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(2018.07)
マスターブランドを陳腐化させない
ブラックサンダーのブランドづくり
ディレクター 大澤博一





成長著しい有楽製菓

 東京都小平市に本社を構える菓子製造・販売の「有楽製菓」は、成長著しい企業である。その成長を支えるのが、30円のチョコバー「ブラックサンダー」だ。年間1億3,000万個を出荷するチョコレート市場の大ヒット商品になっている。

 同社は1955年に創業し、ウェハースの製造からスタートした。その後、豊橋市や札幌市に工場を設立。チョコレートも製造するようになり、扱う商品を広げていった。2008年に46億円だった売上は、2017年には102億円と、10年間で2.2倍に拡大した。


図表1.有楽製菓の売上実績推移 10年で売上が約2倍に急成長



発売当初は全く売れなかったブラックサンダーが一気に成長

 同社は企業理念として「夢のある安くておいしいお菓子を創造する企業を目指す」を掲げる。お客様に感動を与えるような商品を作るという決意と、「夢のある会社」にしたいという意味が込められているという。そんな有楽製菓が1994年に発売したのが、ビスケットとココアクッキーをチョコで固めたチョコバー「ブラックサンダー」だ。しかし、順風満帆に成長したわけではない。当初は全く売れず、95年に一度は終売になった。それでも九州地区では評判が良かったため、担当の営業からの再販要請に応えて96年に再び販売を開始し、ほそぼそと販売を続けていた。その後、大学生協で扱われるようになったことで、大学生の間に口コミで広がり、徐々に売れるようになっていった。

 そのブラックサンダーが大ヒットしたのが、2008年の北京オリンピックだった。体操の内村航平選手が好んでブラックサンダーを食べていることが広まり、多くの人に知られるようになった。その結果、08年の売上個数は対前年比1.8倍に達した。この外部的な要因もあり、ブラックサンダーは成長軌道に乗った。


1億個を維持するためにマスターブランドづくりが重要

 商品の改廃が激しいチョコレート市場において、ブラックサンダーは1億個を売り続けている驚異的な商品だ。発売から24年が経過し、今やチョコレートを代表するロングセラーブランドになっている。

 同社は

「変わらないけれど、飽きられない。そういうものをつくり続けたい」(100万社のマーケティング 2016年3月号)
と考えているという。大手メーカーと同じように潤沢な予算を費やして商品開発や広告宣伝を行うことはできない。コストをかけずに
「ずっとそこにあって、ずっと美味しいもの」(同)
を提供するには、「ブランド力」が重要だというマーケティングの共通認識がある。

 有楽製菓の成長のポイントはブラックサンダーのマスターブランドを構築していることだ。ブラックサンダーには、ブランドの価値や性格を活字で理解、共有する「プロフィール」が存在しているという。ブラックサンダーにあった広告・イベント展開、商品開発などは、全てこのプロフィールに基づいて行われる。これは、迷った時のブランドの原点を示すものだ。これがあるからこそ、ブラックサンダーのブランドイメージを損なわない施策などを行うことができている。

 このプロフィールをベースにして、ブランドを飽きさせない四つの工夫を行っている。ひとつ目は、分かりやすいパッケージだ。ブラックサンダーは定期的にリニューアルを行っている。初代と二代目のブラックサンダーのパッケージは「BLACK THUNDER」と英語表記にしていた。英語ではブランド名がパッケージデザインの一部として見られ、ブランド名が認識されない、コンビニの売場でも目立たないという理由で三代目からカタカナで「ブラックサンダー」と表記した。

 ふたつ目は、リニューアル時に品質を向上させていることだ。価格は30円のまま、外側にかかっているチョコレートを7.5%増量している。それによりチョコレート感が増した。パッケージにも「パワーアップ」と表記している。

 三つ目は、ちょっと変わったブランドのアイテム拡大だ。有楽製菓には、

「中小メーカーが生き残るには、大手がやらないアイデアを出し、面白いものをつくり続け、ユニークなことをやり続けなければ生き残れない」(100万社のマーケティング 2016年3月号)
というマインドが根付いている。ブラックサンダーには「柿の種サンダー」、カルビーと連携した「フルグラサンダー」、「白いブラックサンダー」、「ブラックサンダーVOLT」などの派生商品が多くある。

 共通しているのは抹茶味、イチゴ味などの定番のフレーバー展開ではない。「なに、これ?」「どんな味?」というように消費者がちょっと考えなければならないということだ。ガリガリ君で有名な赤城乳業も同じ考え方である。

 四つ目は、コンビニエンスストア(CVS)の店頭以外での接点づくりだ。ブラックサンダーのメインチャネルはCVSであり、CVSの売場で露出を高めることが重要だ。しかし、それだけでなく、義理チョコ文化をもう一度盛り上げたいというコンセプトで「一目で義理とわかるチョコ」をメインコピーにして、2014年に東京駅一番街東京おかしランド内にポップアップストア「義理チョコショップ」を展開した。さらに、2016年にはホワイトデーのお返し用に「白黒つけない義理のお返しショップ」をオープンさせた。


次の成長に向けて

 有楽製菓は、ブラックサンダーというマスターブランドづくりに注力し、ブランドを飽きさせない工夫でブランド価値を維持している。同社の強さはこのブラックサンダーのブランド力だけでなく、高い生産技術にある。ブラックサンダーの包装工程では1秒に5個を包装する。箱詰めも箱の組み立てから4秒で20個を詰めることができ、人手を使わず1日で75万個を生産する技術を持っている。こうした技術がブラックサンダーブランドの構築を支えている。

 さらに、同社は次の成長に向けて動きだしている。ブラックサンダーが台湾で一時ブームとなった。インバウンド観光客の間でも「白いブラックサンダー」が売れている。それをきっかけにして海外展開も進め、現在は台湾、タイ、アメリカで販売している。今後インドネシアにも広げて、5年間で海外売上高10億円を目指している。

 今後の課題はブラックサンダーのマスターブランドを維持しながら、次の成長の武器を作り出すことである。有楽製菓のホームページには今後の取り組みとして「打倒、ブラックサンダー。」を掲げる。ブラックサンダーに代わる第2の柱となる商品の開発を目指している。新規ブランドが育ち難いチョコレート市場のなかで、同社のマインドである「ユニーク」さを表現した次の商品ブランド開発ができるかが、今後の有楽製菓の成長の試金石になるはずだ。


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