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中国ビール市場の新動向
M&A 外資が中国事業強化する新しい手法
楊 亮
 1980年代頃、世界中の多くの大手ビールメーカーが中国市場に進出した。当時は高価な外国ビールに対する需要が少なく、消費者が大都市の富裕層に限られたため、多くの外資メーカーは巨額の損失を抱えて撤退を余儀なくされた。しかし、近年、中国人の平均所得の増加、生活レベルの向上に伴って、2003年には中国のビールの生産量、消費量はともにアメリカを抜き、実質世界第1位になった。それに伴い、外資ビールメーカーが、中国市場へ再度参入している。前回参入時とは異なり、中国国産ビールメーカーを買収、資本参加という形態を通じて、中国市場での事業強化を目指している。

 中国ビール市場において、国産メーカーは400~600社あると言われている。青島、燕京、華潤は国内の主力メーカーだが、それぞれのマーケットシェアは低い。国産メーカーのトップである青島ビールでも、毎年若干シェアを伸ばているもののそのシェアは15%に満たない。このような混戦が続いている国産メーカーの中で、外国メーカーは、自社ブランドを持ち、国内で生産販売規模がある国産メーカーを買収または資本参加という形態を通じて、中国市場での拡大を加速させている。表1はその動きが集中した2004年の外資系ビールメーカーによって行われた大型資本提携の案件である。

表1.2004年中国ビール業界のM&A・資本提携案件


 このように中国ビール業界においてM&A・資本提携が活発化しているなか、2006年1月にインターブルー社は福建省最大のビールメーカーである雪津ビールを約860億円(6.14億ユーロ)という破格の値段で買収したと発表した。今回の買収を通じて、インターブルー社は、中国8省で30ビール工場を持ち、年間生産量が350万トンに達した。12%の市場シェアで青島に次ぎ、中国ビールメーカーの中で第2位となった。中国市場の多様性に対応するために、インターブルー社は、中国全土で自社のブランドを販売するより、それぞれ資本提携先の地方ブランドによって、まず地域ごとにトップシェアを獲得する戦略を採っている。現在インターブルー社は浙江省、広東省、湖北省、湖南省で1位、江蘇省で2位のシェアを占めている。

 日本メーカーの中では、特にキリンの動きが活発である。2004年12月に、38.7億円で「大連大雪ビール」に25%資本参加を発表した。「大連大雪ビール」は遼寧省で生産量2位、大連では1位の国内優良ビール会社である。この資本参加により、キリングループが出資する中国のビール生産拠点は6ヶ所目となった。提携を通じて、2006年度はキリンブランド商品の製造・販売も行う予定である。更に2005年1月に、上海に100%出資の持ち株会社「キリン(中国)投資有限公司」を設立した。投資金額は3500万ドルである。新会社は、中国国内でビールの重要地域と位置付けている東北三省(遼寧省・吉林省・黒龍江省)、上海を中心とする長江デルタ地域及び広東省を中心とする珠江デルタでの業務を統括し、地域特性にあった事業展開を目指している。

 資本提携により現地企業の営業ノウハウを活用する事例はビール業界だけではなく、他の業界にも見られる。例えば、中国携帯市場で15%を占めているモトローラは、昨年12月から国内携帯メーカーTCLと一部業務提携を結び、TCLが持っている販売店と販売員を利用し、自社携帯製品を販売している。96年現地食品会社「娃哈哈」に資本参加したフランス大手食品メーカー、ダノン社は、過半数の株を取得したものの、引き続き「娃哈哈」の現地経営陣に経営を委ねる方式を取っている。「娃哈哈」の急速な伸びと全国をカバーする販売網を活用したことにより、ダノン社の中国事業はこれまでの累積赤字から黒字に転じている。

 いま中国に進出した多くの日系企業は、中国消費者・流通市場の異質性のために市場拡大に苦戦している。ここで、現地企業の買収あるいは資本参加という形態を通じて、現地企業の強みである流通ネットワークを利用することによって、自社ブランドの強化、市場拡大という効果も期待できる。



(2006.03)

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