

2000年代に国内に誕生したエナジードリンク市場は2013年時には約950万ケース(1ケース30本換算)が出荷される巨大な市場へと成長した。海外メーカーが先行してエナジードリンクを発売し市場を開拓してきた経緯もあり、2013年の国内市場シェアは首位の「レッドブル(Red Bull GmbH/オーストリア)」が550万ケース、2位の「モンスターエナジー(Monster Beverage/アメリカ)」が240万ケースと、上位2ブランドで市場の80%超を占める寡占市場である。しかし2010年以降は数多くの国内メーカーが特徴的な新商品を立て続けに発売しており、活気のある市場となっている。
エナジードリンクとは"エネルギーの補給"を訴求し、カフェインやアルギニン等の覚醒効果のある成分が含まれる炭酸飲料である。日本の従来の栄養ドリンクとの相違点としては、タウリンが含まれないことにある。タウリンは人の身体や細胞を正常な状態に戻そうとする作用のある成分であり、国内の栄養ドリンクの多くに含まれている。日本ではタウリンが含まれる合成物は医薬品として取り扱われるが、多くのエナジードリンクはタウリンをアルギニンで代用することで医薬品ではなく清涼飲料として販売している。
エナジードリンクの飲用シーンとしては国内への導入当初から"スポーツや遊びの前のエネルギーチャージ"といったポジティブなイメージが根付いており、若者からの強い支持を獲得している。レッドブルはHP上で「ドライブの時、仕事や勉強で忙しい時、ビデオゲームやスポーツに熱中している時、自宅で友達とのんびりしている時や遊ぶときにも。」とポジティブな飲用シーンを紹介している。"朝や夜に疲れをとり、体調をリセットしたい時に飲む"といった事後対応的な飲用シーンを訴求し社会人から人気を集めていた国内の従来の栄養ドリンクとは大きく異なっている。
エナジードリンクはどのようにして若者からの人気を獲得するに至ったのだろうか。エナジードリンク市場を牽引するレッドブルが市場に受け入れられていくまでを振り返ってみる。
レッドブルは1987年にオーストリアで販売を開始して以降、欧米を中心に人気に火がついた。日本の栄養ドリンク市場を参考にしてタイの栄養ドリンク剤「クラッティンダン」の国際的な販売権を獲得した創業者のマテシッシ氏が同商品をベースに欧米向けに成分の配合を改良し商品化したものである。これまで欧米の市場になかった"疲労を回復させる効果のある飲料"として飲料市場にブルーオーシャンを創り出した。ブラッド・ピットやパリス・ヒルトンなどの有名セレブが愛飲していたことも一助となり市場への浸透は急速に進んだ。2005年には全世界で25億本の売り上げを記録、2012年には165カ国で52億本を販売した。
日本への参入は、2005年。既存の栄養ドリンク市場がある中で、疲れたおじさんが飲むものではなく、"力を発揮したい人が飲むクールな飲み物"というコンセプトをより鮮明にして進出をはたした。日本向けのレッドブルは海外で販売されているレッドブルとは含まれている成分が異なる。前述したとおり日本ではタウリンを含むと既存の栄養ドリンクと同様に医薬品としての扱いとなり、販売するには自治体において登録される登録販売者が必要となる。新しいコンセプトの商品が"登録販売者のいるチャネル"に限定されてしまうのは、普及への大きな足かせとなる可能性がある。これを避けるように、レッドブルはタウリンをアルギニンに置き換えて炭酸飲料または清涼飲料として販売した。日本の流通事情に合わせて製品をローカライズすることで、販売可能なチャネルを大幅に広げられたのである。
チャネルの制限を取り除きながらも、マスマーケティングを行わずにレッドブルはターゲットを非常に絞った上でイメージ戦略に重点を置いて国内での普及を目指した。重点ターゲットを若者に絞りこみ、当初の販売チャネルは都内の一部のバーやクラブに限定したのである。日本国内への導入当初からダンスやマウンテンバイクなど一般的な知名度は低いものの、若者を中心に熱狂的なファンを抱えるスポーツ大会の支援などを行ってきた。大会のスポンサーとなったり、イベント会場では無料サンプルを配るなど、徐々にそのコミュニティの中での認知を高めていった。また、クラブなどでもレッドブルを販売したり、レッドブルを使用したカクテルを提案するなど、遊びを楽しむ際に飲むドリンクとして強く印象づけてきた。スポーツやクラブと言った遊びに関連するスポットでの取組みに集中することで10~20代における認知を高めてきた。フリースタイルモトクロスや、エアレースなどの「エクストリーム系」のスポーツを楽しむ若者というニッチだが先進的なコミュニティで高い人気を獲得したことで"クールでファッショナブルな飲み物"というイメージのブランド形成に成功し、遊びの前などにリフレッシュするために飲むという習慣を定着させることに成功した。
参照コンテンツ
- 「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 第111号
伸びるエナジードリンク、栄養ドリンクを猛追 - 消費者調査データ エナジードリンク(2020年5月版)
「コカ・コーラ エナジー」「アイアンボス」 新商品で再びブームなるか
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