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世代交代への戦略的対応

1.世代交代のインパクト~中長期を見る基軸の重要性
 マーケティングでは変化を追いかけていかなければならないが、変化するものと変わらないもの、不易と流行をどういうふうに捉えていくかが重要となります。もし、前方がよく見えない山道を目的地まで運転してカーブにさしかかったとき、カーブの長さや角度は初めて通った道であればわからないものです。そのカーブは急なのか、ゆっくりハンドルを回せばいいのか、わからないわけです。カーブの種類によって、ハンドルの切り方は変わります。こういうときに眼の前だけを見ているとハンドルの切り方を誤ってしまう。常にそのカーブの出口をみていないと、カーブの曲がり方を間違うわけです。マーケティングについても、「変化」と「継続」、循環的な変わらないものと変わるものが存在します。それを見極めていかないといけないわけです。それを間違うと、大きく間違ってしまうということになります。また、変化のタイプにもいくつかあり、たとえばA地点からB地点に向かうとき、行き方はいろいろあるわけです。それにC地点が加わると、行き方はもっと増えてきます。そういった中で運転しているのが、マーケティング、ということになります。
 この変化するものと変わらないものの見極めをする際に、世代というものが大変重要になります。例えば、団塊世代や断層世代が若い頃には、真空管のアンプや単品のバラコンポにこだわりを持っていた世代です。その中でも所謂オーディオマニアが市場をリードし、一般の家庭にもフルサイズのオーディオ機器がありました。しかし、続く新人類世代から下の世代では、こうしたマニア的な商品は受け入れられなくなりました。こうした結果、ミニコンポを経て、現在では「iPod」に代表される携帯音楽プレーヤーが市場を席巻しています。同じように、日本では団塊世代がジーンズを初めて受け入れました。リーバイスです。続く断層世代ではリーバイスでも501、というように品番志向となり、さらにその後の世代交代によってサッスーンやLee、DCブランドまで多様化が進みました。これが、バブル後世代になると990円の「gu」がスマートで良いと選択されています。リーバイスは根強い人気を博していましたが、世代交代が進むにつれて、そのパワーを落としてしまっています。
 このように、世代交代によるインパクトは、商品カテゴリーそのものやブランドの存亡にまで大きな影響を与えるものです。これを見極めたうえで、マーケティングに応用していくということになります。ターゲットをどう決めて選択、集中していくのか、それともあきらめてしまうのか。また、どう深堀していくのかということです。中長期の戦略を検討していく場合、この世代論を背景とした歴史観を持つことが大変重要になります。
 世代とは、同一時代に生まれ、時代社会的に同じような「共通体験」を経て成長し、「共通意識」を持ち、「共通行動」をとる社会集団と定義することができます。マルクスが「人は階級に属し、階級同士の対立が社会を動かしている」というのと同様に、「人は世代に属し、世代交代が社会を動かしている」というのが世代論です。世代の役割は階級、年代と同じです。労働者階級、あるいは資本家階級をわけるものが何かというと、生産手段を持っているか持っていないかです。その「階級」とほぼ同じ意味で、世代というものがあります。現代でいうと、「私は下層階級だ」とか「自分は中流階級だ」といった使われ方をします。同じように、年代も十代、二十代と、社会的集団のことを指しますが、これも、世代と同じ役割を果たしていると言えます。そういう意味で、集団の特性ということができます。マルクスやエンゲルスが、階級対立が社会を動かしていると言ったように、ディルタイやマンハイムも、世代が社会を動かしていると言っているのです。

2.世代交代がもたらす中長期の市場変化
 いつの時代も世代落差はありますが、今ほど激しい時代はないということができます。戦後の世代落差もそうでしたが、戦後に匹敵するくらいの世代落差が今訪れていると思います。そういった意味で、世代はもっと注目されるべきだと思います。
 当社で「バブル後世代」と命名している現在26~30歳の集団を取り上げてみます。彼らは、平均的にいうと1981年辺りの、いわゆる「同年代生まれ」であり、社会的事件やエンターテインメントの面で共通体験を持っています。なぜ1981年生まれで世代を区切るかと言いますと、共通意識を持っているかどうかということになります。1981年生まれが小学校入学で1988年、1989年がバブルのピーク、中2で阪神淡路大震災、これが共通の社会体験ということになります。この共通体験が、共通意識を生むのだといえます。ただし、ここでいう共通体験とは、同年代で体験したことを指します。共通の社会体験をしていない人は、共通の意識が形成されないからです。
 このバブル後世代は、一様に「消費嫌い」という特徴を持っています。車も要らない、テレビも要らない、海外旅行も行きたくない、アルコールも飲まない、という状況です(図表1)。弊社の分析では、こうした消費意識の差が、年代でなく世代によってみられることが明らかになっています。人間は、収入が増えると消費をするものですが、収入があっても消費意向が低いというのを嫌消費と定義して、収入と支出意向に尺度をつけてみてみると、世代別の最大最小差がもっとも大きいという結果が得られています。また、コーホート分析で加齢、時代、世代それぞれのレンジで消費性向をみてみると、世代がもっとも効いていることも分かってきました。

