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"Hyper-War"イラクの自由作戦
米国陸軍中佐
Robert R. Leonhard(ロバート・R・レオンハード)
構成
 序文 イラク戦のビジネス戦略への教訓 -戦わずして勝つ(MNEXT)
 本論 "Hyper-War"イラクの自由作戦


 2003年4月9日、バグダッド中心地には片手を挙げた巨大なサダムフセイン像が屹立していた。地元住民がかわるがわる木槌で怪物に挑むという隠喩的ドラマが展開されたが、像はびくともしない。そこで、アメリカ軍の戦車回収車が像を包囲し、重いロープを首に巻きつけてイラク市民の歓声の中へと引き摺り下ろした。世界中のメディアは、4月9日を"VI(Victory in Iraq)Day"と呼び始めていた。
 未だ完全な勝利とはいえず、本稿執筆時には多くの課題が残されている―(ティクリットに多いと言われる)抵抗勢力を破壊或いは捕縛するための戦闘、そしてイラクの代議制政府を樹立するための数多くの任務。それでも、像の破壊を目の当たりにした世界中の人々は、このあっという間の勝利が今そしてこの先何を意味していくのか、考えさせられた。一見強い抵抗に遭い、かつての司令官からのアドバイスを拒否しながらも、米英軍はイラク政権を驚くほど速く、少ない犠牲者で切り崩すことができた。これは戦争ではない。"超"戦争(Hyper-war)である。
 米軍率いる連合軍は、クウェートからバグダッドまで350マイル(560km)を進み、イラク政権を22日間で崩壊させ、敵兵6800人を捕虜とし、油田の破壊を阻止し、2400万人の解放を開始した。現在のところ、連合軍側の戦闘による死者は157名、負傷者は500人程度となっている(1990-1991年の湾岸戦争時のおよそ半分である)。敵兵の被害状況は不明。民間人の死者は恐らく1200名を少し上回る程度で、負傷者は5000名とみられている。本稿では、イラクの自由作戦をミリタリーサイエンスの視点から検証し、学べる点を挙げてみたい。

ランチェスターの終焉
 ランチェスター(Frederick William Lanchester)は、自動車と航空機のパイオニアとして名をはせた、20世紀初頭のイギリス人である。ランチェスターはイギリスで最初の自動車を生産しただけでなく、戦間期にはオペレーションズ・リサーチを用いて英国空軍を支援していた。このとき彼は、その後の武器体系の分析や開発に利用されることになる一連の数式、ランチェスターの方程式を導き出した。そしてこれらの方程式から、直接的な相互砲撃に関する第二法則(Square Law)および間接砲撃に関する第一法則(Linear Law)を体系化させた。第二法則によると、直接砲撃戦においては、敵に対峙する軍隊や武器体系はその砲撃を集中させることで、敵軍の武器を最も効率よく破壊することができる。これらの法則や方程式は第二次世界大戦以後の軍隊シミュレーションや分析の基本とされ、広い意味で我々のミサイル戦争の原理を支えてきたものである。
 しかし、今回の戦争では、ランチェスターは既に過去の遺物であることが証明された。彼の公式は、近代の戦いにはまったくそぐわない。この私の主張は、米軍が戦闘で披露した技術的優位性を根拠とするものではない。実際、ランチェスター自身も兵器の質的差異についての想定を行っていた。今回の戦争の結果には、技術的差異以上に重要な点があった。軍事、外交、経済、グランド・ストラテジーレベルでの情報資源の統合による相乗効果である。連合軍の勝利は、情報(軍の内外含めて)と作戦の融合という点で、著しい前進があったことを指し示している。また一方では、近代の独裁政権が陥る特有の機能障害も明らかにした。
 ランチェスター方程式の終焉に伴い、近代の戦争は今後新しい理論を必要とする。的確な理論構築のために、我々は連合軍を勝利に導いた重要な要素を明確にしておかなければならない。

