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EC市場トップの座を巡るeBayとアリババの競争       
楊 亮
 中国のインターネット利用者数は1999年のわずか890万人から2004年末には9,400万人に達した。新規加入者は年間平均1,700万人のペースで急増している。ネット上で展開する新しいビジネスモデルとして、eコマースは運営コストが低く、しかも地域の限定なく幅広い消費者をカバーできるという利点を活かして、中国での利用者数は2004年以降、400万人から2,000万人まで爆発的に増えた。そして、今中国のeコマース市場トップの座を巡って、急成長中の中国本土企業アリババと世界のオークションサイト最大手 eBay が激しいバトルを繰り広げている。

eBayの中国進出
 2001年夏のある日の上海。アメリカeBayのCEOメグ・ウィットマンは初めて「易趣」の創立者と会った。「易趣」は、アメリカハーバード大学を卒業した31歳の上海青年二人によって1999年に設立されたeコマースサイトである。その経営手法とビジネスモデルはアメリカeBayと似ていた。その日ホテルに帰るタクシーの中で、ウィットマンは同行したeBayの国際部門の副CEOにこう言った。「いま私たちは中国市場に出るべき。」と。

 翌年、eBayは1.8億ドルで「易趣」の全株を買収し、市場の開拓者として中国に進出した。この決断に対して、2003年ウィットマンはこう顧みた。「2001年はまだ早かった。当時中国でeコマースの市場は殆ど存在しなかった。私は将来に賭けたのだ。」と。 eBay が「市場の開拓者」にこだわるもうひとつの理由がある。1999年、eBayはアメリカにおけるネットワークが故障し、技術的問題で当初の予定を変更したために、日本C2C市場への進出がヤフーに5ヶ月遅れた。その遅れがきっかけとなり、ヤフーに敗れ、結局2002年に日本から撤退することとなったのだ。世界第二の規模を持つeコマース市場を失った苦い経験から、同じ過ちを中国では絶対避けたいと考えた。中国へ進出したeBayは、世界オークションサイトの最大手という実力と経験を発揮し、中国でのユーザーは急速に伸び、2005年9月には1,510 万人に達した。2004年のオークション売買金額も2003年の10.7億元から34億元へと3倍以上に増加した。

強敵の出現
 中国で順調な成長を遂げているeBayにとって、2003年に思わぬ強敵が現れた。それは中国最大のB2Bオンライン商取引サイトであるアリババが開設したオークションサイト「淘宝網」(タオパオワン、宝物を探すという意味)である。「淘宝網」はサービスを無料で提供し、当初から有料サービスを提供するeBayのもつ大きな市場シェアと真っ向から対決する形となる。
 欧米市場の商慣習に詳しいeBayと比較して、アリババはより中国ローカル化の市場戦略をとっている。
  1. オークションサイトは中国で未成熟のため、有料制はユーザーの拡大と市場の成長を阻むという認識から、いままでに4.5億元を投資して、サービスを無料で提供している。
  2. また、中国主要ポータルサイトと独占契約を結び、ネット上で競合他社へのアクセスを最低限に抑えようとするeBayの手段に対して、アリババはバス、地下鉄などの公共交通手段、テレビなどの大衆媒体を通して、宣伝を展開している。
  3. 更に、サプライヤーとバイヤー間のコミュニケーションを促進するために、オークションサイトにIM(インスタントメッセージ)の機能を加えた。
  4. 最後に、サプライヤーの連絡方法が公開できるように設定し、オンラインだけではなく、オフラインでの取引も促進している。
 このようにアリババは中国人消費者の心理を利用し、「淘宝網」は凄まじいスピードでeBayに追いついた(表1参照)。
表1.アリババ VS eBay中国

 最新データによると、「淘宝網」サイト内に設置されているショップは10万店にのぼり、オンライン商品数は1,079万件を突破した。

新たなパートナー
 業績が順調に伸びているアリババにとって、更なる規模拡大に検索エンジンの業務を広げることが不可欠である。戦略パートナーとして選ばれたのはヤフー中国である。

 米ヤフーは99年中国進出を果たしたものの、ポータルサイトでは中国人が経営している新浪網、Sohu、Neteaseに次ぎ、第4位、検索エンジンでは百度、Google中国などに大きく水をあけられ、中国ドメインビジネス最大手の北京三七二一科学技術有限公司(以下3721)を買収することで何とか4位を保ってはいるが、苦戦を続けている。ヤフーにとっては市場シェアを拡大するために、強力なパートナーとの提携は急務であった。

 アリババとヤフー中国両社の思惑は一致した。その相乗効果を狙って、今年8月にアリババはヤフー中国の買収に踏み出した。アリババは自社株40%を米ヤフーに譲渡する代わりに、現金10億ドルの投資を受け、ヤフー中国の全資産を獲得した。アリババが獲得したヤフー中国の資産には、中国におけるヤフー中国というブランドの無期限の使用権、ポータルサイト、検索サービス、IM(インスタント・メッセージ)サービス、広告サービス、3721サイトなどが含まれる。

競争の熾烈化
 米ヤフーから10億ドル(約80億元)の投資を受けて、10月20日、アリババは「淘宝網」ユーザーへの無料サービス期間を2008年まで3年間延長し、同サイトへの10億元の増資決定を発表した。これに対して、eBayはサービスの無料化は必ずしもサプライヤー及びバイヤーにとってよい方法とは限らず、アリババのやり方はマーケット全体の秩序を乱すものだと反論している。両者の間に一進一退の状況が続いている。

 今年eBayはシステムの強化を図るために、中国市場に1億ドルの追加投資を決め、欧米で既に使用されているオンライン送金システムPayPal(ペイポル)を導入した。今後eコマース市場のコミュニケーション機能を強化する一環として、26億ドルでSkype社(スカイプ、P2P技術を利用したIP電話ソフトウエアを開発した会社)を買収した。一方、ユーザー向けのサービスとして「eBay大学」を開設し、大手サプライヤーに対して、2ヶ月ごとに指導を行っている。
表2.サイトのサービス内容比較

 現在、中国オークションサイトの利用者は中国ネットユーザーの10%以下で、市場の開拓余地はまだ大きいと思われる。現段階でアリババにリードされているeBayだが、世界最大手として情報、物流、資本面においてまだ本当の実力を発揮していない。一方、周知のように、資本と経験だけで成功できるとは限らないということが中国市場の特徴でもある。21世紀中国eコマーストップの座をめぐる競争はいま始まったばかりと言える。

(2005.12)

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