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リスクに対する態度は人によってどう違うのか!?
-不確実な時代のリスクタイプ分析と診断のススメ  
消費研究チーム

はじめに
 現在、「リスク」という言葉は、企業経営、環境問題、保険・金融など、多くの分野で用いられています。しかし、リスクとは具体的にどのような状態を意味するのでしょうか。日本リスク研究学会によれば、リスクとは「生命の安全や健康、資産や環境に、危険や傷害など望ましくない事象を発生させる確率、ないし期待損失」と定義されています。
 一般に、人々はリスクを避ける傾向があり、これを経済学では「危険回避的」といいます。例えば、金融市場に投資する場合を想定してみると、みな自分だけは損をしたくないと思っています。この危険回避的な投資家は、リスクに対して相応のプレミアムを要求します。つまり、損をするかもしれないのだから、期待されるリターン(収益)はそのリスクの程度を上乗せしてもらわないと割に合わない*1、というわけです。この期待収益率がプラスであれば「投資する」という選択が合理的になります。
 しかし、私たち人間は必ずしも合理的な期待形成をしているわけではありません*2。リスクの受け止め方は人によって違いますし、同じリスクであったとしても、危険と感じる人と絶好のチャンスだと思う人が存在し、その人たちの意思決定や行動は異なってくるはずです。今回、私たちは当社インターネットモニターへのアンケート調査を通じて、リスクに対する態度を表す指標として「リスクテイク度」を定義し、それによるタイプ分けを試みました。その結果、リスクテイク度の高低により、価値観や恋愛観、消費意欲や投資態度などに顕著な差がみられました。リスクに対する態度は、現代の消費者の行動に関連の深いサイコグラフィック変数であることが示唆されます。以下で、その例をご紹介します。

リスクに対する態度の測定
 D・コーエンによると、人間がとるリスクは、安全リスク・健康リスク・金融リスク・人間関係リスクなど、様々なリスクがあるとされます*3。車を運転するスピード、喫煙により咽頭がんの罹患率が上げること、株式市場で逆張りをして儲ける、といった行動には、論理的な関係はありません。しかし、行動の主体である個人の嗜好、リスクに対する心がまえという意味では関連がありそうです。そこで、多変量解析の分析結果から、様々なリスクのシーンを想定した16項目を選択し、各選択肢を数値化しています*4。そして、これら16項目の合計点を「リスクテイク度」と定義し、その得点分布によって五つにタイプ分けし、「リスクタイプ」としました(図表1)。最もリスクテイク度が高いタイプを「はじけタイプ(全体の3.3%)」、次いで「きりりタイプ」「まじめタイプ」「よいこタイプ」「がんこタイプ」とネーミングしました。

図表1.リスクテイク度の得点分布とリスクタイプ

 では、リスクテイク度が高いのはどのような人たちでしょうか。リスクテイク度が高い「はじけタイプ」「きりりタイプ」を合計した比率を基本属性別にみてみましょう(図表2)。性別年代別では「男性」、特に30代男性、職業別では収入の安定している「フルタイム」や「公務員、リスク態度と職業選択の関連が推察される「経営者・管理職」や「自由業・自営業」、そして収入別では「個人年収500万円以上」といった層で、リスクテイク度が高い人が多くなっています。平均的には男性よりも女性の方がリスク回避的であり、これは職業や収入による影響が考えられます。また男性の中でも、50代になるとリスクテイク度が高い人が少なくなっています。これは数年後に退職を控え定年後の生活を意識していることに加え、60年代の高度経済成長期に育った、世代の価値意識による影響があると考えられます。

図表2.リスクテイク度の高い層


リスクタイプによる行動のちがい
 先述のように定義した五つのタイプごとに、価値意識や行動のちがいをみてみます(図表3)。まず、上昇志向の価値意識として「社会的な地位や名声を得たい」についてみてみると、「はじけタイプ」で65%、「きりりタイプ」で52%とリスクテイク度が高いタイプで過半数です。一方、リスクテイク度が低い「よいこタイプ」「がんこタイプ」では20数%と、全体の41%を大きく下回ります。その他、リスクテイク度が高い人で多いのは、「国際的に活躍したい」「定職を持たずに自由に暮らしたい」といった価値意識があります。リスクテイク度が高い人は、上昇志向、グローバル志向が強く、束縛を嫌う傾向にあるといえます。また、「(好きな人ができたら)ストレートに告白する」でも同様の傾向がみられ、リスクテイク度が高い人は恋愛にも積極的だといえそうです。

図表3.価値意識、恋愛観のちがい

 では、投資態度の関連はどうでしょうか。株式や外貨預金などのリスク資産に対する関心度をみてみると(図表4)、リスク資産に「非常に関心がある」人は、リスクテイク度が最も高い「はじけタイプ」で47%、一方「がんこタイプ」ではわずか9%と「はじけタイプ」の5分の1ほどです。また、資産運用についての考え方でも、「はじけタイプ」は収益性を重視して積極的に運用する人が多くなっています。

図表4.投資態度のちがい

 以上では、リスクに対する態度からタイプ分けした「リスクタイプ」によって価値意識や投資態度は異なることをみました。右肩あがりだった時代は終わり方向性が読みにくい今の世の中では、消費者が自分の置かれた状況をどのように捉えて行動しているのかを理解し今後の行動を予測するために、リスクに対する態度はさらに重要になってくると考えられます。

リスクタイプ診断はこちらです。

(2005.1)
【注釈】
*1 期待収益率のうち、安全資産の収益率より高い部分をリスクに対するプレミアム(リスク・プレミアム)という。
*2 新古典派の経済学では、人間は自己利益(効用)の最大化を目的とした合理的な判断に基づいて行動する「合理的な経済人(ホモ・エコノミカス)」であると仮定している。近年、この仮定のもとでは説明できない現象を説明するため、「行動経済学」という分野が注目を集めている。これは、人間は完全に利己的ではなく名誉や愛情といった要素も行動に影響を与える(限定利己心)、また状況認識や意思決定の際には様々な簡便法を適用しており(限定合理性)、ホモ・エコノミカスにはほど遠い存在であるとしている。これらの前提は、既存の経済学でも否定されているわけではないが、ランダムに発生するものであるため、マクロで捉えた場合、その影響は相殺されるとしている。一方、行動経済学は、合理性からの乖離はシステマティックなものだとして、その仕組みを解明し、既存の経済学の枠組みは維持したまま理論を修正していくことを目標としている。これらの研究の焦点となっている対象に、「効用」を表す重要なパラメータである「時間的割引率」や「危険回避度」がある。今回の調査では、この「危険回避度」を捉えることを目的としている。
*3 D・コーエン(2001)『ブルの心理ベアの心理』、主婦の友社を参照。
*4 今回の調査では、「予定外の休日の過ごし方」「旅行の計画の立て方」などの様々なリスクのシーンを想定した20項目の質問について、想定されるリスクテイク度の高さに応じて各選択肢に1~4点の得点を与えた。そして因子分析・判別分析によって説明力の高い質問項目を16項目選択している。また、20項目の因子分析結果のスクリープロットから1軸が適当であり、D・コーエンの主張どおり様々なシーンにおけるリスク態度が相互に関連していることを示唆していた。

本稿は当社代表・松田久一からの貴重な助言のもとに執筆されました。ここに謝意を表します。あり得べき誤りは筆者の責に帰します。

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