外交的孤立化
 戦略計画レベルにおいて、米軍率いる連合軍はサダム・フセイン政権の孤立化を目論んだ。イラクに対して好意的な勢力―フランス、ドイツ、ロシアおよびアラブ地域の数カ国―でさえ、フセインは残虐な独裁者であるという点に異論はなかった。12年に渡る国連の問題解決努力―本当の解決には至らなかったが―は、少なくとも重い制裁をイラクに課すとともにフセインのマイナスイメージを創り出した。従ってイラクは、他国の協力をまったく期待することができなかった。過激な反米主義は戦前戦中を通して至るところでみられたが、この強い反米感情を外交政策に活用することはできなかった。
 一方米軍率いる連合軍は、戦前外交によって、高度な戦域アクセスを確保した。連合軍の地上戦闘力はクウェートとカタールの基地から、航空力は地域一帯から投入された。トルコから全面的な協力を得ることができなかったため、第4歩兵師団の参加が遅れたことは確かだが、最終的には連合軍は十分な戦闘力を揃えることができた。今後のグランド・ストラテジーにおける最重要側面のひとつは、このような外交を通じて戦域へのアクセスと基地を確保することである。アクセスがない場合、軍司令官は最も避けたいシナリオのひとつである"強行突破"作戦をとらざるを得ない。強行突破は時として残虐で、多くの時間と資金を必要とする。

統合チームワーク
 1986年、画期的な法律である"ゴールドウォーター・ニコルス法(Goldwater-Nichols Act)"がアメリカ連邦議会を通過した。この法律は、四つの軍隊(陸軍・海軍・空軍・海兵隊)の連動を命じている。士官・将校は統合作戦に関する教育・訓練を受けない限り昇進することができず、通常はいずれの軍の士官・将校も統合勤務を経験する。また、統合ドクトリンも設定された。そして、統合参謀本部を再編成し、参謀本部議長が大統領の第一軍事顧問となった(それまでは、統合参謀本部のメンバー全員が大統領に提言していたが、これ以後は議長を通じて行うことになる)。
 ゴールドウォーター・ニコルス法成立後、米国の統合作戦は劇的な進化を遂げた。異なる軍隊および戦闘の間に存在していた偏見は次第に消え、新しい統合文化が生まれた。最も最近実施されたアフガニスタンとイラクにおける作戦では、海軍と陸軍を中心に未曾有のチームワークが発揮された。しかし、戦時能力をさらに向上させるためには、軍隊に匹敵するレベルの統合性を政府機関においても実現しなければならない。統合作戦は法律で規定されているが、政府機関については規定がない。これが実現すれば、個々の改革の結果としてチームワークが発揮できるようになるだろう。
 イラクの自由作戦では、中央情報局と国防総省の間にかなりの連携がみられた。9-11の悲劇以来、警察当局、謀報機関および軍隊の間にあった壁が大きく取り払われた。これは評価すべき前進であり、イラクにおける精密な策略・爆撃はこのような政府機関の連携の賜物であるといえる。
 しかし、まだ道は長い。米国外交政策の重大な欠陥のひとつとして、軍隊の責任が大きすぎるという点があげられる。軍以外の米国政府機関は、外交政策の非軍事的な面への関与が弱く、兵士が穴埋めしなければならない。イラクの復興作戦が継続する中で、兵士や海兵隊員が街の治安を維持し、インフラを再構築し、現地指導者との交渉に臨み、イラク経済の再生を支援している。本来ならば、財務省や農務省、商務省、住宅・都市開発省の担当者が行くべきなのだ。しかしこれまでの慣習として、このような機関は外交問題にはあまり関わらない。完全に統合させるには、法律-政府機関向けのゴールドウォーター・ニコルス法-が必要である。

特殊部隊
 湾岸戦争時の砂漠の嵐作戦においては、シュワルツコフ司令官は特殊部隊の機能をあまり活用しなかった。もっとも、私自身の経験から言っても特殊部隊が記録的な成功をおさめた例はほとんどない。歩兵師団の将校であった私は、不釣合いなほど巨額の軍事費用を必要としながらも戦闘作戦への貢献がほとんどないこの部隊に、疑問をもっていた。しかしこの認識は、アフガニスタンやイラクでの作戦を通じて変わった。特殊部隊は軍事作戦の一部として活用され、多目的部隊(従来型の戦闘職種)に対してこれまでにないほど貢献した。
 特殊部隊は本来、三つの使命をもっている。戦略偵察、現地の人々との作業、そして直接行動である。イラクの自由作戦では、これらすべてが連合軍の成功に重要な役目を果たした。戦略偵察と査察は、ミサイルを発見・破壊すると同時にフセイン政権指導部の居所を突き止めることを目的とした。隊員はターゲットがいると想定された場所を伝達することで、航空攻撃に一役買った。
 軍事作戦の開始前から実施中にかけて、特殊部隊はイラク軍関係者と連絡をとり、投降者の手配を行った。同時に、クルド人やイラク人の中で戦う意思のある者に働きかけていた。このような作戦は必要な協力者を得るだけでなく、味方の軍隊を残虐行為から守るという効果もあった。
 アフガニスタンでの軍事作戦同様、特殊部隊は数多くの直接行動を行った。以前は、直接行動は危険が伴うため多用されることはなかった。しかし、今回の精鋭部隊は、航空機動と奇襲をフルに活用しながら、これまでにない規模の急襲・攻撃・救助作戦を行った。これらの行動を見せつけることで、現場の司令官は敵国全体を文字通り危険にさらし、敵の意思決定と部隊配置を複雑化させることができた。

