半歩先を読む日本最大級のマーケティングサイト J-marketing.net

公開日:1999年01月01日

カシオ計算機株式会社
-市場地図を塗り替えた「G-SHOCK」の商品多様化戦略
戦略分析チーム 合田

全文の閲覧には有料の会員登録が必要です。
登録済みの方はこちらからログインして全文をご利用ください。

 97年度、カシオ計算機(株)(以下カシオ)は時計事業で前年比150.8%増となる売上高1,500億円の実績をあげ、老舗のセイコー(ウォッチ部門売上1,118億円)、シチズン時計(腕時計部門売上1,301億円)を抜き去りトップに立った。時計事業が牽引し、カシオ総体では売上高3,840億円(前年比110.8%)、経常利益259億円(前年比247.2%)と過去最高益をあげた。

 原動力となったのはG-SHOCKである。G-SHOCKは83年、重力(Gravity)の衝撃(Shock)にも耐える、つまり落としても絶対に壊れない腕時計として発売され、昨年「大ブーム」を巻き起こしたデジタル時計である。本稿ではG-SHOCKの誕生から現在に至る経緯を俯瞰し、その戦略と成功要因を探るものである。


1.時計事業の歴史と戦略

 カシオの時計事業は74年「カシオトロン」の発売から始まった。それはデジタルの液晶画面に当時は画期的だった自動カレンダー、時・分・秒・月・日付・曜日の表示機能を搭載したものであった。83年には、「G-SHOCK」を発売、現在では「DATABANK」(電話帳、計算機能、ワールドタイム機能を搭載するモデル)、「Baby-G」(女性用の小型G-SHOCK)、「PRO TREK」(高度、方位、気圧測定機能を搭載するアウトドアモデル)、「PRO TREK Ley」(女性用)、「HOTBIZ」「CYBERMAX」「META」「Csterna」など1万円台~5万円台を中心に計9つのブランドを展開している。

 その戦略は同一カテゴリー(腕時計)に複数のブランドを展開する、いわゆる「マルチブランド戦略」である。この数は同業他社に比べて決して多いものではないが、(セイコー49、シチズン17)両社に比べると企業名よりも個別ブランド名が前面に強調されているのが特徴だ。


2.G-SHOCKの誕生と歴史

(1)G-SHOCKの誕生

 腕時計がデリケートな精密機器で、落としたり乱暴に扱えば壊れるのが当たり前だった時代に、常識を打ち破る「耐衝撃」構造とデザインを搭載してG-SHOCKは生まれた。ファーストモデルDW-5000Cは「10年以上動き、10気圧以上の防水、10mからの落下に耐える」3つの「10」を目標に開発され(通称トリプルテン)、腕時計の駆動部(ムーブメント)をがっちりと包み込むのではなく、ケースの中で浮かせ点で支えることによって衝撃を和らげるという逆転の発想と、衝撃を吸収するウレタン樹脂のような緩衝材をいくつも使用することで耐衝撃性を可能にした。ベルトも壊れにくいプラスチック製。そのデザインは大きく厚く、頑強さをアピールする「黒」を基調にした個性的なものであった。

(2)G-SHOCKの製品展開の歴史

 登場から16年の歴史を重ねる中で、G-SHOCKは確実に進化を遂げ需要を拡大してきた。ここでは製品展開に焦点をあてその経緯をみてみることにする。

1) 海外での需要創造(1983年~1989年)

 最初に火がついたのは米国であった。84年「アイスホッケー編」と呼ばれるCF(G-SHOCKをパックに見立て、激しい強打に耐えるというもの)がオンエアーされ、それを誇大広告とみた民間のテレビ番組が公開実験を試み、逆にその耐衝撃性が実証されるや否や人気が爆発。まず「スケートボーダー」に、コンクリートにぶつけても安心な時計として受容され、ミュージシャン(スティングなど)や軍人などの熱狂的な支持に支えられ市場浸透していった。

2) 国内市場の立ち上がりと国内仕様モデルの大量投入(1990年~1995年)

 90年頃になると、国内のファッション雑誌に取りあげられるようになり、低迷が続いていた国内でも「ストリートカジュアル」と呼ばれるダブダブの服装を好む若者の間で指名買いが増え、店頭では一気に品薄になった。そして国内仕様モデルが続々と導入された(図表1)。


図表1 国内仕様モデルの大量投入(1990年~1995年)
 
