Malcolm P.McNairによって提唱された小売業態の進展を説明する理論仮説です。1957年にピッツバーグ大学で開催されたシンポジウムで発表されて以来、半世紀近くが経過していますが、現在でも小売業態の変化を理論的に説明する際によく用いられます。
- 新しい小売業態は、提供サービスを抑え、設備も簡素化するなど革新的なローコスト経営を通じ、既存小売業者よりさらに低価格を訴求する形で市場に登場する。この革新的な小売業者は、価格競争によって既存小売業者の顧客を奪って成長し、市場での地位を確立する
- やがて、同様のシステムで同程度の低価格を実現した追随業者が続々と登場し、競争が激化していく。各々が低価格なので価格は競争の武器にならず、品揃えやサービス、設備の向上などを通じた競争が展開される。その結果、革新的な小売業者が登場した時の低コスト・低マージン経営は、高コスト・高マージン経営へと移行していく(トレーディングアップ(格上げ))
- 徐々に価格が上昇していくところへ、次の新たな革新的小売業者が、低マージン、低価格の形態で市場に参入することで成功を勝ち取ることができる
このように、「輪」が一回りするごとに、新たな革新的業者が登場し、小売業の革新が進んでいくというのが小売の輪の理論仮説です。
Malcolm P.McNairは、アメリカでの百貨店、バラエティ・ストアやスーパーマーケットなどのチェーンストア、戦後のディスカウント・ストアなどの主な小売形態の革新がこの小売の輪の理論仮説にあてはまるとしています。
日本でも、「価格破壊」を旗印にダイエーがGMS業態を展開し、1970年代に百貨店の三越の売上を抜き去ります。ところがその後の成熟過程で、GMSは百貨店と同じような業態となり、そこへ、ヤマダ電機、ユニクロなどのカテゴリーに特化して低価格を訴求する革新的業者が登場し、追い落とされたという動向は、小売の輪の理論で整理することができます。
もちろん、小売の輪の理論にあてはまらない例外もあります。参入する時に必ず低価格でなければならないということではありません。例えば、かつて小売の新業態として登場したコンビニエンスストアは、定価販売、高マージンで参入を果たしています。これは利便性という提供価値が受け入れられた結果と考えられます。
こうしてみると、小売業態革新は、小売の輪の理論で唱えられている「低コスト・低マージン・低価格を実現する革新的業者の登場により実現する」というだけでなく、「業態が提供する価値の革新性や適合性」という視点も必要であるといえます。
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