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戦略的マーケティングのためのミクロ経済学入門 第1章 需給均衡の考え方 :需要と供給が生み出すゴールデン・クロス |
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菅野 守 |
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構 成
第1章 需給均衡の考え方:需要と供給が生み出すゴールデン・クロス
第1節 ミクロ経済学の考え方と方法論:概説
第2節 部分均衡分析のエッセンス(1):需要と供給
第3節 部分均衡分析のエッセンス(2):市場均衡と比較静学
第4節 部分均衡分析のエッセンス(3):需要及び供給の弾力性と比較静学
第2章 需要の源泉:ミクロ経済学における消費者行動理論の基礎
第3章 供給の源泉:ミクロ経済学における生産者行動理論の基礎(1):生産関数アプローチ
第4章 供給の源泉:ミクロ経済学における生産者行動理論の基礎(2):費用関数アプローチ
第5章 完全競争のミクロ経済学
第6章 不完全競争のミクロ経済学(1):不完全競争概説、独占・差別独占
第7章 不完全競争のミクロ経済学(2):クールノー型寡占競争
第8章 不完全競争のミクロ経済学(3):ベルトラン型寡占競争、独占的競争
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第1節 ミクロ経済学の考え方と方法論:概説 |
1.経済学とは
(1)本稿で採用する定義
「経済学とは、経済社会における経済主体、すなわち個人(消費者または家計)や企業や政府による、財またはサービスの配分・生産・分配に関する合理的行動の分析を行う学問」です。
(2)上記定義の吟味
1)経済学における分析の対象
:実際に観察される経済主体の行動、及び、その集大成としての経済現象
2)経済学における分析の基本前提
:経済主体の"合理的"行動
(Q1) | "合理的"とは? |
(A1) | 「経済主体は、自らが目指すべき目的・目標が定まった下で、当該目的・目標の実現にとって最も望ましい行動を選択する」ということ。
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(Q2) | "自らが目指すべき目的・目標"とは? |
(A2) | [ 例 ]
- 最大の満足を享受する、消費可能な総量を最大化する
- 報酬を最大化する、ないし、利潤を最大化する
- できる限り長生きをする
- 利払い負担を最小化する、税収を最大化する
(Q3) | なぜ、最も望ましい行動を"選択"するのか? |
(A3) |
- まず、自らが目指すべき目的・目標の実現という「アウトプット」には必ず、何らかの「インプット」が必要です。
- しかしながら、利用可能な「インプット」は世の中に決して無尽蔵には存在していない(財の稀少性)
- それゆえ、限られた「インプット」を用いて最大限達成可能な「アウトプット」を実現するためには、数多くある「インプット」の使い道の中から、いずれかを選択しなければなりません
- つまり、「インプット」には(その稀少性・有限性ゆえに)コストが伴い「アウトプット」はベネフィットをもたらすことを踏まえて、出来る限り少ないコストで出来る限り大きなベネフィットを実現できるような「インプット」と「アウトプット」の組合せを経済主体はどのように選択しているのか(或いはすべきか)を分析することが、経済学の課題です
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(Q4) | 最も望ましい行動として選択される「インプット」と「アウトプット」の組合せと、経済社会において実現される"配分・生産・分配"との関係は? |
(A4) | 最も望ましい行動として選択された「インプット」と「アウトプット」の組合せにより、それに相応した"配分・生産・分配"の結果が、経済社会において実現されます。
選択された「インプット」と「アウトプット」の組合せには、以下の情報が縮約されています。
1)どのような財を、どれだけ生産するか?=労働・資本・土地・時間などの有限稀少な資源を、どの財の生産にどれだけ配分するか(財配分の決定)
2)上記の種類と分量の財を、どのように生産するか(生産技術の選択)
3)生産された財が、誰にどのように分配されるのか?(分配の決定)
あるいは、次の理解の仕方をしても、議論の本質を失うことはありません。
1)どのような財が、どれだけ生産されるのか?(生産量の決定)
2)上記の分量の財を生産するために、労働・資本・土地・時間などの有限稀少な資源がどのように配分されるのか?(生産技術の選択)
3)生産された財が、誰にどのように分配されるのか?(分配の決定)
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(Q5) | 実際の経済社会においては、"出来る限り少ないコストで出来る限り大きなベネフィットをもたらす「インプット」と「アウトプット」の組合せ"は,いかなる仕組みを通じて実現されているのか? |
(A5) | "市場機構"を通じて、実現されます。
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では"市場機構"とは、一体何なのでしょうか?
以下にて改めて、議論することとしましょう。
2.市場機構とは
(1)本稿での定義
「市場機構とは、利用可能な技術・資源量の存在・消費者の選好などの情報を(価格などの変数との対応関係として表現される)諸々の財の需要条件及び供給条件という形で集約しつつ、(主として)価格の変動を通じた諸々の財の需給調整に基づいて、財配分の決定・生産技術の選択・分配の決定という三つの問題を解決していく仕組み」です。
(2)市場機構の核をなす要素
1)財の需要条件 ~ 需要関数「D=D(P;Zd )」として体現されます
- 需要関数:価格等の変数とその下で需要者が購入を望む数量との組合せ
- P : 価格
- Zd : 価格以外で需要に影響を与える要因
2)財の供給条件 ~ 供給関数「S=S(P;ZS )」として体現されます
- 供給関数:価格等の変数とその下で供給者が販売を望む数量との組合せ
- P : 価格
- ZS : 価格以外で供給に影響を与える要因
3)価格の調整を通じた、需給調整
- D(P;Zd ) > S(P;ZS ) ⇒ P ↑
- D(P;Zd ) < S(P;ZS ) ⇒ P ↓
- D(P;Zd ) = S(P;ZS ) ⇒ 価格調整完了
(3)市場機構を通じて実現される、財配分の決定・生産技術の選択・分配の決定のあり方:見取り図
図1-1-1 一般均衡分析 |
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出所)西村「ミクロ経済学入門」(岩波書店:1986年)P.7 図1-2 |
(4)市場機構の機能並びに価格の役割に関する、基本的分析手法
大別すると、以下のふたつです。
1)一般均衡分析:前記、生産物市場と生産要素市場の場合のように、関連した市場の間での相互依存関係を明示的に考慮して、複数市場を同時に分析する手法
2)部分均衡分析:あるひとつの財の市場に焦点を絞った上で当該財の価格の変化が他の財の市場に及ぼす影響を捨象し、且つ、他の財の価格を所与として一旦分析を進める手法
(この場合、他の財の価格をパラメターとして取り扱い、その変化の影響を別途考慮していきます)
(2003.10)
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- 【参照コンテンツ】
- 「戦略的マーケティングの経済学」(Economics of Strategic Marketing)の 提案
- 情報ディファレンスによる差別化-情報のマーケティング
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