 年代 品番 特長
  • 1990年
  •  DW-6000(1/1000秒まで計測できるストップウォッチ機能を搭載)
  • 1992年
  •  DW-6100(温度センサー、日の出・日の入演算機能を搭載)
  • 1992年
  •  AW-550 (アナログ+デジタル一体型のモデル)
  • 1993年
  •  DW-6200(DW-6000の第二世代モデル。初の左右非対称デザインを採用)
  • 1993年
  •  DW-6300(ISO規格準拠の200m防水機能を搭載のダイバーズスウォッチ。「フロッグマン」)
  • 1994年
  •  DW-6400(樹脂のボディに初めて金属カバーを採用。通称「ガンダム」)
  • 1994年
  •  DW-6500(気圧、水圧、高度演算機能を搭載。「スカイフォース」)
  • 1994年
  •  DW-6600(液晶面全体が発光するELバックライトを搭載した初号機。以降標準装備)
  • 1994年
  •  DW-6700(DW-6500の第二世代モデル)
  • 1994年
  •  AW-560(AW-550の第二世代モデル)
  • 1995年
  •  DW-6800(ELバックライトを搭載した角形モデル)
  • 1995年
  •  DW-6900(液晶画面を分割しクロノグラフ的なメカニカルなデザインを採用したモデル)
  • 1995年
  •  DW-8000(スロットゲーム機能を搭載したモデル)
  • 1995年
  •  DW-8100(樹脂のボディにメタルカバーを採用したモデル。通称「ドム」)
  • 1995年
  •  DW-8200(「フロッグマン」の第二世代モデル。防錆性を追求しチタンケースを採用)
  • 1995年
  •  DW-8300(DW-6400の第二世代モデル)
  • 1995年
  •  DW-8400(防塵・防泥機能を持つマッドレジスト構造を搭載。「マッドマン」)
  • 1995年
  •  DW-8500(電話番号などメモリー機能を搭載。「コードネーム」)


     G-SHOCKの製品数は90年の初めには数えるほどしかなかったが、94年頃から急速に増え始め、6年の間に計18のシリーズと300程度の製品が発売された(図表2)。

    図表2 G-SHOCK新製品発売数の推移
    図表

     カシオはこのように製品を一気に大量に投入することで低価格市場(3万円以下)における独自なカテゴリーを形成し若者を中心に需要を広げていった。とりわけ若者の集まる渋谷や新宿など繁華街を中心に丸井やカメラ量販(ヨドバシカメラなど)、時計量販の店頭において専用陳列ケースによるボリューム感を演出し、効果的にターゲット層を獲得していった。

    3) ラインの拡張とタイアップモデルによるブーム形成へ(1996年~1997年)

     しかし、94年辺りからG-SHOCKの売上は頭打ちになる。「頑強さを強調するあまり、黒一辺倒のデザインが消費者に飽きられてしまった」(商品企画部、日経ビジネス98.1.5)ためだ。96年以降はデザインとカラーのバリエーションが追求され、製品ラインが拡張された。価格帯も1万円~2万円台のものが中心だったのが、5万円台にまで拡大された。


    (YEAR)
    1996ビジネスマン向けの「MR-G」(メモリー機能搭載するフルメタル仕様のG-SHOCK。2万円台のものから5万円台のものまで広く揃える)
    1996モードと呼ばれる先鋭的な服装に合う「G-cool」(流線型デザイン)
    1997スノーボーダー向けの「X-treme」(耐冷仕様・布製ベルト採用)
    1997DJ向けの「G'MIX」(ビートカウンター機能搭載)

    などである。G-SHOCKの製品ラインは、上記4つに、MANシリーズ(先の「フロッグマン」、「マッドマン」に、96年に発売された釣り人用の「フィッシャーマン(チタンケース採用。潮の干潮計測機能搭載)」、97年の「ライズマン(圧力計と温度計を搭載したスカイダイビング用モデル)」を加えた4モデル)を加えた5つの製品ラインに拡張された。(図表3)


    図表3 G-SHOCKの製品ライン構成
    図表

     97年の8月には丸井内にカシオの腕時計だけを並べた「G-FACTORY」と呼ばれる売場スペースも設営し、増えた製品ラインを包含する店頭の受け皿も整備された。

     このような製品ライン拡大とは別に、地球環境保護団体、スポーツ協会、ファッションブランドなどとのタイアップモデルを発売することが熱狂的ブームへと発展した。

    • 96年~ 国際イルカクジラ会議への基金モデル(通称イルクジ)
    • 96年~ セレクトショップ「ユナイテッドアローズ」とのタイアップモデル
    • 97年~ WCCS(世界サンゴ礁保護協会)への基金モデル
    • 97年~ ISF(国際スノーボード連盟)とのタイアップモデル

     これらは通常のモデルにタイアップ先のネームとスケルトン(半透明)素材が使用されたものである。在庫リスクを回避するために「限定」として発売され、稀少性が高いことから、人気のモデルはプレミアム価格(10~20万円)で取引されたり、1人で10個も20個も持つマニアを出すまでになった。「G-SHOCK完全攻略本」なるものも多数発刊され、さらにブームを煽った。97年には需要の半数がこのような「限定品」によって構成された。


