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経済の減速で、転換期を迎える中国小売業界
楊 亮
 中国連鎖(チェーン)経営企業協会が発表している2012年の中国チェーン企業トップ100社についてみてみる。トップ3の蘇寧雲商、百聯集団、国美電器は、売上規模が1,000億元を超えている(図表1)。その中で蘇寧雲商が2年ぶりにトップに返り咲いた。家電量販がトップ3に2社ランクインしているように、中国における家電市場の成長具合がうかがえる。

図表1.中国チェーン企業小売トップ10社
出所:中国連鎖経営協会HP


高度成長期から安定成長期に入る中国チェーン企業
 2012年のチェーン企業上位100社の売上規模は、対前年比で10.8%増加し、1.87兆元に達した。にもかかわらず、2年連続で社会消費財小売総額の成長率(14.2%増)を下回った。トップ100社の売上規模は、全体の9.3%を占めているが、2011年の11.0%より低下している。また、店舗数の伸び率は8.0%増で、統計が始まって以来、もっとも低い数値であった。トップ3社の店舗数は前年比ですべてマイナスになっていることからも、中国の小売市場は上位集中度が低下していることが確認できる。
 2000年からのチェーン企業トップ100社の年平均伸び率は25%を記録してきた。しかしこの2年間はチャネルの多様化、および消費者の消費習慣の変化の影響を受けて、成長率は明らかに緩やかなものに変わってきた。特に家電産業に関しては、中国政府は2007年12月から一連の家電購入補助策の実施の恩恵を受けてきた。農村の家電普及を後押しする「家電下郷」や、省エネ家電の購入補助などの政策によって市場は急速に拡大したが、反面早くも飽和状態になったとも考えられる。2013年に入ってから、これらの政策が次第に打ち切られたことで、家電量販をはじめとする中国チェーン企業も高度成長期を経て、これから安定成長期に突入していくと予測できる。

外資系企業の動き
 トップ100の内に外資系企業が20社もランクインしている。20社の売上の伸び率は11.3%増で、全体の10.8%増をやや上回った。トップ3は、台湾系企業大潤発(725億元/前年比17.7%増)、米ウォルマート(580億元/同3.6%増)、仏カルフール(453億元/同0.2%増)であった(図表2)。
 日本企業では、イオンとイトーヨーカドーの2社がランクインしているが、まだまだその売上規模と店舗数は小さい。中国との国家関係は不安定ながらも日本の国内市場の飽和と中国市場の規模と成長性からも中国進出は今後の欠かせない成長エンジンでもある。

図表2.中国チェーン企業トップ100社における、外資系小売トップ10と日本の小売業


ネット販売を展開する企業の増加
 ここ数年、新興のネット販売が、既存の小売業に対して大きな影響を与えている。販売商品も最初の書籍、映像、音楽関係から、家電、デジタル商品、衣食住などを網羅している。こうしてネット販売の市場シェアは年々拡大している。
 2012年トップ100社の中で、ネット販売を展開しているのは62社。2011年より6社増加した。この62社のうち、ネット販売規模が1億元を突破した企業は9社ある。近年ではネット通販企業も急速に成長しており、今後は既存の小売業との激しい需要獲得競争になっていくことが予想される。

今後の課題:人件費、店舗賃貸料の上昇下における利益の確保
 こうした中、2012年トップ100社のうち、前年比5%未満の利益増にとどまった会社は約半分の50社で、マイナスや赤字になった会社も例年より多くなっている。企業の減益の要因として、人件費や店舗賃貸料の上昇が最も大きいと考えられる。人件費および店舗賃貸料の上昇率は、トップ100社で平均15%以上に及ぶ。
 中国共産党第18回全国代表大会が発表した「収入倍増計画」および「国家就業促進計画」の中では、「2011-2015年の間に、最低賃金は毎年13%以上増加」と定められている。そして、2002年から2005年までの間は、中国小売市場が全面的に開放された時期で、この期間に出店した企業は10年間の賃貸契約を結んでいることが多く、今後2年間でそれらの店は賃貸契約の更新を迎える。企業にとって、コスト削減による利益維持は大きな課題である。

 依然としてそのポテンシャルの大きさから魅力的な中国市場であるが、経済の減速をはじめ、出店関連の法規制やそれに伴うコスト負担の増加など小売業を取り巻く環境は厳しくなっている。2012年の上位企業の売上と出店状況をみても、企業や業態間の格差がうかがえる。拡大が続くのか、また再編淘汰に向かうのか、中国の小売市場は大きな転換点を迎えている。

(2013.10)







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