重量部隊の役割
エイブラムス
ブラッドレー
ストライカー
 1990年の夏、私は雑誌『Army』に投稿し、陸軍が重量部隊(戦車や機甲化歩兵)を削減する決定を行ったことに対して、異議を申し立てた。冷戦が終結した当時、重量部隊は高額で時代遅れの代物とみられていた。しかし近い将来、重量部隊は地上作戦に最適な兵器になると私は指摘した。2、3名の読者が、重量部隊を擁護する私に嘲笑を向けた。
 その1ヶ月後、イラクがクウェートに侵攻した。
 湾岸戦争と同様、今回も重量部隊はイラク政権の打倒において重要な役割を果たした。事実、M1エイブラムス戦車やM2ブラッドレー歩兵戦闘車は地上作戦行動の中心と位置付けられていた。これらの巨大な車両に対する反論-維持費用が高すぎる、迅速に海外展開することが難しい、燃料を消費しすぎる-は、第三歩兵師団と第一海兵遠征軍が数百マイルを突破してイラク中心部になだれこむと同時に、無意味な議論として消え去った。
 過去15年程度に渡り、米国陸軍はエイブラムス・ブラッドレーの将来について議論を重ねてきた。最近、陸軍は"中量(Medium weight)"隊と呼ばれものの開発に着手した。20トンの先頭車両の周りに戦闘部隊を形成するものである。70トンあるエイブラムスに比べて、燃料・メンテナンスの面で大きなコスト削減ができる。現在のところ陸軍は既製技術を用いて、ゼネラル・モータース社製14.5ミリ装甲の"Stryker"を製造している。この機甲戦闘車両は、輸送や支援の面では優れているが、装甲が薄いため、イラクの自由作戦で使用されたようなロケット推進擲弾(RPG)の攻撃には耐えられない。そのような場合陸軍は、Strykerに装甲を追加搭載すると考えられる。それでも、エイブラムスやブラッドレーが遭遇しているような近距離攻撃に、中量車が耐えられるとは考えられない。陸軍や海兵隊が今回の戦争を分析したなら、重量部隊が本当に"時代遅れ"であるかという点を再評価せざるを得ないだろう。

精密性
 イラク戦争で脚光を浴びた米軍の技術の中で最も話題になったのは、精密爆撃である。精密誘導爆弾(JDAM)技術を通じて、米国空軍はかなりの量の"旧来型爆弾"を"高性能爆弾"へと変身させた。JDAMは、尾翼の形をした装置で、従来の爆弾の後部を付け替えて使用する。この装置にはGPSや慣性誘導システムが組み込まれており、あらかじめ決められた目的地へ正確な飛行を実現する。
 もっとも明確な成果は、連合軍航空機によるピンポイントのターゲット攻撃にあらわれている。しかし、それ以外にもふたつの成果がみられる。JDAMを搭載した航空機は目標から最大16マイル(26km)離れた場所で兵器を放出し、敵の反撃を受ける前に飛び去ることができる。目標地点に近づいたり飛び回る必要がないため、パイロットと航空機の安全を守ることができる。以前レーダー誘導品を使用していた頃は、目標に近づいて爆弾を導くため、機体を対空砲火(AAA)や地対空ミサイル(SAM)の前に晒していた。
 精密爆撃は、目標物以外を爆撃しないという点でも重要である。味方への誤爆を避けるだけでなく、非戦闘員やインフラ施設などを巻き添えにしないで済む。イラク国民は、米軍が巻き添え攻撃を避け難民をほとんど出さないという意思とそれを実現するための技術を持っていることを十分知っていた。普通のイラク人は、安全な自宅に待機していた。精密兵器は連合軍に"高い道徳基準"をもたらしただけでなく、悲惨な難民の誕生を未然に防ぐという効果もあった。