    続きを読む
    「ロングライフ化に向けた次なる展開(1998年~)」

    続きを読むには有料の会員登録が必要です。


    業界の業績と戦略を比較分析する


    おすすめ新着記事

    消費者調査データ 「ハーゲンダッツ」、「スーパーカップ」と首位分け合う
    消費者調査データ 「ハーゲンダッツ」、「スーパーカップ」と首位分け合う

    3年連続で過去最高を更新した冷菓市場、代表的な24ブランドについて調査した。結果は、「明治エッセルスーパーカップ」と「ハーゲンダッツ」が、店頭接触と購入経験では「エッセル」、今後の購入意向では「ハーゲンダッツ」が首位、3ヶ月内購入では「エッセル」と「ハーゲンダッツ」が同率首位と激しい首位争いを繰り広げた。

    消費者調査データ エナジードリンク(2024年4月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン
    消費者調査データ エナジードリンク(2024年4月版)首位は「モンエナ」、2位争いは三つ巴、再購入意向上位にPBがランクイン

    コロナ禍からの復調傾向がみられるエナジードリンク市場についての調査結果をみると、「モンスターエナジー」が複数の項目で首位を獲得した。2位争いを繰り広げるのは、「リアルゴールド」、「アサヒドデカミン」、「レッドブル・エナジードリンク」の3ブランドだ。

    成長市場を探せ クラフトジンがけん引 国産ジン、5年で3.9倍に
    成長市場を探せ クラフトジンがけん引 国産ジン、5年で3.9倍に

    2023年の国内ジン移出数量(出荷量)は、前年比113.4%の4,987キロリットルで、4年連続の2桁増となった。2017年にはそれまで横這いで推移していたジンの出荷量が前年比115.8%に、さらに2020年にはサントリーの「翆」が発売、市場は一気に1.5倍に拡大。その後も勢いは続き、2022年には初めて4,000キロリットルを超えた。



    J-marketingをもっと活用するために
    無料で読める豊富なコンテンツプレミアム会員サービス戦略ケースの教科書Online


    お知らせ

    2024.03.25

    当社合田執筆の「猛スピードのクルマはいらない」 これからの高齢化社会に必要な“まちづくり”とは何か? そのヒントは欧米になかった!」がメルクマールに掲載されました。

    新着記事

    2024.05.24

    消費者調査データ No.407 冷菓(2024年5月版) 「ハーゲンダッツ」、「スーパーカップ」と首位分け合う

    2024.05.23

    24年3月の「商業動態統計調査」は37ヶ月ぶりのマイナスに

    2024.05.22

    戦略ケース 三越伊勢丹の復活は本物か

    2024.05.22

    24年3月の「旅行業者取扱高」は19年比で94%に

    2024.05.21

    24年4月の「景気の現状判断」は2ヶ月連続で50ポイント割れに

    2024.05.21

    24年4月の「景気の先行き判断」は6ヶ月ぶりに50ポイント割れに

    2024.05.20

    企業活動分析 日清製粉グループの23年3月期は二桁の増収増益

    2024.05.17

    24年3月の「家計収入」は18ヶ月連続のマイナス

    2024.05.17

    24年3月の「消費支出」は13ヶ月ぶりのプラス

    週間アクセスランキング

    1位 2024.05.15

    MNEXT 未来を読むー四つの資本主義

    2位 2024.01.18

    「食と生活」のマンスリー・ニュースレター おにぎりブーム到来! おにぎりが選ばれる理由とは(2024年1月)

    3位 2024.03.13

    戦略ケース なぜマクドナルドは値上げしても過去最高売上を更新できたのか

    4位 2022.05.10

    消費者調査データ エナジードリンク(2022年5月版) 「レッドブル」「モンスター」認知率拡大、上位の牙城揺るがず

    5位 2023.04.05

    日本人の7割はチーズ好き ぜいたくニーズに支えられ伸長

    パブリシティ

    2023.10.23

    週刊トラベルジャーナル2023年10月23日号に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事「ラーケーションへの視点 旅の価値問い直す大事な切り口」が掲載されました。

    2023.08.07

    日経MJ「CM裏表」に、当社代表取締役社長 松田の執筆記事が掲載されました。サントリー ザ・プレミアム・モルツ「すず登場」篇をとりあげています。

    ENGLISH ARTICLES

    2023.04.17

    More than 40% of convenience store customers purchase desserts. Stores trying to entice shoppers to buy desserts while they're shopping.

    2023.02.22

    40% of men in their 20s are interested in skincare! Men's beauty expanding with awareness approaching that of women

    2022.11.14

    Frozen Foods' Benefits Are Expanding, and Child-raising Women Are Driving Demand

    2022.09.12

    The Penetration of Premium Beer, and a Polarization of the Growing Beer Market

    2022.06.20

    6.9 Trillion Yen Market Created By Women― Will Afternoon Tea save the luxury hotels in the Tokyo Metropolitan Area