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消費経済レビュー Vol.26
格差拡大と階層化に関する論考

 全世界的なブームを巻き起こしたトマ・ピケティの『21世紀の資本』は、格差および格差拡大に関する研究や論争に再び活を入れる火付け役となっているが、『21世紀の資本』という著作に対する論評は、玉石混淆が甚だしい。
 『21世紀の資本』の中で紹介されている、ピケティとその共同研究者たちが十数年がかりの地道な収集・整理の積み重ねの上で新たに発見した事実は、「過去40年間に先進資本主義経済諸国で共通に認められるトレンドを生み出していると思われる現代資本主義に内在するより本源的な力」(Solow(2014))の解明への有力なヒントとなりうるものである。ニコラス・カルドアが示した6つの「Stylized Facts」(=定型化された事実)になぞらえるならば、『21世紀の資本』の中で紹介されている、長期間でかつ広範な地域にまたがる新事実の束は、Piketty(2014)の「Stylized Facts」(=定型化された事実)と呼びうるものとなろう。Piketty(2014)に高い評価が寄せられている背景には、Piketty(2014)の「Stylized Facts」を契機とした新たな経済理論の萌芽の可能性への期待と興奮が見え隠れする。
 Piketty(2014)に対しては、そこでの規範的な主張や提言に止まらず、使われているデータや、データのハンドリング手法、データから導き出したファインディングやそれに基づくロジックの展開に至るまで、全世界で、肯定派と否定派の双方の立場から、様々なレベルでの評価や批判が示されている。スティグリッツ氏やジョーンズ氏、岩井氏のように、Piketty(2014)に示されているデータに新たな視座から切り込み、新しい経済モデルの構築に踏み込んでいる動きが既に出てきている。新たに提示されるモデルのロジックが、たとえ、Piketty(2014)で示されているロジックを否定するものだとしても、ピケティとその共同研究者たちの地道な努力を何ら損なうものではない。否定派が示す反論の多くは、Piketty(2014)が抱える実証上または理論上の欠陥の核心を突くものではある。ただ、Piketty(2014)が「資本主義の中心的な矛盾」として強調した「r>g」(資本収益率rは経済成長率gを上回る)という不等式に対する否定派の反応の一部には、「議論以前」「問題外」として一顧だにしない"大人気ない"姿勢が透けて見える。
 Piketty(2014)で示されている日本に関する結果を中心に、日本における格差の状況と見通しを考察すると、日本の格差の水準や拡大ペースは、問題視すべきほど深刻なものではない。相続を通じた資産蓄積拡大への有効なブレーキとして、日本の相続税のシステムが今後もうまく働き続けるものと期待される。今後の格差拡大の可能性への懸念材料として、日本で英米流のコーポレートガバナンスの影響力が強まる可能性や、「経済的な格差が政治的な格差を引き起こし、政治的な格差はますます経済的な格差を拡大させる」という悪循環のスパイラルには、今後(も)十分な警戒が必要となろう。


(2015.04)


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