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MARKET-DRIVEN WINNERS
-勝者の市場駆動型マーケティング-
by George S. Day(ジョージ・S・デイ)
The Wharton School(ペンシルバニア大学 ウォートンビジネススクール)
序文 舩木 龍三
構成
 序文
(全文はメンバーシップにて公開中です。)
 市場志向を理解する
 市場志向における報酬
 市場駆動型は万能か
 市場駆動型で成功するには


序文

 G.S.デイ教授は、ハーバードを超えるアメリカのNo.1ビジネススクール、ペンシルバニア大学ウォートンスクールのリーダー的存在である。
 同教授は10年間におよぶ企業の戦略行動の実証研究をもとに、マーケティング戦略、経営戦略論、競争戦略の再検討を行い、顧客志向と競争志向の両者を巧みに組合せながら独自の戦略論を築いている。その戦略論はいまやM.E.ポーターを超えたと言われている。その成果がこの論文のベースとなった「Market Driven Strategy」と「Market Driven Organization」である。
 残念ながら、日本の実務家には、デイの戦略コンセプトや考え方は普及していない。当社が論文を依頼したのはこのためである。

  いくつかの学ぶべきポイントを提示したい。

「Market Driven」という言葉は、この論文のなかでは「市場駆動」と訳している。その定義を文脈から整理すると、市場駆動であるということは「自己の市場を徹底的に知り尽くし、裁量の顧客と戦略を選択し、一貫性を保ちながらそれを徹底的に遂行する厳格さをもつこと」である。ありふれた言葉であるが、論文のなかでも主張しているように「すべての人々に多様な価値を提供することとは異なる」「大切にすべき得意客とその特性を把握する能力に長けていると同時に、気まぐれでコストのかかる利益を吸い取るような顧客を切り捨ていることに後ろめたさを感じない」ということだ。日本企業の多くは「すべてのお客さまに」とうたっているが、それでは市場志向ではないのである。

  デイは、市場駆動型の企業が持つ特徴を四つあげている。ひとつは「開かれた企業風土」である。市場の変化を機敏に絶え間なく探求しようとする企業風土である。ふたつめは「市場を予見しうる戦略立案能力」である。単に市場機会や脅威に反応するだけでなく、市場変化を予見しそれに対応する戦略思考能力である。三つめが「企業単位で継続的に市場対応できる組織形態」である。そして、これら三つの要素を支える「組織的な情報共有」である。
 この四つの要素は、どれか個別要素が優れているのではなく、しかも単純な法則はなく「芸術的に組合せること」によって優れた市場志向が創造できるとしている。したがって、我々は自社のもっている資源をふまえたうえでの市場志向と戦略の再構築が求められている。
 結びの部分での言葉がそのことを示している。「今後、多くの企業が市場志向を標榜する考えられるが、知識不足や決意の欠如が原因となり、大半は成功に及ぶことはないだろう」。この言葉は、市場を客観的に捉え、明確な顧客の絞り込みと価値提供システムが求められていることが言いたいのだと思う。
 真の市場志向を獲得すれば、持続的な競争優位を獲得できる。言葉で「顧客志向」を掲げるレベルではなく、それが具体的な戦略と組織に反映されなければ意味がない。今一度、自社の戦略と掲げているスローガンとのギャップを冷静に分析し、自社の戦略構築に役立てていただきたい。

1.市場志向を理解する
 市場駆動型の企業は通常、その市場のリーダーである。なぜなら、市場駆動型であるということは、重要な顧客を理解し、魅了し、そして維持する優れた能力を有していることに他ならないからだ。
「優れた」という言葉が定義に加わることで我々は、競争市場における勝利とは、競合を上回るサービスや商品を提供することだ、との認識を新たにする。自己の能力は、同一市場の「トップクラス」の競合相手、あるいは自己と同レベルの企業と比較して初めて明らかになる。これまでもたびたび、最も市場志向の強い企業はどこかという質問を受けてきたが、この問いは適切でない。なぜなら、厳格な基準など存在しないからである。重要なのは、自分がライバルよりも優れているかどうか、ということなのだ。
 この定義は「企業の目的とは利益を上げながら顧客を魅了し、満足させることである」というドラッカーの金言を包括するものでもある。しかし、新規顧客の獲得には多大な費用がかかるため、顧客を満足させるだけでは不充分だ。企業の実際の利益は、顧客との相互信頼や双方向の努力、および緊密なコミュニケーションを通じて、強いロイヤリティーを形成し、重要顧客を維持できるかどうかにかかっている。
 市場駆動型の企業は、自己の市場を徹底的に知り尽くしており、大切にすべき重要顧客とその性格を把握する能力に長けている。同時に、気紛れでコストのかかる、利益を吸い取るような顧客をためらいなく切り捨てることができる。したがって、市場駆動とは、最良な戦略を選択し、一貫性を保ちながらそれを徹底的に遂行する厳格さを持つことである。すべての人々に多様な価値を提供することではない。


* この論文はGeorge S. Day著『The Market-Driven Organization, New York: Free Press, 1999』を要約したものである。

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