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中国で急拡大する「婚活」プラットフォームビジネス
~未婚人口の増加により、「独身」を狙う市場が拡大
楊 亮
 11月11日は、日本では普通の一日だが、中国の若者にとってクリスマス、バレンタインデー並みの大変なお祭り騒ぎであった。この日は、中国で「光棍節」(独身の日)と呼ばれている。その由来は1990年代、南京大学のキャンパスで、数字の「1」にちなんで、「シングルデー」という冗談からイベントが企画されたことがきっかけであった。その後、このイベントはネットを介して若者の間にすぐ広がっていった。毎年「11.11」は、若者をメインターゲットするeコマース業界の年間最大のイベントとして注目されるようになった。

アリババ「11.11」セールの総取引額

2013年Tmallの「11.11」バナー広告

図表1.2009-2013年「11.11」における
アリババの売上推移
図表2.2013年「11.11」セール
TMall 日販額トップ10店舗
 中国最大のeコマースサイト「TMall(B2C)」と「Taobao(C2C)」を運営するアリババは、2009年から「11.11」に、1日限りのバーゲンセールを始めた。同社の公表した販売実績によると、2009年の売上16億円(1億元)から2013年5,600億円(350億元)と5年間で350倍と急速に伸びた(図表1)。5,600億円というのは、中国全国の平均一日あたり小売総額の半分に相当する規模である。

 また同社によると、2013年の「11.11」セールで、もっとも売れた商品は、「女性衣料品」、「携帯電話」および「スキンケア商品」である。若者の間で強く支持されている国産携帯メーカー「小米」と国産家電メーカー「ハイアール」はTMallにおける売上でトップ2位を占めた(表2)。特に「小米」については、携帯の生産台数が需要に追いつかないため、普段の販売はネット予約のみである。しかし、「11.11」のセールでは、予約なしで購入が可能なため、ハイスペックの携帯を安く望む若い人には絶好のチャンスである。この日「小米」の販売実績は約34万台であった。このように、eコマースが若い人の間で支持される理由は、低価格というメリットにある。
 中国では都市化が進んでいるが、2025年まで約4-5億の農村人口が都市部に流入すると言われている。彼らの多くは低・中間層の所得者である。こうした低価格志向の消費者を取り込む「小米」のような戦略は、今後の中国市場におけるひとつの成功モデルになる可能性がある。

 独身者向け市場にはこのように爆発的な潜在消費能力がある。その背景として、現在中国では未婚の若い人口が非常に多いことがある。中国国家人口計画生育委員会と中国最大の結婚・出会い系の会社「世紀佳縁ネット」は毎年共同で「結婚・恋愛調査レポート」を発表している。2013年のレポートによると、中国の18歳以上の非婚人口は2.49億人で、全国人口の18.6%を占めている。また、都市部における18歳以上非婚人口は1.32億人で、都市部人口の19.8%を占めている。日本でも「生涯未婚の男性、2割を突破」というニュースが話題になるように、2010年の国勢調査によると、18歳以上の未婚人口は、20.4%である。日本と同様に、中国でも晩婚化、未婚化が進んでいることがうかがえる。

 eコマース企業が独身消費者をターゲットにしていると同時に、中国で「脱非婚」者を手伝う婚活業界は、近年著しい成長をみせている。中国電子商取引研究センターによると、現在中国で婚活ウェブサイトを運営している会社は約50社で、2012年の営業収入は、200億円(12.3億元)。2014年には約320億円にまで拡大すると予測している。安定的な成長を認められ、前述した中国最大の婚活サイトを運営する「世紀佳縁」は2011年5月にアメリカナスダックで上場を果たすほどである。

 ここで事例として、ある中国婚活会社の経営モデルを紹介する。鄧達氏は2007年に「我主良縁」(「縁を自分で捕まえる」という意味)という結婚紹介所を立ち上げた。会員数の拡大によって、会員費が安定的な収入源になり、当初の赤字経営から最近では前年比売上70%-80%増の成長期に入った。そして、現在では、福州以外に、青島、長沙、アモイ、済南に直営支社を出すほどまでに拡大している。今後は、鄭州、杭州、武漢などへの進出も計画している。更に、鄧達氏は、自社の結婚紹介所をプラットフォームとして、ウェディング市場に関わるサービスや情報を提供し、発信していきたいという考えから、積極的に異業種とのタイアップを推進している。例えば、翡翠商の陳豪氏と協力し、中国人が好む翡翠(ひすい)を使って、婚活サイトに婚約ギフトコーナーを開設した。翡翠を選択した理由は、投資価値があるためで、将来二人の家庭生活に向かって、初めて一緒に投資してもらいたいという狙いからである。更に、鄧達氏は新婚旅行のニーズに応じて、旅行代理店との協力関係を積極的に構築しようととしている。

 紹介所やサイトを通じて知り合った男女の付き合いがうまくいけば、人生の中において大事なイベントのひとつである「結婚」を迎える。特に家族や伝統を重んじる中国では、結婚式が重要であるという考えをもつ人は多い。国家民政局の統計によると、2011年の結婚当日における消費総額は4兆8,000億円(3,000億元)で、2013年には9兆円にまで成長すると予測している。ウェディング市場も従来のドレス、写真、宴会、ギフト、旅行など伝統的な産業から家電、寝具用品、リフォームなどまで拡大している。

 中国最後のベビーブーマー(中国の「一人っ子政策」が導入されたのは1979年だが、全国に実施されるようになったのは82年から)がこれから結婚適齢期に入るため、今後数年間、中国のウェディング産業は安定的な成長を維持することが見込まれる。ウェディング業界では、サービスの品質重視という消費者ニーズから、企業の競争が激しくなり、市場シェアを伸ばしていくために、資本金のある企業が、規模や進出エリアなどを拡大させ、ブランド力を強化していくと考えられる。毎年約1,000万カップルが誕生する中国社会において、規模の小さい零細企業が生き残るためには、多元化・個性化などニッチな市場ニーズに対して、創意・工夫で勝つしかない。

(2013.12)





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