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インターネットの消費者心理
 "フロー体験"の解明に向けて(米国の研究紹介)【後編】
  消費研究チーム
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(3)分析結果

 今回の調査では、前節で述べたようなフロー体験の収集だけでなく、一般的なネットに対する態度もあわせて測定した。これらはNovak, Hoffman and Yung(2000)で使用された13項目に、「ゴール指向vs.経験指向」を表す4項目を新たに付け加えたものである。それぞれ9段階尺度で測定し、プロマックス回転による主成分分析をおこなった結果、図表5のように六つのグループに分類された。本調査では、各グループに含まれる変数を合成した六つの新変数(「ネット態度」と呼ぶ)を作成し、フロー体験との関連性をみていく。
 以下は、三つの課題に対する結果である。

図表5 一般的なネットに対する態度項目の分類結果


1)フロー体験の有無との関連性:フロー体験は、ゴール指向の人でより起こりやすい

 本調査では、全体の44.8%がフロー体験があると答えたが、六つのネット態度とフロー体験の発生にはどのような関係があるだろうか?フロー体験の有無を従属変数として判別分析を行ったところ、正準判別係数のWilks' Lanbdaは統計的に有意で、正準相関は0.540という結果が出た。
図表6 各ネット態度の
標準化正準判別係数
 標準化正準判別係数は図表6のとおりである、予想されていた通り、1番目の要素である"フロー"の係数がもっとも大きかった。しかしながら、スキル・チャレンジ・新奇性・重要性の四つもフロー体験の発生に寄与しており、これらのスコアが高いユーザーほど、フローの発生率が高いことがわかる。また、行動タイプについては、経験指向よりもゴール指向の人のほうがフロー経験の発生率が高いという結果となった。これは、「フローは経験指向型行動で起こりやすい」というこれまでの諸説を覆す結果である。

2)フロー体験の内容との関連性:行動タイプによってフロー体験の内容も異なる

 図表7は、フローコードとネット態度の相関係数をあらわしている。全体的に相関が低くなっているのは、フローコードが「ある1回の体験内容」を表すのに対し、ネット態度は「ふだんのネット利用行動」を表しているという違いがあるためである。とはいえ、この結果からも全体的な傾向は読み取ることができる。例えば、
  • ふだんから経験指向型のネット行動をしているユーザーは、フローにおいて「感覚喪失」「経験指向」を経験しやすく、「情報入手」はあまりみられない
  • スキルに自信があるユーザーは、フローにおいて「ポジティブな感情」「プロセス満足」「情報共有」を経験しやすい
  • ネットに新奇性を求めるユーザーは、フローにおいて「経験指向」「能力の実感」を経験しやすい
  • ネットを重視するユーザーは、フローにおいて「ポジティブな感情」「プロセス満足」「能力の実感」「情報共有」を経験しやすい

図表7 フローコードとネット態度の相関係数


3)フロー体験のタイプ:八つのセグメントが抽出された

 各フローコードの出現に体系的な法則があるかどうかを確かめるため、回答した588名についてK-Meansクラスタリング分析をおこなった。コードやネット態度に関する説明力を分析したところ、最適なクラスター数は8となった。
 八つのクラスターにおける各コードの平均値を図表8に示した(前述のとおり、コードは0~2の3段階で得点化されている)。この結果と各クラスターの代表的な回答内容を踏まえ、それぞれ以下のようにネーミングした。
クラスター1「In the zone」:ゴール指向で、感覚喪失を伴うほどネットにのめりこむタイプ
クラスター2「In charge」:経験指向で、ネットを自在に操ることを楽しむタイプ
クラスター3「Ambiguous」:いずれのコード得点も低く、明確な意識を持っていないタイプ
クラスター4「Content Lovers」:ある特定のコンテンツにのめりこむタイプ
クラスター5「Out of Body」:経験指向で、感覚喪失を伴うほどネットにのめりこむタイプ
クラスター6「Builders」:自らサイトを作るなど情報発信を熱心におこなうタイプ
クラスター7「Goal-directed」:ゴール指向で、情報入手のためにネットを利用するタイプ
クラスター8「Feel Good」:ゴール指向で、ネットで有意義かつ楽しい時間をすごしたいタイプ