デジタル指揮統制システム
 CENTCOM(米中央軍司令部)による大胆な軍事作戦の背景には、強固な通信・コンピュータネットワークが存在している。デジタル指揮統制システム-司令部と各部隊を結ぶシステムを統合するシステム-により、連合軍司令官は、戦場をみるということに関して空前の能力を手に入れた・・・反面、敵側はほとんど状況を把握できていないのだが。
 私は、著書『 The Principles of War for the Information Age』にて、デジタル指揮統制技術を本当に使いこなした場合、地上作戦のスピードが相当アップすると指摘した。司令官に地形や味方、敵が見えていたとしたら、正確さとスピードを伴う移動が可能になる。 これはイラクの自由作戦で顕著にあらわれた。イラク中心部に向け進撃する部隊は、湾岸戦争における地上部隊のおよそ3倍のスピードで移動していた。さらに驚くことに、今回の作戦区域は湾岸戦争時の約10倍の広さがあり、このスピードを保ちながら移動し続けたのである。
 デジタル指揮統制技術を用いると、司令官は"状況認識"をすることができる。有史以来、戦闘中の司令官は常に味方と敵の位置を把握しようと努めてきた。状況認識技術により、司令官はコンピュータ上のマップで最新情報を入手できるようになる。戦況認識を得ることで、味方への誤爆を防ぎ、素早い作戦行動を実施し、敵を正確に捉え、味方をより効果的に防御できる。最もデジタル武装された陸軍部隊である第4歩兵師団は戦闘には参加しなかったが、その他すべての軍隊もデジタル技術進歩の恩恵にあずかっている。今後この傾向が続けば、さらに大胆かつ攪乱的な作戦計画が増えていくと考えられる。

改善すべき点
 どの戦争でもそうであるように、米軍率いる連合軍もいくつかの挫折と妥協を経験した。公式には否定されているが、連合軍と政府指導部が敵をある程度過小評価していたことは間違いない。抵抗の強さを予測することに失敗し、変則的な戦術に転換したことは作戦自体を狂わせるほど深刻なものではなかったが、待望の政権崩壊が起きないのではないかと、人々は数日間不安に陥った。
 進軍スピードが落ち、負傷者が増え始めた3月23日、中央軍のフランクス司令官が作戦についてのコメントを発表した。「最終的な成功を保証するだけでなく、当面の成功についても可能性を残している」ため、これは良い計画であると言った。かつて戦争の立案者であった私は、このコメントに共感した。厳格で定型的な計画ではなく、決定時点(decision points)に基づいて設計されており、開始時点から高い柔軟性が織り込まれているためだ。



 専門家は、よく軍事計画を上記のような図で説明する。ある軍隊は、攻撃開始線(LD)を超えて戦闘を開始し、一連の統制線(PL)を計画通りに通過して目標に達成しようとする。このような厳格で均一な計画は、既に過去のものであり、近代の戦闘よりも第一次世界大戦を連想させる。米国の今日の戦争計画は、定刻通りの統制線ではなく、情報と決定時点に基づいている。計画立案者は、司令官がある重要な意思決定局面を迎えるであろう時刻、場所及び状況を想定する。そして、それに合わせて情報資産を手配し、司令官が意思決定をする場面で必要な情報が手に入るようにする。
 例えば、ある作戦における計画立案者は、司令官が作戦開始後36時間で主力部隊を右に向けるか左に向けるか決定しなければならないと想定したとする。最適の決定をするために、司令官は敵の配置、気候、地形、味方部隊について明確に把握する必要がある。従って計画立案者は、センサーや偵察機などの情報資産を使い、来るべき意思決定時点に合わせて情報提供できるように準備をしておく。作戦の進行とともに、計画立案スタッフは3~10日先を予測しながら、このような分岐点(ブランチ)とその結果を検討し計画を策定するのである。
 従って、中央軍はフェダイーンなどのイラク人部隊による変則的な戦術と態度表明に多少は驚かされたものの、それによって計画が放棄されることはなかった。つまり司令官はメイン計画の代わりにブランチ計画を検討し始めたのだ。軍事用語では、これを柔軟性(flexibility)と呼ぶ。中央軍が採用したブランチ計画の例としては、初期の待ち伏せ攻撃を受けて我々の後方連絡線が脆弱であるとわかったため、その防御に戦闘力を集中させたというものがある。重要なのは今回の計画はこのような不測の事態に対応できるほどの柔軟性をもっていたということである。

