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(2019.06)
月例消費レポート 2019年6月号
消費は回復の足取りに陰りが見え始めている
主任研究員 菅野 守

※本文中の図表番号をクリックすると、ポップアップで表示されます。

 JMR消費INDEXの中長期的な近似曲線は2019年4月現在、上昇トレンドにある。短期的な動きとしては、INDEXの数値は2019年3月以降、50を下回り続けている(図表1)。INDEXを構成する個々の変数の動きをみると、支出水準関連指標では、消費支出は2019年4月には4ヶ月ぶりに悪化となった。平均消費性向は2019年3月以降2ヶ月連続で悪化している。預貯金は2017年12月以降一貫して悪化が続いている。支出水準関連指標3指標すべてが悪化となったのは、2018年12月以来4ヶ月ぶりのこととなる。

 販売関連指標は、2019年3月時点では計10項目中、改善が5項目に対し悪化が5項目となっていたが、2019年4月時点では改善が6項目に対し悪化が4項目となっている。2019年3月から4月にかけて、販売関連指標では改善の動きがみられたものの、支出水準関連指標では悪化の動きが進んでいる(図表2)。

 公表された2019年4月以降の各種経済指標から、消費を取り巻く状況を整理すると、消費支出に関して、二人以上のうちの勤労者世帯では2019年4月現在、名目の伸びは4ヶ月連続でプラスとなったが、実質の伸びは4ヶ月ぶりにマイナスに転じた。伸び率の値は名目と実質ともに大きく低下している(図表5)。二人以上世帯では、消費支出の伸びは直近の2019年4月時点で名目と実質ともにプラスだが、伸び率の値は双方ともに2ヶ月連続で低下している。

 直近の10大費目別にみると、2019年4月時点で、名目と実質の双方で、プラスの費目数がマイナスの費目数を上回っている。前月の2019年3月から4月にかけての推移をみると、名目と実質の双方で、プラスの費目数が減りマイナスの費目数が増えている(図表6)。以上より、消費支出の動きに関しては、全体でみても10大費目別でみても悪化の方向への動きが認められる。

 消費者物価指数の動きをみると、物価の伸びは2019年に入って当初はゼロに近い水準にあったが、2019年2月頃を底に再び上昇に転じている(図表7)。販売現場での動きをみると、日常財のうち、商業販売は2019年4月時点で、小売全体の伸びはプラスを保っているが、主要な業態間で好不調が分かれている。

 外食は直近の2019年4月時点では全体でプラスを保ちつつも伸び率の値は全体並びに全ての業態で低下し、一部の業態ではマイナスへと落ち込んでいる(図表11図表15)。耐久財のうち、新車販売では2019年4月以降、乗用車(普通+小型)と軽乗用車の双方で、伸びはプラスが続いている。(図表12)。家電製品出荷は2019年4月時点では、黒物家電と白物家電ともに、伸びはプラスを保っていた(図表13)。

 ただ、2019年6月21日に社団法人電子情報技術産業協会より公表された「民生用電子機器国内出荷統計」(2019年5月分)、並びに、2019年6月24日に社団法人日本電機工業会より公表された「民生用電気機器 国内出荷実績」(2019年5月分)によれば、白物家電の伸びはプラスを保ったものの黒物家電はマイナスに転じており、カテゴリー間で好不調が分かれている。新設住宅着工戸数は2019年4月時点で、全体の伸びは5ヶ月ぶりにマイナスに転じており、カテゴリー別では分譲住宅・マンションの伸びは大幅なプラスから大幅なマイナスへと急落している(図表14)。

 雇用環境に関しては、完全失業率は2018年6月以降、2.4%のラインを挟んでの上下動が続いている。有効求人倍率は2018年11月以降、1.63倍の水準で横ばいが続いている(図表8)。収入環境に関して、「毎月勤労統計」における現金給与の伸びの推移をみると、2019年4月時点で、所定内給与額の伸びがわずかにプラスとなったものの、現金給与総額と超過給与額の伸びはマイナスが続いている(図表9)。

 消費マインドに関しては、消費者態度指数は2019年5月時点で8ヶ月連続の悪化となっている。景気ウォッチャー現状判断DIも2019年5月には悪化に転じている。消費マインドは悪化の動きが強まっている(図表10)。

 経済全般の状況に着目すると、輸出の伸びは12月以降、マイナスが続いている(図表16)。2019年6月19日に公表された「貿易統計」2019年5月分(速報)でも、輸出総額の伸び率は前年同月比で-7.8%となり、6ヶ月連続のマイナスとなっている。生産については、指数は2018年10月を境に低下傾向に転じた後、2019年1月から4月にかけては横ばい傾向にある(図表18図表19図表20)。

 マーケットの動向をみると、2019年4月下旬から2019年6月初頭にかけて、為替と株価は円高・株安局面で推移してきた。その後、為替は横ばい傾向で推移の後、直近の6月下旬頃には再び円高の動きが強まっている。株価は、6月初頭から6月下旬にかけて上昇傾向で推移してきた(図表21)。ただし、その後は6月20日をピークに株価の低下が続いている。長期金利は2019年4月以降もマイナスで推移し、4月17日に終値で-0.009%を付けたのを境に低下傾向で推移している。特に6月20日時点では終値で-0.163%まで下がっている(図表22)。

 総合すると、消費は回復の足取りに陰りが見え始めている。消費支出をはじめ支出水準関連では、悪化の動きが進んでおり、これまで好調さを保ってきた日常財の一部で弱い動きも出始めている。耐久財ではカテゴリー間で好不調が分かれる中で、悪化の方向への動きも徐々に見られつつある。雇用環境改善の動きも頭打ちとなりつつある中で、収入環境では悪化の動きが続いており、消費マインドでも悪化の動きが強まっている。

 経済全般の動きとして、輸出は悪化の動きに依然歯止めがかからず、生産の足取りは一旦下落に転じた後、もたつきが続いたままだ。為替と株価は令和改元以降の弱気(ベア)基調の後、円高の動きには再び弾みがつき、上昇に転じた株価にも足許で一服感が出ている。長期金利もマイナスに落ちこんだまま下げ足を速めている。

 2019年6月の月例経済報告や2019年6月の日本銀行・金融政策決定会合の結果を見る限り、政府と日銀ともに、景気の現状並びに先行きに対する判断は据え置きとなっている。安倍政権は、2019年10月からの消費増税は予定通りに実施のスタンスを堅持しており、2019年7月の選挙は参議院議員通常選挙の単独実施で固まった。ただし、2019年6月3日の金融審議会の報告書を契機に「老後2000万円問題」がクローズアップされており、その後に実施された各メディアによる世論調査の結果からは内閣支持率や自民党支持率の低下が明らかとなっている。

 仮に「老後2000万円問題」が、消費者の間に老後資金への不安を喚起することで、貯蓄意欲を更に高める方向に作用することとなれば、2019年10月からの消費増税前の時点で節約姿勢を強める引き金となりかねない。加えて、2019年夏季ボーナス支給額の減少見通しも、経団連による調査をはじめとする各種報道等で出始めている。消費のダウンサイドリスクへの備えや対応の必要性も更に高まっていることは確かだ。


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