がみられる。
 マクロ経済政策対応については、(効果への期待感の強弱は別にして)必要とみる層、不要とみる層、無関心の層とに論者が分かれている。特に、金融市場の構造や金融機関の行動に局限する立場では、マクロ経済政策を不要とみる傾向が強いが、グローバルな経済システムに光を当てる立場ではマクロ経済政策には無関心の傾向が強い。
 今後の世界経済の見通しについて明確な言及をしているのは、グローバルなマネーフローの問題を重視する立場の論者たちである。彼らは、米国の経常収支の赤字解消に向けたマクロ経済調整は不可避とした上で、米国経済の成長率低下がもたらす世界経済への縮小均衡圧力は止めようがないと見ている。将来の経済システム像について、明確な言及をしているのは、グローバルな経済システムに光を当てる立場の論者であり、彼らは一貫して、ドル基軸体制崩壊・米国主導の経済成長システムの終焉・多極化時代の到来を主張している。今後の世界経済の見通しや将来の経済システム像について特段の言及をしていない論者には、金融市場の構造や金融機関の行動に局限する立場の者が多い。彼らの考え方の裏には、既存のドル基軸体制の延長線上で、不況にともなう経済調整を乗り切る他ないという姿勢がある。
 主要な論者における政策スタンスと世界経済像を位置づけると、[1]保守派の経済学者やエコノミスト達に代表される「政府介入に否定的」かつ「アメリカ主導・ドル基軸体制は継続」のグループ、[2]米国流の新自由主義に批判的な経済学者やエコノミスト達に代表される「政府介入に肯定的」かつ「世界経済体制多極化・ドルの地位失墜」のグループ、[3]リベラル派の経済学者やエコノミスト達に代表される「政府介入に肯定的」かつ「アメリカ主導・ドル基軸体制は継続」のグループ、の三つに整理できる。現在のオバマ新政権を支える経済スタッフ達は第3のグループに位置づけられるが、このグループに属する論者たちの間では主張に若干温度差があって他の2グループと比べ一枚岩ではなく、今後の政策論議の過程でグループ内部に生じる主張のブレや枝葉の部分での対立が政策運営の支障となりかねない。
 今般の金融危機とその後の不況に対するオバマ新政権の初動対応には好意的な評価が示されてはいるが、大手金融機関における債務超過危機の解決の落としどころは未だみえない。アメリカの経済政策運営の舵取りを任されたリベラル派の試みは、米国経済ひいては世界経済復活の命運を左右するだけでなく、政策スタンスと世界経済像をめぐるパラダイムの興亡をかけた、百年に一度の大実験となるであろう。
(2009.04)


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