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北京のフードコートにみる市民生活変化
-中国ICカード普及事情
楊 亮
1.王府井のフードコートにて
 7月上旬の北京市内繁華街の王府井(ワンフーチン)。夕暮れとともに、ショッピングや観光に疲れた人々はその周辺のレストランに入っていく。出張で久しぶりに北京に帰った私は、デパートのレストラン街の看板を見て階段を降りた。入ってみたらフードコートだった。中は中華から、韓国風の鍋料理、日本のタコ焼きまでブースがズラリ並んでいる。私は餃子を頼んで、財布からお金を出そうとしたら、店員に「現金はだめ、ICカードで払ってください」と言われた。新しいシステムにちょっと戸惑いながらフードコートの隅で100元のICカードを購入した。金額が足りなくなったらチャージも可能。また、使い切れなかった場合はその場で現金に戻すこともできる。その後、一枚のICカードを持って、料理を調達して歩き回った。それにしてもICカードの処理能力の速さに感心したというより、むしろ日本企業が生み出した基礎技術がこんなに速く一般の北京市民の生活に浸透したスピードに驚かされた。

2.急速に普及が進む中国ICカード
 今、中国では通信、交通、金融、社会保険等、様々な生活場面においてICカードが使われている。2001年の実績では、ICカードの生産量は3.8億枚で、新規発行数が3.2億枚。それぞれ対前年比26%、40%の増加となった。この年、全国的に新たに200万台のIC電話を設置したため、発行したICカードのうち、公衆電話用のICカードが多く1.7億枚、携帯電話SIMカード(Subscriber Identify Module:加入者識別モジュール)が5,500万枚、社会年金カードが1,400万枚、交通・運輸分野が320万枚になっている。特に、この中で社会年金・医療はICカードの新しい応用分野として企業に注目されている。IT企業にとって新規参入のチャンスでもあるため、市場での激しい競争は必至と考えられる。

3.国家施策「ゴールド・カードプロジェクト」
 ICカードが中国社会で急速な発展を遂げた背後には政府の役割が大きい。1993年、中国政府は「ゴールド・カードプロジェクト」を打ち出した。ゴールド・カードプロジェクトとは、地域やシステムに関わらず、コンピュータや通信などハイテク技術を利用することによって貨幣を流通させる金融電子化の国家プロジェクトを意味する。これを実現するために、ICカードの発展が欠かせない。ICカードは用途の広がりによって、今後3~5年の間に中国で本格的に普及し、その市場規模は予測では25億枚にものぼると推計されている。需要分野別に見ると、個人身分証明IDカード8~13億枚、電話カード8~10億枚、年金カード2億枚、銀行カード1億枚、企業IDカード6千万枚(工業商業管理局で登録した会社を対象に配布、企業情報等の検索機能搭載)、その他6億枚という構成である。従って、ICカード用チップに対する需要も高い。中国は2005年中に国産のチップ生産割合を現在の28%から50%まで引き上げるという目標も設定している。

4.国内外企業の市場を巡る攻防
 中国国内におけるICカード生産はまだモジュールの生産段階にあり、技術に対する要求が低い電話ICカードを中心としている。ICカードのビジネスは莫大な資金投資が必要で、技術集中型産業のため、生産設備、ハイテクチップ、金融POS端末など関連分野において、現状では海外企業に独占されている状態である。
 今夏には北京、天津、上海、杭州、広州、深センの六つの都市から第2世代IDカードへの切り替えが始まっている。第2世代IDカードは非接触式が採用されるが、デジタルカラーの印刷設備が富士ゼロックス(日本)とヒューレット・パッカード(米国)より提供される以外、システムの開発から製造まで国内指定されたいくつかの企業により共同生産される。このような政府の支援により、中国メーカーは非接触式へのシフトを加速されていくと思われる。一方、日本企業が中国市場で勝ち抜くためには、高度なハイテク技術を生活習慣や文化などに適合させた用途を開発し、かつスピーディに提供することが求められる。拡大するICカード市場を巡る国内外の企業間の熾烈な競争が幕を開ける。

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