衝撃と恐怖
 バグダッドへの航空攻撃を"衝撃と恐怖(shock and awe)"と表現したのは誤りであった。"首切り(decapitation)"という言葉を使ったり、メディアに対して「衝撃と恐怖作戦の始まりを見ておいてください」と言ったりしたことは、中央軍の失策であるといえる。航空作戦は花火大会でも大衆向けの娯楽でもない。航空作戦は基本的にメディアから隠して行うべきだ。テレビカメラは航空攻撃の量の多さしか伝えることができないから、ものすごい攻撃を期待していた人々にとって、今回は大きな失望をもたらしてしまった。
 航空作戦は、間違いなく敵に大きなダメージを与えた。しかし昨今の米軍の戦争事例に漏れず、航空計画立案者が楽観的すぎるという問題があった。国防総省内の民間人・軍人を含めたほとんどの当局者は、最高の軍事効果を発揮するためには軍隊間の統合や協力が不可欠であると認識している。しかし、一部の熱烈な空軍支持者は、航空攻撃単独で勝利を得ることができると心から信じている。彼らは今回の航空作戦によって数日または数時間で決着がつくと宣伝して回ったのである。航空攻撃初期段階での失望が消え去った後、航空計画立案者は落ち着いて通常通りの任務に戻っていった。

メディアゲーム
 もうひとつ、今回の戦争で革新的なことがあった。中央軍のメディア対応である。過去の戦争では、メディアと軍は対立することが多かった。衝突の本質は"縄張り争い"であると言われる-メディアも軍も、自分達こそが自由の援護者であると主張するのだ。湾岸戦争時、中央軍はメディアを厳しく統制しすぎたとして批判を浴びた。イラクの自由作戦で中央軍は「メディアを内蔵する」という新しい方策を採用した。世界中のジャーナリストやカメラマンが軍に同行し、戦闘の光景や音をリアルタイムで家庭に届けたのである。
 全体的にみれば、これは良い傾向である。しかし観る側も少し高度化する必要がある。射撃戦などの衝撃的な映像が放映された場合、作戦全体が難航しているような印象を与える危険性がある。3月23日を例にみてみる。その日の放映内容-パトリオットミサイルに撃ち落とされた英軍航空機、アラブのテレビ局で放映された5名の米軍捕虜、ナシリアにおける激しい戦闘-によって、作戦が危機に瀕しているという見方が広まった。すべて正確な事実であるが、同時に誤解を招く恐れもあった。戦略的な視点が欠けていたためである。全体的には、任務は期待以上の成果をあげていた。しかし、ある個人の悲劇的な死という衝撃的でリアルな事実は、時として大きな真実を隠してしまう。
 中央軍は、イラク国営放送を破壊しないという意思決定を作戦終盤まで維持した。もちろんこれには、政権崩壊後に連合軍がそのネットワークを使用できるように、という意図がある。戦闘が長引いても、中央軍はこの決定を再検討しようとしなかった。そのため、フセイン政権は強いプロパガンダ攻勢を続け、アラブ世界の共感を得た。イラク政権が戦争を切り抜けるかもしれないとみられていたうちは、反米憎悪感情を広め、アラブの若者を戦闘に参加させるという効果があった。最終的に中央軍が国営放送を破壊した後は、イラクのプロパガンダは明らかに弱まった。
 中央軍は当初、カタールでの定例発表に関してもミスを犯した。開戦後数日間は一切発表を行わず、このメディア拒否の姿勢にジャーナリスト達は疑問を呈した。記者発表が始まると、説明者は問題を回避し自己防衛を図ろうとした。敵の強い抵抗への戸惑いを一切否定した軍は、多少の信用を失った。戦闘が続くにつれてブルックス准将はよりバランスのとれた冷静な振る舞いを身に付け、意味のある発表が行われるようになった。
 最後に、イラクの自由作戦では文化の衝突が明確にあらわれた。アラブメディアが繰り返し放映する内容-米軍は劣勢にあり、連合軍はイラク内のアラブ人に残虐行為を働いている-を、アメリカ人は信じなかった。中東の国々では正確な(またはバランスのとれた)事実を求める声がほとんどみられない。アメリカ人が茶番劇であると知りながらプロレスを楽しむのと同様、多くのアラブ人は、教養のある人々が作り話に対してそれが真実であるかのように反応している様子を見慣れている。アメリカ人には理解し難い現象であり、中東の人種的・宗教的固有度の深さを示している。アラブの武力が西洋軍隊にとってたいした問題ではないとすると、最も困難な問題は、このような西洋文化に対する偏見である。

