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公開日:1999年01月01日

ヤマト運輸株式会社
ネット経済下のインフラ企業を目指す-アクセスポイントは郵便ポストの1.8倍
戦略分析チーム

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 「宅急便」はいまや生活に不可欠な存在である。「宅急便」とはヤマト運輸の商品名だが、消費者向け小口貨物輸送(一般名称「宅配便」)の代名詞となっており、圧倒的なシェアを占める。そのヤマト運輸の業績が好調である。1998年10月には、宅急便サービス開始以来、初めて取り扱い個数が前年割れを示したものの、その後は再び増加基調に戻り、2000年3月期には10期連続の増収増益となる見込みだ。今年(1999年)7月にはソフトバンクのオンラインショッピング事業と提携するなど、ネット販売業者との提携も相次ぎ、ネット関連銘柄としても注目を浴びている。圧倒的な配送ネットワークと生活者視点に立ったきめ細かいサービスで、ネット経済下のインフラ企業としての役割を強めるヤマト運輸の強さに迫ってみたい。


図表1.ヤマト運輸の業績推移
図表



図表2.平成10年度宅急便シェア
図表



1.「宅急便」誕生まで

 ヤマト運輸の創業は1919年、トラック4台の貸切トラック輸送業「大和運輸」として設立された。そこから「宅急便」が誕生する1976年までは50年以上の年月が過ぎるわけだが、いくつかの節目を経験して成長する。第一が三越に始まる百貨店との配送契約であり、第二が路線混載事業「大和便」である。戦後の大和運輸はこのふたつを軸に事業を展開したが、百貨店配送によって小口貨物を家庭に配送する技術が養われ、路線混載事業は路線の選択、便数の選択、運賃の設定と事業主体の戦略が求められることになり、そのノウハウは後の宅急便にも生かされる。

 1976年にヤマト運輸は宅急便事業を開始する。それ以前の家庭から送り出される小口貨物は郵便小包と鉄道の手荷物で輸送されていたが、いずれも運ぶ側の論理で作られたきわめて使いにくいシステムであった。宅急便の基本コンセプトは、これら官制サービスの質の低さを補おうという意識から出発している。


2.ネットワークの拡大と生活者基点の商品開発

 宅配事業にとってのサービスの質とは、速度、安全性とどこにでも発送できるネットワークの利便性である。郵便小包を競争相手とする宅急便にとってネットワークの拡大は最大の課題であったが、政府規制が展開の障害となった。路線トラックの場合、路線ごとに免許を取得しなければならないが、新規参入に対してはきわめて厳しく、1990年の物流二法の施行まで規制が続く。長い規制への挑戦の末、1997年、発売後20年余を経過してヤマト運輸・宅急便の全国ネットワークが完成する。

 その間、さまざまな形態の宅急便が導入され、いち早く消費者のニーズが商品化されている。「スキー宅急便」(1983年)「ゴルフ宅急便」(1984年)では、「郵送物は箱形のような規格品に限る」という業界の常識をくつがえし、「クール宅急便」(1988年)では産地から直接商品が届くといった流通革命をもたらした。


3.さらに拡がるサービスの幅


図表3 ヤマト運輸宅急便の歴史
年度新商品発売新サービス開始
1919年創業(貸切トラック輸送開始) 
1976年「宅急便」発売  
1983年「スキー宅急便」発売  
1984年「ゴルフ宅急便」発売  
1986年「時間便」
「コレクトサービス」発売
 
1987年「ブックサービス」
「UPS宅急便」
 
1988年「クール宅急便」
「ヤマト・ザ・シーメール」
「夜間お届けサービス」
1989年「空港宅急便」  
1992年「宅急便タイムサービス」  
1994年 宅急便サイズ拡大、
複数口減額制度
1996年 年末年始営業
1997年「クロネコメール便」「転居転送サービス」、
全国ネットワーク完成
1998年「ゴルフ・スキー・空港 
往復宅急便」
インターネットによる
「荷物お問い合わせ」システム、
「時間帯お届けサービス」、
「クロネコ探検隊」

 1986年に導入した「コレクトサービス」は通信販売業者と契約し、配達から集金、決済までの責任の一切を引き受けるサービスシステムである。ヤマトにとっては決済業務という新規事業への進出ということになり、この代引きサービスの導入は通信販売の普及に大きく役立ったと思われる。

 また、「ブックサービス」(1987年)は商品受注と仕入れ、配送を組み合わせたものであり、商流と物流の融合を物流事業者の立場から実現したものとして注目される。「UPS宅配便」(1987年)はヤマト運輸が事業の手本としたアメリカの宅配業者ユナイテッド・バーセル・サービス社と共同の国際宅配便であり、「宅急便タイムサービス」(1992年)は航空輸送などを併用して遠隔地でも翌日10時までに荷物を届けるサービスである。


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「規制に守られた有望市場への挑戦」

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