日本経済を動かしている10,000人のビジネスリーダーのためのマーケティングサイト

English
Chinese

HOME > 企業戦略事例集 > 戦略ケース > 戦略ケース(2008年) > 戦略ケース 値上げか値下げか-消費低迷下の価格戦略(2008年)

会員ログイン
メンバーシップ
レポート会員
無料メールマガジン
無料

最新コンテンツの
情報ご案内メール

ご登録はこちら

マーケティングのスキルアップを支援

年会費10000円でフリーダウンロード 会員登録
J-marketing.net main menu
その他サービスのご案内

リサーチのご案内
(リクルート/
 ネット調査など)

研修パッケージ
(「実務的戦略家」を
 育てます)

出版物のご案内
(独自企画レポートを
 ネットで)

Eye-Tracking Solutions
(見えないニーズを
 捉える手法)

マーケティングモニター

あなたの意見が商品やサービス開発に活かされる

値上げか値下げか-消費低迷下の価格戦略
本稿は、「週刊エコノミスト2008年9月30日号」掲載記事のオリジナル原稿です。
舩木龍三 大澤博一
1.値上げで消費者の消費行動はどう変わったか
消費者物価指数の前年同月比伸び率の時系列推移
消費支出の対前年同月実質増減率の時系列推移
 食パン、カップ麺、マヨネーズなど数多くの商品の値上げが続いている。この結果、消費者物価指数は07年9月から上昇し続け、08年6月で総合物価指数で前年同月比約102%、食料品については103%を越え、10年ぶりの高い伸び率になっている。
 こうした値上げによる影響で消費者の消費マインドが急速に冷え込んでいる。当社の7月調査では、現在の日本の景気について89%が良くないと感じていることが分かった。昨年の同時期の調査では49%であり、この1年で急速に消費者のマインドが冷え込んでいることがうかがえる。その結果、消費支出も08年2月から対前年マイナスに転じている。
 こうしたなかで、消費者の購買行動はどのように変わっているのだろうか。先の調査結果では、食パンやカレールー、マヨネーズなどの食品や洗剤やティッシュペーパーなどの日用品の購入数量と購入頻度は1年前と比べ、変わらない人が約70%であった。結果、食品、日用品の支出金額は40%の人が増えていると答えている。現状は、日常生活に必要な商品について、購入数量と頻度は変えることができず、値上げした分が支出増加となっている。生活必需品の消費支出は減らすことができず、選択的支出を減らすことで消費支出を節約していると捉えることができる。今後の意向ベースでは、購入頻度、数量とも減らしたい人が増加させたい人を20%程度上回り、家計全体の支出も減らしたい人が41%に達している。節約行動は今後、生活必需品にまで拡がっていく可能性が高い。
 これに加え、リーマン・ブラザーズの経営破綻などアメリカの金融危機は、日本経済に大きな影響を与えることは間違いない。日本経済の景気回復は、消費が下支えするしかない状況下で小売業はいち早く対応を始めた。ここでは、小売業の動向とその真意を探り、今後の成否の鍵を考察してみる。