図表1.ビール、ステレオの平均購入数量の推移


 中長期の見通し、例えば2015年の市場を考えると、世代変化が訪れることは確定的なことになります。団塊世代が後期高齢者に入り始め、断層世代では子独立のライフステージへ、新人類では子手離れ、団塊ジュニアでは子育てへと世代が変化します。例えば、ビールの市場を考えてみると、これまでビール飲用が多いと目された社会人や子育てというステージに、消費嫌い、アルコール離れを起こしているバブル後世代やその下の少子化世代が登場すること、加えてこれまで市場の牽引約であった団塊世代の本格リタイヤといった世代交代が起こることにより、ビール市場がシュリンクするという逆風が吹くことも予想されます(図表2)。多くの企業の業績が落ち込んでいますが、循環的な景気要因によるというだけはなく、背後ではこうした世代交代によるインパクトに着目することが必要です。

図表2.世代交代によるビール飲用の変化


3.戦略修正の進め方
 世代交代による自社の市場への中長期的な変化予測を基軸に、戦略修正を行う必要があります。世代交代、世代変化が歴史変動のリズムとか律動を生み出す基軸であると捉え、そこから将来の市場と競争の変化を予測し、自社の機会と脅威、競合に関する見極めしていくことが第一歩となります。この市場分析とインテリジェンス化を通じて、市場変化と現在の戦略とのギャップ、目標とのギャップを明らかにします。
 次いで、明らかになった市場変化とのギャップを埋めるため、現在の戦略の修正を行います。ここでは、まず、成長ベクトルをどのように描くか、市場深耕するのか、市場開発か、新製品開発か、事業多角化か、垂直統合かなどの検討を行います。検討する際のポイントは、先の機会と脅威、強みと弱みのに分析結果を用い、機会を捉え強みを生かす(SO戦略)、機会を捉え弱みを克服する(WO戦略)、脅威を回避し強みを生かす(ST戦略)、脅威を回避し弱みを克服する(WT戦略)の組み合わせから戦略オプションを豊富にし、戦略判断を行うことにあります。その上で、中長期の戦略、目標、マーケティング政策の修正を行います。
 そして、実行フェーズにあたっては、戦略転換か継続か、重点と優先順位はどうするか、狙う達成水準とその測定指標をマーケティングガイドラインとして明文化しておきます。アクション成果を客観的に測定し、監査を行うことを通じ、戦略の再修正などへと繋げるようにしていきます(図表3)。

図表3.中長期マーケティング戦略の策定と監査システム


4.世代接近のために
 日本の世代論は、江戸時代までの間にはほぼ存在していません。初めて世代論が文献として登場したのは明治時代。ヨーロッパでフランス革命やイギリスの産業革命が起こって世代論が生まれたのと同じようにして、日本でも明治維新という大変革により資本主義化がすすむことによって歴史観が生まれてきたということです。ひとつの歴史観は、マルクス主義的歴史観、もうひとつが、徳富蘇峰による歴史観です。蘇峰は、変革の担い手としての世代論を打ち出していきました。これが、日本における世代論の最初です。丸山眞男氏もそのように述べています。その後は、三木清、日高六郎、橋川文三、江藤淳がいます。
 弊社では、エリクソンを理論的な基礎付けに位置付けることを提唱していますが、そのヒントを与えてくれたのは江藤淳の『成熟と喪失』です。エリクソンの翻訳がまだ為されていなかった当時、アメリカに留学していた江藤淳が、評論を通じてエリクソンの文献を紹介していました。また有名なのが堺屋太一の『団塊の世代』、筑紫哲也の『新人類』です。
 さて、われわれが世代分析をしようとしたときに、スタート地点である世代の区分をどこに置くかということが問題になります。先人の研究からみていきますと、共通してみえてくるのが、「大きな社会政治変革」です。逆にいうと、人間関係が大激変するときに、世代の区分が出てくるようです。特に何が重要かというと、戦争。第二次世界大戦です。日本の人口で亡くなったのは200万人とも、300万人とも言われています。こういった人間関係の破壊によって、共通意識が形成されていったのではないかということです。明治時代でいうと、明治維新。戊辰戦争でも多くの人が亡くなり、権力を失った人もたくさんいました。そして、これら戦争に匹敵すると言われているのが、バブル崩壊である。バブル崩壊をどの発達段階で体験したかによって世代を区分すると、当時学童期であったバブル後世代が生まれました。
 どの年代で、これら社会的な大きな事件を体験したかで分けていき、日本人の世代を分けると、少子化世代、バブル後世代、団塊ジュニア、新人類、断層世代、団塊世代、戦後世代の七つに区分できます。
図表4.世代から選択行動を読み解く枠組み
 そして、世代に接近していくにあたって、世代心理の理解というものが非常に重要になってきます。世代心理というものをわかりやすく言い換えると、「実感」です。同じ社会的事件を経験しても、経験時期によってその捉え方、実感は多様です。その多様さが、われわれの意識にどう働きかけているのかを知る為には、その世代の心を読まなければならない。そしてその心を読むには、心を読むガイド、理論が必要になってきます。
 理論はいくつかありますが、ひとつがフロイトをベースにしたエリクソンによるアイデンティティの理論です。フロイトの発達心理学の理論と、エリクソンの理論は、アメリカの教育心理学では徹底して教えられる理論でもあります。「カーブの先にはなにがあるのか」を見極めるためにの一助として、世代論は、実感から組み立てる有力な歴史観のひとつとして考えられます。
 弊社では、フロイトの理論をベースにしたエリクソンの発達理論に基づいた世代心理分析手法とそれに基づく戦略修正の手法を開発しています。是非、詳細に関してお問い合わせください。

(2009.10)


本稿は、弊社社員向けの研修プログラムでの松田の講義をもとに編集したものです(文責:編集部)。

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