縦深攻撃
アパッチ
 1980年代、米国陸軍は空軍の協力のもと縦深攻撃ドクトリンを開発した。もともとはソ連式梯形編隊の第二・第三攻撃部隊を混乱、遅滞させることを狙いとしており、ロケット・ミサイル・固定翼航空機・回転翼航空機を組み合わせた縦深攻撃を特徴とする。コブラや後のアパッチといった攻撃ヘリコプターはこのために開発されたものである。しかしイラクの自由作戦では、ヘリコプターでの縦深攻撃が困難な状況になった。
 我々のドクトリンでは、ヘリコプターによる縦深攻撃は操縦士の安全を確保するため、常に夜間に実施する。また、飛行ルートに従って陸軍が敵防空網制圧(SEAD:Suppression of Enemy Air Defense)を実施する。SEADとは一般的に、あらかじめ特定された敵の地対空ミサイルを長距離砲で攻撃するものである。ヘリコプター自身でSEADを遂行することもある。このドクトリンの問題は、ロケット推進擲弾(RPG)を攻撃目標としていない点である。RPGは位置を特定するのが難しく、1エリアに数百単位で存在する。しかも操作が簡単な上、機甲ヘリコプターを撃ち落す威力もある。
 この問題は、3月23日にアパッチ攻撃ヘリ群がバグダッド南部の共和国防衛隊を攻撃した事例にみることができる。激しい交戦の末、1機のアパッチが撃ち落され、パイロットが捕虜となった。この攻撃は成功したとは言い難く、塹壕内に潜みRPGや小型武器を所有する敵に対するヘリ攻撃の脆弱性が明らかになった。
 同じように、ブラックホークヘリコプターも少なくとも1機が撃墜された。航空機動攻撃は、無防備なテリトリーを攻撃する場合、例えば重要な橋や交通要所を制圧する場合に最適である。しかし、地上部隊の射程範囲内に入った場合、数百もの武器に遭遇することになる。米軍の行動後再調査(AAR)において、軍用ヘリコプターの役割は見直されるべきである。

結論
 イラクの自由作戦は軍事面の革命が本当に起こったことを示している。少数精鋭のハイテク部隊が大人数の敵を相手に戦い、大きな勝利を収めた事例は他にはほとんどない。世界中の国家は、軍事に関する慣例や前提を見直し始めている。国防総省の戦後分析では、武器体系の予算優先事項が間違いなく変わっていく。
 今後は連合軍によるイラクの平和維持が焦点となるが、軍隊が戦中のたとえ半分程度でもその能力を発揮できれば、すばらしい結果がもたらされることだろう。

Robert R. Leonhard 氏略歴
現在ウエストバージニア大学 陸軍ROTC(*予備役将校訓練部隊)のミリタリーサイエンスの教授。
1978年
コロンバス大学にて芸術史学士号取得。
1989年
トロイ州立大学にて国際関係学修士号取得
1994年
米国陸軍大学にてミリタリーアート&サイエンス修士号取得
米国陸軍においては、
ルイジアナ州 フォートポークの第五歩兵師団に中尉として配属された後1986~1988西独にて第一機甲部隊に大尉として配属。
米国帰国後、陸軍学校で教鞭を執りながら、その間湾岸戦争にも参加。
1994年第二機甲師団の第41歩兵部隊の作戦将校として招聘される経験を持つ。
主要著作は
The Principles of war for the information Age(1998)
Fighting by Minutes(1994)
The Art of Maneuver(1991)
他論文多数。
  *
米国の大学に設けられた学生軍事訓練部。学生は現役部隊での勤務経験を持ち、有事には召集されて現役に復帰する。ROTCで訓練を修了したものは将校(少尉以上)の階級を得る。ROTCは陸軍のほか、海軍、空軍にも存在する制度である。

お知らせ

2024.03.25

当社合田執筆の「猛スピードのクルマはいらない」 これからの高齢化社会に必要な“まちづくり”とは何か? そのヒントは欧米になかった!」がメルクマールに掲載されました。

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