2.小売業の対応-DS業態の再登場
 昨年秋以降の値上げラッシュのなかで、対応方針を明確に打ち出す企業が増えてきている。その方向は大きくふたつに分かれている。ひとつは、PBの強化とディスカウントストアなどの新業態化を進める低価格対応である。代表的な企業は、イトーヨーカ堂やイオンである。もうひとつは、値上げを受け入れ、価格とは異なる軸で差別化を図る方向である。代表的な企業がヤオコーである。
 セブン&アイは、8月29日に東京都足立区のイトーヨーカ堂西新井店を閉鎖、業態転換を図り、ディスカウントストア業態の「ザ・プライス」1号店としてオープンした。「ザ・プライス」は生鮮食品を中心に食品、衣料品、住関連商品を扱う。既存のイトーヨーカ堂と比べて、価格を約1~3割程度低く設定している。オープン初日は午前9時の開店前に約700人が行列したと言われ、この店舗がうまくいけば、首都圏での多店舗展開を視野に入れている。
 「ザ・プライス」はイトーヨーカ堂とは異なるオペレーションで販売管理費を低くし、利益が出来る体質づくりを試みている。ポイントは四つあげられる。ひとつは、品揃え巾を大きく絞り込んだことである。旧ヨーカ堂西新井店の3万2,000アイテムから約半分に絞っている。品揃えはトップシェア以外の商品が多く、ヨーカ堂で取り扱っていない商品が約4,000アイテムほど導入されている。シェア3~4位の商品を扱い、低価格化を実現するというDS業態特有のオペレーションが導入されている。一方で、セブン&アイグループのPB「セブンプレミアム」は扱っていない。高品質・低価格のイメージづくりを進める「セブンプレミアム」の価値を維持するためである。「ザ・プライス」は既存のヨーカ堂とは一線を画している。別の見方をすれば、実験展開である「ザ・プライス」が失敗しても、セブン&アイへの影響を最低限に抑えるようにしている。
 ふたつめは、ウォルマートやカルフールが展開する、同じ商品が常に安いEDLP型の価格政策ではなく、メーカーと期間限定の取り組みで低価格を打ち出していく、ハイロー型の価格政策を採っていることである。これを実現するためにトップシェア商品ではなく、3~4位商品を中心に品揃えしている。三つめは、ケースごとの陳列や段ボールをそのまま積み上げて、品出し作業などの店舗内作業の効率化、大幅な人件費の削減を図っていることである。旧西新井店時には22人いた正社員を13名に減らし、パートはそのまま継続雇用して82名、合計95名体制にしている。最後が販促の工夫である。既存のヨーカ堂店舗では通常週3回チラシを配布しているが、「ザ・プライス」では週1回、さらにチラシに使う紙質も落としているという。陳列棚の両端にある「エンド」展開もヨーカ堂と異なる。ヨーカ堂では関連商品や旬の商品をテーマ性を持たせて陳列する提案型のエンド売場展開を進めているが、「ザ・プライス」は目玉商品を単品大量陳列する方法である。NBのブランド力を活用して、「良く知っている商品がこんな値段で買える」ことを訴求し、PBがなくともお得感を醸成しようとしている。こうして販売管理費を約30%削減し、DS業態で利益が出る目安である販管費率10%台を目指している。売上目標は旧西新井店よりも10億円上乗せした40億円に設定、ヨーカ堂が進めている高品質・サービス重視型の展開とは全く逆の「価格」のみを追求した店づくりである。
 「ザ・プライス」の狙いはふたつある。ひとつは消費者の節約志向に対応することである。ヨーカ堂では、「同じ商圏内にあるアリオ西新井店が生活提案型なら、ザ・プライスは生活応援型の店舗」と説明している。もうひとつの狙いは店舗間の棲み分けである。07年に旧西新井店のすぐ近くに大型ショッピングセンター「アリオ西新井店」をオープンさせた。これによって旧西新井店とアリオ西新井店とで自社内競合が起こった。首都圏を中心にドミナント出店を行っているヨーカ堂ではこうした自社内競合を回避するためにGMS業態のヨーカ堂とアリオを中心とするSC業態、ザ・プライスのDS業態の3業態で自社内競合を避け、今後競合が一段と厳しくなる首都圏での基盤強化を図っていくと考えられる。
 イオンも9月下旬に練馬区平和台駅前にDS型の食品スーパーを開業する。売場面積は300平方メートルで既存の食品スーパーの1/3程度の売場面積である。品揃えはイオンのPB「トップバリュー」を中心に品揃えし、1,300~1,500アイテムに絞り込む。総菜も扱うが店内調理をせず陳列などの店内作業もザ・プライスと同様に簡素化して販売管理費を抑制する。
 2社の違いは「低価格化」の仕方である。イオンはPBを活用したEDLPによる低価格化を実現するのに対し、ザ・プライスはNBを活用してハイロー型の低価格化である。ウォルマートやカルフールなどの欧米型の食品DS業態を展開するイオンと日本型の食品DS業態を目指すヨーカ堂の違いともいえる。日本ではウォルマート子会社となった西友が苦戦しているようにEDLP型の価格政策よりも、チラシなどによる期間限定の特売の方が受け入れられるとヨーカ堂は捉えていると思われる。

