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(2018.12)
新たな市場を開拓する「LG styler」のブランド戦略
リサーチャー 須川達仁



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 春は花粉、夏は汗、外食に行けば焼き肉やたばこのにおいが付いてしまったジャケットやスーツ。気になるけれども手軽に自宅では洗濯できない。そんな悩みを持つ人にウケている商品が、韓国の総合家電メーカーLGエレクトロニクスのホームクリーニング機「LG styler」だ。クローゼット型の同商品は、スチームや振動で、衣類についたしわを伸ばし、ニオイやほこり、花粉やダニなどをケアすることができる。PM2.5などによる大気汚染に対しての関心が高まり、韓国ではヒット商品となっているという。日本では2017年1月にCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)が運営する蔦屋家電で販売を開始し、存在感を高めている。今までにない発想の同商品の市場価値をどのように定着させたのか。同社のマーケティングの戦略を探る。


図表.LGエレクトロニクス(H&A部門)の業績推移



発売当初はヒットせず 市場の再定義により成長路線へ

 「LG styler」は、2011年に韓国で発売を開始し、日本を含む世界10地域で展開されている。1ヶ月に1万台売れるヒット商品だ。

 開発のきっかけは、ある役員の海外出張だった。シワとにおいが付いたスーツをきれいにしたいと家族に相談したところ、お風呂にお湯を張り浴室にかけておけばシワもにおいも取れることをアドバイスされた。これをヒントにして、企画・開発されたのが「LG styler」である。

 一見、思い付きともとれるアイデアが商品化された背景に、同社の経営戦略がある。2006年から打ち出している「ブルーオーシャン戦略」だ。

 新興国地域を含む40億人のマーケット(G20)から、市場拡大が見込める競争の少ない未開拓市場を「ブルーオーシャン」とし、他の先進国メーカーが本格参入していない分野の開拓に力を入れている。この「機動的なアクション」と、それを実行できる「意思決定の速さ」が、LGエレクトロニクス強さとなっている。

 こういった中で、開発されたのが「LG styler」だ。しかし、はじめから順風満帆だったわけではない。当初のモデルは、高さ1960mm×幅600mm×奥行き595mmと現在のもの(高さ1850mm×幅445mm×奥行き585mm)よりも大きく、価格も今より高かった。高所得者層にターゲットを設定し、彼らがあこがれるような訴求を行っていた。

 その結果、一般層には関係のない製品というポジションになった。市場をセグメントすることはできていたが、新たな市場を切り開くという点ではパワーが欠けていたのだ。

 こういった状況を打開するため、同社が最初に行ったのは、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)の見直しだ。2014年に、市場調査などを行い、「LG styler」が"何を提供するか"について議論を行った。その結果、「外出したらシャワーを浴びるように、服も着たらケアするという習慣を作る」をブランドミッションに定義した。

 この商品がヒットした時期、韓国では共働き世帯が増加し、生活スタイルの変化が起きていた。さらに、PM2.5や黄砂、アレル物質などの大気汚染が、深刻な問題として捉えられるようになった。実際、空気清浄機は1家に1台が当たり前として定着しつつある。こうした社会変化が起きる中、2015年にターゲットを改め、機能も改良された2代目の「LG styler」の展開を開始。身体と同様に服も着たら、ケアするというブランドミッションは、消費者全体の共感を得てヒットにつながった。


ユーザーが供給するアイデアをメーカーが実現する"共創"による製品づくり

 ターゲットも、「衣類のケアをする全ての家族」に見直した。あえてターゲットを絞らず、すべての家族に対して「LG styler」のミッションと機能を問いかける対等な関係を築いた。2015年時に製品改良する際に重視したのは、既存ユーザーとのコミュニケーションだ。

 ユーザーの指摘を受けて最初に追加したのはパンツプレス機能だ。シワ取り機能が強すぎたため、ズボンの折り目まで取ってしまっていた。次に、ヒートポンプ方式による低温乾燥を実現。他には、サイズを縮小することで全ての世帯に置きやすいようにした。

 ポイントは、ユーザーの声を製品の改良に反映させたことだ。かつては、企業内でイノベーションを起こし、それを市場に提供するのが定石だった。しかし、外部からシーズやアイデアを募り、自社と掛け合わせることで製品化するオープンイノベーション型のモデルへと変えた。同社では、ユーザーを対等なパートナーとして捉え、アドバイスをもらい、それを製品に取り入れる"共創"による製品づくりを行っている。インターネットやSNSなどの発達により、即時に消費者と交流ができる。消費者同士や消費者と企業がコミュニケーションをすることで、商品への共感を生み、新市場を切り開くパワーを作り出したのだ。


韓国での成功のポイント、そして日本市場定着のための課題とは
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