図表8 八つのクラスターにおけるコード平均値とクラスターのネーミング


 図表9では、六つのネット態度別のクラスター平均を示した。
  • クラスター2(In Charge)、5(Out of Body)、8(Feel good)はふだんからフロー状態を経験することが多く、6(Builders)と7(Goal-directed)は少ない
  • クラスター2(In Charge)、5(Out of Body)はふだんから経験指向的にネットを利用しており、7(Goal-directed)はしていない
  • クラスター2(In Charge)はネットへの挑戦意欲が高く、7(Goal-directed)は低い
  • クラスター2(In Charge)、6(Builders)、8(Feel good)はネットを特に重視しており、クラスター5(Out of Body)はしていない

図表9 ネット態度別のクラスター平均値


4.結論
 以上が、この研究の概要である。オンラインマーケティングという視点から学べるポイントをいくつかあげる。

(1)フロー体験を作り出すカギ

 オンラインマーケティングでは、フロー状態を作り出すことが重要である。フロー体験中の消費者はインターネットとの相互作用のみに注意を集中させており、非常に楽しく満たされた時間を過ごしている。結果として、そこに登場したブランドに対し強い好意や印象が形成されると考えられるのだ(Hoffman and Novak 1997)。
 インターネットが普及し、経験を積んだユーザーが増えるにつれ、フローを経験する人も増えていく。このとき、スキルアップしたユーザーに対して作り手側も以下のような工夫をしなければならない。
  • サイト内容のレベルアップ:ユーザーの高いスキルに対応する"挑戦的な"コンテンツを提供しない限り、フロー状態を作りだすための「スキル-チャレンジ」のバランスを維持することはできない
  • コミュニティ的要素の提供:スキルに自信があるユーザーほど、フロー状態において他者との交流を行っている。フローは「PCと自分」の間で作り出されるものはなく、「他人とPCと自分」の間で発生するものになりつつある
 ネット経験豊富なユーザーをフロー状態へ導くためには、レベルの高いコンテンツとコミュニティ的要素が有用であると考えられる。

(2)フロータイプ別のアプローチ

 今回の調査で、フロー体験の仕方には八つのタイプがあることが確認できた。ユーザータイプにあわせた訴求方法を行うことで、効率的なコミュニケーションが実現できると考えられる。
 実際に実施するにあたっては、以下の2点を検討しなければならない。
 第一に、今回の結果はある1回のフロー体験に基づいたものであるから、「一般的なネット行動におけるフロータイプ」、もしくは「特定の商品・サービス領域におけるフロータイプ」に関する追加調査が必要である。
 第二に、訴求内容との関連付けである。例えば、「Feel Good」のユーザー(ゴール指向で、有意義かつ楽しい時間を過ごしたい)が望むのは、「品質情報」か「口コミ情報」かもしくは「鮮度の高い情報」なのか?といったことについて、サイトの内容に沿って検討する必要がある。

(3)購買行動との関連性

 今回の調査は、インターネットのフロー体験に焦点を当てたものであり、ネット購買行動との関連性については言及されなかった。今後深掘りが必要な部分であるが、現在以下のような関連研究がなされている。
 Hoffman and Novak(1996)によると、ゴール指向型のフローにおいては製品の選択と意思決定がフローそのものの中で完結し、購入に結びつく。それに対し、経験指向型では直接的には購買に関係ないような"潜在的な学び"を通じて、ユーザーの中でより強い記憶と口コミ行動を発生させているという。
 また、Smith and Sivakumar(2001)は、フローによる購買行動の偶発性モデルを提案している。ブラウジングの量やそれまでの購入回数などによってフローの強さがどう異なるかを検証している。

 本稿で紹介した研究では、フロー体験という無意識行動の分析を通じて、オンラインマーケティングに関するいくつかのヒントが示唆された。今後は、ブロードバンド化や携帯電話経由のインターネット利用といった新たな要素を組み込みながら、日本独自のネット消費者行動論として発展させ活用していく必要があるのではないか。


【文中に登場する参考文献】
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