3.価格に頼らない店づくり
 一方で、メーカーの値上げをいち早く受け入れ、低価格化とは別路線で成長している小売企業がある。その代表例が埼玉を中心に展開する食品スーパー、ヤオコーである。同社の07年度売上高は1,853億円、売上成長率は8.6%となり、単体で19期連続増収増益を達成している。同社の戦略は、価格以外で集客できる店づくりを実現するために、ミールソリューション(総菜などを中心にお客様の食生活にキメ細かく対応して、お客様の食生活全体での提案を行うこと)対応型SMのトップ企業になるというものである。重点的な取組みは三つある。ひとつは、独自商品の開発・育成である。PBを拡大するのではなく、おいしい総菜づくり、地場商品の発掘、顧客に対応したカット野菜の充実、食品価格高騰に対しては生鮮、総菜の適量化も進めている。ふたつめは、全員参加の個店経営である。地域のニーズが分かるのは本部ではなく現場の店の人達という意識のもと、パートも含めた全員参加、チームで仕事の業務改革を実施している。日々の売場づくりはチーム全員で行い、催事の重点商品は本部が提示するが、その売り方は各店が決定し、数量や売る場所はチーム全員で決めていく。これによって、その地域に適合した店づくりを実現することができている。
 三つめは時間帯MDである。総菜などは時間帯別に売れるものが異なる。昼は軽めの総菜が売れ、夜はメインディッシュになるものが売れる。これに合わせて、主体的に品揃えを変えていく。1日の中で変化する自店へのニーズを、現場が自主的に吸い上げ、対応して仕組みである。お客様のニーズにきめ細かく対応すれば、価格以外の要素で顧客支持を得られることをヤオコーの戦略は物語っている。
 こうした企業はヤオコーだけではない。サミットは「商売人力」の向上に注力している。「商売人力」とは安全・安心のものを極力安定的に提供し、仕入れたものに付加価値を付けて売り切る力のことで、小売業の基本に回帰しようというものである。このため地場野菜の品揃えを拡大し、契約農家との取引を見直している。現在、各社が力を入れているPBもサミットは昨年止めた。価値あるNBをしっかり売っていくことが重要であると捉えているからである。

ザ・プライスとヤオコーの店舗比較


4.消費者の再選択にどう対応するのか
 「ザ・プライス」などDS業態の成否の鍵はふたつある。ひとつはオペレーションの問題であり、もうひとつは消費者の購買ニーズをどう捉えるかである。
 「ザ・プライス」は今回が初めての試みではない。セブン&アイは1983年に赤羽に「ザ・プライス」をオープンし、レジャーや住居専門用品のみの品揃えの川崎の溝ノ口店など数店舗を展開したが失敗している。DS業態であるダイクマも保有していたが、ヤマダ電機に売却している。今回の「ザ・プライス」は来店頻度が高い食料品を扱うことで、以前よりも成功する可能性が高い。
 第一の課題は、DS業態は販売管理費10%台を維持できなければ成功しないというハードルをクリアできるかである。ヨーカ堂の販管費は20%台であり、生鮮食品などロスが大きな商品を扱いながら、販管費を10ポイント引き下げることができるのかがポイントになる。80年代、90年代にGMS各社はDS業態を模索していた。ダイエーのハイパーマートやDマート、イオンのメガマートなどである。しかし、DS業態のローコストオペレーションが確立できなかったことによって、赤字店が増え、閉店を余儀なくされた経緯がある。
 第二の課題は消費者の購買行動、ニーズを捉えられるかである。節約志向をどう読むかで対応が異なる。単なる価格重視と判断するならば食品DS業態になり、価格だけではないと判断するならばヤオコーのような価格に頼らない差別化の方向が考えられる。JMR生活総合研究所の調査では、値段よりも品質を重視する人が約50%存在している。このことは、消費者を単純に節約志向と捉えるのではなく、価格と品質のバランスを判断し、これまで買っていた商品を「選び直し」していると考えた方が賢明である。選び直しとは、「単なる安さには飛びつかない」、「価格と品質のバランスを見て、品質を重視する」、「自分の生活に必要なものを選び直し、不必要なものには手を出さない」というものであり、消費者の選択眼はより厳しくなっている。
 「再選択」の時代、単なる安さは通じない。価格は売り手と買い手をつなぐ信頼形成の鍵を握っている。安ければよい、ほどほどの価格であれば良いというものではない。信頼できる価格形成、品質やサービスと価格バランスが納得できるものであれば、DSでも価格に頼らない小売業でも成功する。価格形成をできた企業のみが、厳しく再選択する消費者の支持を得ることができる。


本論文執筆は、当社代表松田久一による貴重な助言や協力のもとに行われました。ここに謝意を表します。
(2008.09)

このコンテンツに関するキーワードと関連コンテンツ

イオン 

イトーヨーカ堂 

ディスカウント店 

ヤオコー 

EDLP 

「嫌消費」世代の研究 ご案内
「買わない」理由、「買われる」方法 ご案内
消費社会白書 2012 ご案内

| JMRについて | サイトマップ | お問い合わせ | 個人情報保護方針 | 著作権について | 辛口性格診断 | リスクタイプ診断 |

JMR生活総合研究所マーケティングサイトに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します。
著作権はJMR生活総合研究所に属します。

Copyright (C) 1997-2012 Japan Consumer Marketing Research Institute. All rights reserved.