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競争主導のポジショニングと差別化戦略 1
代表執筆 大場美子
 構 成

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1.問題の所在
 製造業の商品開発やコミュニケーションに携わるマーケティングセクションのスタッフは、担当の商品ブランドを競合ブランドに対して、ターゲットとする消費者にとってより優位な位置(消費者の認識する製品空間におけるポジション)にどう位置付けていくか、ということを考え、そのための具体的な施策を検討し実施展開していく。大概は競合ブランドに対して差別的なポジションを獲得することを目標にする。しかし実際には、デジタル家電や携帯電話など情報家電分野をはじめとして、トイレタリー、加工食品などさまざまな分野で、物的属性レベルにおける製品差別化の余地は小さくなっている。一方、情報による差別化の可能性は拡大しており 2、情報によって顧客の認識する商品ブランドのポジションは変更することができる。本論は、こうした状況下における製品差別化とポジショニングについて提案するのものである。
 マーケティングにおいては、製品差別化とポジショニングについて多くの議論が重ねられてきた。また差別化やポジショニングを議論する際の前提条件となる顧客の分布などの市場条件を記述する方法についてもさまざまな手法が開発されている。しかし、市場条件と製品差別化の関係、めざすべきブランドのポジションについては、充分な理論的根拠をもって論じられているわけではない。それにも関わらず、これまでの議論では、

(1)市場条件(需要の分布や競争条件)のいかんに関わらず、他者に対して同質化することは不利で、差別化すべきである。
(2)市場条件(需要の分布や競争条件)のいかんに関わらず、めざすべきブランドのポジションは消費者の選好回帰分析から得られる理想点または理想ベクトルに近づけることが望ましい。

ということが前提となっていた。  一方で、ミクロ経済学の産業組織論においても製品差別化の議論がなされており、近年、空間的競争モデルによる分析が進んでいる。産業組織論とマーケティングそれぞれの議論には、強みと弱みがある。端的にいうと、マーケティングでは、差別化すること、理想点に近づけることが大前提となり、競争の観点が弱い。一方、産業組織論の空間的競争モデル分析では、収益最大化を目的として、競争相手に対して同質化することも有効な答えであり、価格を入れた議論が可能である点が強みであるが、ポジション(立地)が何を指し示しどうしたらポジショニングできるのかはわからない、という弱みがある。
 この論文では、マーケティングのポジショニングの弱点を産業組織論のモデル分析を活用することによって補い、モデル分析の限界をマーケティングにおける分析ツールによって克服して、新しい方法論を提示しようという試みをしている。
(2004)

本論文執筆は、当社代表松田久一による貴重な助言や協力のもとに行われました。ここに謝意を表します。

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【附 注】
1 本稿は、大場美子、吉野太喜、菅野守らによる研究成果を大場が代表執筆したものである。
2 情報的プロモーションについては、松田久一「情報ディファレンスによる差別化-情報のマーケティング」(JMR生活総合研究所サイト2003)、他を参照のこと。


【主要参考文献】
松田久一(2003)「消費社会の戦略的マーケティング」JMR生活総合研究所
菅野守(2003)研修テキスト「戦略的マーケティングのためのミクロ経済学&産業組織論」
吉野太喜(2003)研修テキスト「産業組織緒論勉強会第2回テキスト-空間的競争モデル」
小田切宏之(2001)「新しい産業組織論」有斐閣
丸山雅祥、成生達彦(1997)「現代のミクロ経済学」創文社
片平秀貴(1987)「マーケティング・サイエンス」東大出版会
片平秀貴(1991)「新しい消費者分析」東大出版会
ピーター・R・ディクソン、ジェームス・L・ギンター(1987)「市場セグメンテーション、製品差別化、マーケティング戦略」抄訳JMR生活総合研究所報Vol1.1-2所収
ヘルマン・サイモン、ロバート・J・ドーラン(2002)「価格戦略論」ダイヤモンド社
フィリップ.コトラー(1996)「マーケティング・マネジメント」(第7版)プレジデント社
フィリップ.コトラー(2001)「マーケティング・マネジメント」(ミレニアム版)ピアソン・エディケーション
Barnali Gupta, Debashis Pal, Jyotirmoy Sarkar(1996) "Spatial Cournot competition and agglomeration in a model of location choice"Regional Science & Urban Economics 27 1997
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