
アメリカン・エキスプレス(以後、アメックス)は世界最大の旅行会社であり、なおかつ世界的な金融サービス会社である。日本ではアメックスカードで有名である。カード会員数は全世界で4,330万人にのぼり、200カ国以上で使用できる。
アメックスの中核事業は大きく五つである。
- 旅行関連サービス部門(カード事業を含む)
- 銀行部門
- 証券部門
- 保険部門
- 情報サービス部門
97年の売上高は178億ドル(1兆9,580億円、1ドル=110円換算、以下同様)、純利益は19.92億ドル(2191.2億円)である。売上対前年比109%、純利益対前年比115%である。利益の約70%を旅行関連サービス部門であげている。
(1) 総合金融サービス路線の挫折
アメックスは1980年代、ジェームス・ロビンソン会長の時代に「総合金融サービス業」の旗印を掲げた。81年には米国大手証券会社シェアソンを買収している。売上も順調に伸ばした。
しかし、91~92年に中核の旅行関連サービス部門(特にカード事業)、証券部門の業績低迷により大きく売上、利益が減少した。92年の純利益は4.6億ドル、対前年比41.6%となった。ムーディーズは91年にアメックス本体の格付けを従来のAa2からA1に2段階引き下げた。
カード事業低迷の原因は大きく三つ考えられる。ひとつは、リボルビング型の「オプティマ」カードで推定50億ドルの未払いが発生したことである。返済できない不適切な顧客にカードを発行したことが原因である。
ふたつめは、91年にボストンのレストランがアメックスの傲慢さと柔軟性のなさに抗議してボイコット事件を起こしたように、サービスの悪さがある。
三つめは、米国のカード競争が激しくなったことである。UCカード、VISAカードの急拡大や電話会社AT&TやGMなど異業種からの参入、JCBカードの日本からの参入などがこの時期に相次いだ。この結果、アメックスのシェアは25%から20%へ低下した。
アメックス全体の純利益と旅行関連サービス部門(カード事業含む)の純利益の推移

(2) 本業回帰
この状況を受けて、アメックスでは顧客サービスのあり方を全面的に見直した。さらに、赤字部門であったシェアソンの個人取引、資産運用部門を93年に総合金融サービス会社のプライメリカに売却した。ロビンソンの後任であるハーベイ・ゴーラブCEOは「中核事業であるカード部門に経営資源を集中させる」と宣言し、総合金融サービスから本業回帰と方向を転回させた。
本業へ注力した結果、カード取扱店、カード保有枚数、一人あたり利用額が増加した。90年に3,400万枚だったカード利用枚数が97年には4,270万枚に増加した。97年の一人あたり利用額は97年1,600ドル、対前年比6.8%の増加であった。
これを実現させたのは、アメックスと顧客、顧客と加盟店、加盟店とアメックスの三つの関係づくりを行い、それぞれの関係における満足を追求した結果によるものであった。つまりそれぞれのロイヤリティーを高めたことが成長の要因であると考えられる。アメックスと顧客の関係づくりは、最適なサービスを顧客に提供し、ロイヤリティーを高めることである。顧客と加盟店の関係づくりは、加盟店の顧客サービスのサポートを行い、ストアロイヤリティーを高めることである。そして、これは同時に加盟店のアメックスへのロイヤリティーを高めることにつながるものである。
おすすめ新着記事

消費者調査データ チョコレート 首位「明治チョコレート」は変わらずも、PBのリピート意向高まる
調査結果をみると、「明治チョコレート」が複数項目で首位を獲得、強さをみせたものの、「カカオショック」とまでいわれる原材料価格の高騰などによる相次ぐ値上げを背景に、再購入意向ではPBが上位に食い込んだ。

「食と生活」のマンスリー・ニュースレター 管理職は筋トレ率2倍! 20〜30代の美容・健康意識がプロテイン市場をけん引
健康意識の高まりや筋トレブームなどを背景に、プロテイン関連市場が成長しており、高たんぱくをうたうお菓子や、レトルト食品なども目にするようになった。今回は、プロテイン食品をどのような人が利用しているのかについて調査した。

成長市場を探せ コロナも値上げも乗り越えて成長するドラッグストア(2025年)
ドラッグストアが伸びている。コロナ禍でも医薬品や消毒薬、マスク、日用品などが好調で成長を続けた。2014年から23年の10年間で、チェーンストアの販売額がほぼ横ばい、コンビニエンスストアでも約1.2倍なのに対して、同期間でのドラッグストアの売上高はほぼ1.7倍に達する。



