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地域格差がマーケティングに与えるインパクト
71都市への人口集中
 本書をマーケティング的見地からみると、どのような示唆が得られるだろうか?
 もっとも着眼すべきことは、人口30万人以上の都市への人口集中である。2030年には約1,000万人の人口減少が予測されている。この影響を最も受けるのは地方公共団体などが提供している公共サービスである。人口減少によって公共サービスコストが上昇し、採算ラインを切り、維持できなくなる。多くの専門家の分析ではその分岐点となる人口は30万人と言われている。
 日本にある751市のうち、人口30万人以上は71市ある。ここでの人口増加、需要増加、雇用増加の善循環が起こる一方で、残りの680市は人口減少、需要減少、雇用減少の悪循環が起こる。こうして人口30万人以上の71都市への社会移動と人口集中が起こる。
 この地域変動は、マーケティングにどのような影響を与えるか。それは、つぎの四つである。

地域格差が変える製品ニーズ
 地域格差は製品開発、顧客ニーズにも影響を与える。
 例えば地域性ニーズ。既に「道の駅」などが繁盛しているように、地域性の強い商品に対するニーズは、地域活性化という地方団体の動きと相まって強くなっていくであろう。ナショナルブランドメーカーとしては、原材料段階での対応(ex.男前豆腐、サントリーモルツ)、アイテム段階での対応(ex.地域限定シリーズ)、ブランド段階での対応などが考えられる。
 また、移動ニーズも変わる。現在の需要の中心は15分程度の「チョイ乗り」の軽で十分というニーズから、人口集中都市への1時間移動のニーズに変わる。このニーズが強くなれば、走行性能、運転空間や環境はこれまでとは異なる準備が必要となる。
 もっとも多くの企業が考えなければならないのは、ライフスタイルが都市型と地域型で大きく異なってくるという点である。

地域視点の価格差別化の可能性
 地域格差は収入資産格差の影響を受ける。したがって地域によって購買力格差が出てくる。東京と沖縄では2倍の所得格差があると言われているが、もう少しミクロにみれば、格差はもっと大きくなる。富裕層の住む地域、下流が住む地域というように、アメリカほどではないにせよ、地域による購買力格差は拡がるという見方をするのが常識的判断となる。
 この変化は価格戦略を見直すチャンスとなる。顧客によって価格を変える価格差別化である。価格差別化といえば、地域限定のバリューパックなどが考えられるが可能性を追求すべきは「1万円のものを2万円で売る」という発想だ。キーワードは「コンシェルジュ・サービス」。製品にサービスやコンテンツを融合させ、高い価格にみあうだけの顧客価値を最大化するような価格戦略が考えられないだろうか?少なくとも富裕層はそうしたサービスを求めているはずだ。

エリアプロモーションとロングテール対応
 人口の都市集中化は商業サービスの集中化をもたらす。こうなると街というメディアの重要性が今まで以上に増してくる。街をメディアに需要を創り出すエリアプロモーションを活発化させる必要がある。すでにその傾向はみられる。「かむかむレモン」(リバティジャパン)は、ターゲットである女子中高生を狙って東急渋谷線沿線でのプロモーションによってヒット商品を作り出した。06年のヒット商品である「TSUBAKI」(資生堂)は大規模宣伝でヒットしたように思われるが、全国9都市で行われた大規模なイベントサンプリング、夏のレジャーシーンを狙った「TSUBAKI BEAUTY BEACH in 逗子」など、エリアでの地道なプロモーションを次々と展開することで相乗効果を生み出している。企業におけるメディアミックスの配分ルールを変えていく必要がある。
 もう一方、人口減少地域の需要はロングテール化していく。非常にマーケティング効率の悪いエリアとなる。こうした地域に効率的に対応しようとすれば、ネットを活用するしかない。自社ホームページでの通常の情報発信だけではなく、ショートフィルム型広告、YOU TUBEなどプラットフォームメディアの戦略的活用など都市部とは異なる仕掛けが必要といえる。

営業資源の再配分
 地域格差にともない最も大きな影響をうけるのが営業である。地域変動を先取りした営業資源(人・拠点・金等)の再配置が必要になる。現在、多くの企業の営業資源配分は、首都圏30~35%、近畿25%、中部15%、その他25~30%となっている。
 これからの地域変動を考えると首都圏40%、近畿25%、中部20%、その他15%といった再配分が必要といえる。これから5年先、10年先を見通し、現状のままではどのような不効率が起きるかを現段階からシミュレートし、効率、効果の上がる資源配分を考えなければならない。とくに営業拠点が固定資産になっている場合は、衰退する地域においては資産価値の高いうちに売却し、繁栄する地域については資産価値の安い今のうちに購入・移転するなどの措置が中長期的に影響を与えるであろう。
 また、人口減少地域においては、直行直帰システム、e-Workスタイル、セールスレップシステムなどワーキングスタイルの変革も必要となろう。


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